第137話 神を殺す怪物
「──────移動は毎回瞬間移動かよッ!!何処行ったか検討もつかねェだろーがッ!!」
「姿を……現しては……破壊を……撒き散らし……消える。その……繰り返し。次の……行動の……予測が……つかない」
「目的は何なのだろうな……?神界を滅ぼすのが目的ならば、間を開けずにやることだろう。しかし話を聞くに、間を開けてから襲って来るという。気分屋なのか……?」
「説得するのが……こんなに疲れることだったなんて……」
「ンだよ。じゃあ変わってやろーかァ?」
「私がやりますっ!!」
怪物が襲った形跡の近くから虱潰しに情報収集をしているオリヴィア、バルガス、クレア、シモォナ一行。彼等もまた、次々と神の国を滅ぼして回っている……ということはなく、これ以上国の最重要拠点の王都を滅ぼされる訳にはいかないと、シモォナが一肌脱いだ。
滅ぼす原因の怪物を倒してもらう為に態々連れてきたのに、その怪物を倒してもらう前に国を滅ぼされる続けるのは見過ごせないので、シモォナが交渉に出ていた。
地上の生物である龍を見られれば、忽ち何者だ……どうして此処に来た……何の用だ……さっさと立ち去れ……という聞き飽きた言葉が並べられてしまうので、どうにか必死に2匹へ説得を試み、不承不承といった形で隠れてもらう事が出来た。
向かってくるならば容赦は無く、慈悲も掛けない。例えそれが年端もいかない子供であっても、女であっても、老いたものであっても一切関係ないのだ。だがらシモォナがやるしかなかった。オリヴィアも居るのだが、バルガスとクレアのやることに否定はしないので助けにはならない。
全てとは言わないから、怪物について知っていることがあれば教えて欲しい。今怪物を倒すための戦士達を集めているところだ。そう説明して必死な表情で頼み込めば、事の重大さもあって教えてくれた。近くの国を襲って、村も合わせて壊滅させたとか、王都だけを襲って破壊したとか。
だがそれらの情報の最後には、必ずと言って良いほど忽然と姿を消してしまったというのが付いて回る。クレアが、毎回瞬間移動で移動している訳ではないだろうと高を括っていたが、フラグを回収したのか、ものの見事に移動は全て転移によるもの。何処から来て何処へ向かったのか解らないのだ。
そして疑問が1つ。神界を滅ぼすとも言われた怪物が、シモォナの権能を使用した事から、約一ヶ月間大きく攻めの一手に出ていない事が解る。強大な力を持っていて、神々ですら殺されるというのに、そんなにゆっくりとしているものなのだろうか。それが今一つ解らない。
「おい。本当に怪物は神界を滅ぼすつもりなんだよなァ?確かにオレ達が気配だけで認める強さはあるみてェだが、聞いてるだけじゃ神界滅ぼす気は無ェみたいだが?」
「過大……評価を……した……だけで……占いで……未来を……視た……神が……間違えた……だけでは……ないのか?」
「その線も考えられるな。滅ぼす力を持っていながら、ここまでゆっくりとしているのも不自然だ」
「違う……違いますっ!
「何で神が命を賭けてンだよ。どーせ復活すンだろうが」
「……しないんです。あの怪物に食べられると、復活出来ないんです」
「……へぇ?それはまた、良い力持ってンじゃねーか」
情報収集をしてきたシモォナから話を聞いていたオリヴィア達は、強さは本物だが神界を滅ぼすつもりは無いのでは?と疑った。しかしそれは尤もなことだと彼女を理解している。時間跳躍で過ぎてしまった時間が経っても、神界が大打撃を受けるほどの痛手は負っていなかった。
未来を占いという形で視たのは、シモォナの言うヨアンセヌという女の神だけだ。だから本当にそんな未来がある……ということは、残念だが言えない。強いて言えば、かも知れない……と言えることだ。だがシモォナはそんなことはないと思っている。何故なら、それだけ信用するに値する神だったからだ。
ヨアンセヌ。占いの神であった女神である。彼女は面倒見の良い神だった。他の神が知らないと言えば、快く教え、相談にも乗り、優しく微笑んでくれる神だった。恋愛に於いて不安になっていれば、少しだけ占ってこっそりと教えてくれたりもする面も持ち合わせていて、彼女を慕う者は多かった。
他でも無いシモォナもその1柱で、何かとお世話になったし相談にも乗ってもらった。以外にもシモォナは友神が作りづらいことを悩んでいて、それの相談であったり、友神の作り方等を親切に教えてもらった。そしてヨアンセヌも友神になってくれたのだ。
他愛ない話でも喜んで聞いてくれて、面白いと言ってくれる。そんなヨアンセヌがとても好きだった。だがある時、村が滅ぼされているのを見掛け、挙げ句にはその村があった領地を持つ王国すらも消し飛んでいた。ただ事ではないと察したのだろう。ヨアンセヌは自身の持つ占いの権能を使って未来を占った。
その結果が怪物の存在だ。占いに使う水晶でそれを視た時、ヨアンセヌ顔は驚愕に彩られ、そして顔を蒼白くさせて戦慄かせていた。これ程の存在がこの神界に居て、滅びようとしているのかと。それからはすぐに行動に移した。
占いで視た襲われてしまう所に赴き、そういう怪物が現れると警告した。しかし相手にされなかった。そんな存在は現れない。報告にも無いからだ。当然だろう。占いで少し先の未来を視ただけなのだから。故に信じてもらえず、挙げ句には、神ならばどんな者が相手だろうと滅ぼし尽くしてみせると笑ったのだ。そしてその数日後、国は跡形もなく無くなってしまった。
救える筈だったのに。避難さえさせることが出来れば散らなかった命があったのに。そう思い悔やんだヨアンセヌは、近場で襲われる場所があれば急いで避難するように告げ、怪物を倒せる者が居ないか占いをした。
占いの権能は視る未来が遠ければ遠いほど力を使ってしまう。だが現代で倒せる者は近くに居らず、居たとしても居る場所が遠すぎてコンタクトを取るのに相当な時間が掛かってしまう。悩みに悩んだ末に出した答えは、倒せる者を他の時間軸から連れてきて倒してもらうというものだった。
数千年の時を経た未来を占うとなると、莫大な力を使うので一瞬でも視れたならば御の字だ。それを数秒間覗き込み、リュウデリア達の存在を知った。彼等ならばきっと倒せる。そう確信した時、細かい時間軸の部分を占おうとした時、怪物が彼女達の元へやって来てしまった。
『──────シモォナっ!あなたは逃げてっ!』
『そんな……ヨアンセヌさんっ!あなたも一緒に……っ!』
『ダメよ。あなたの時間跳躍はあなただけでも負担が掛かって、誰かを共にするとなると膨大な負担が掛かってしまう。だから私の事はいいから、未来の……未来に居る彼等を連れて来て、あの怪物を倒して。お願いよ』
『ヨアンセヌ……さんっ!』
『──────あとはお願いね』
『ヨアンセヌさん!ヨアンセヌさんっ!!待ってて下さいっ!必ず、必ず役目を果たして見せますからっ!!』
『頑張ってね──────』
時間跳躍には集中するために時間が必要だ。しかし怪物がすぐそこまで来ている。このままでは間に合わない。そこでヨアンセヌは、行けば喰い殺されると分かっていながら立ち向かって時間稼ぎをした。約一ヶ月前のことだ。
時間跳躍を開始する寸前、シモォナは果敢に立ち向かうヨアンセヌの後ろ姿を目に焼き付けた。そして誓ったのだ。必ずや未来に居るという怪物を倒すことができる力を持つ者達を連れて来ると。もう会うことは無い、ヨアンセヌに。
怪物は神を喰らう。それは腹を空かせたから食べる……というものではなく、存在をそのまま喰らってしまうのだ。そして喰われたら最後、復活することは無い。その神の役に嵌まった神が生まれてくることはあれど、今までの記憶と記録は全て破却され、同じ者に会えることはなく、その記憶を持った者にも会えない。ある意味、神にとっての完全な死を遂げるのだ。
それこそが神にとって、怪物の最も恐ろしいところだ。殺されるだけならばそう大騒ぎはしない。問題だったのが、喰われれば神が復活できずに死ぬと解ったからだ。地上の生物は殺されればそのまま死ぬが、神は殺されても前までの記憶を受け継いで復活する。今までの者ではないが、同じ者でもあるという状態になる。
だから殺されるのは問題ない。しかし喰われれば、完全に死ぬ。それは地上の生物達が抱えている死への恐怖だ。死にたくない。殺されたくない。生きていたい。そんな純粋な思いを心に宿させる。しかし生への渇望を抱こうが、特別強くなったりはしない。意思1つで圧倒的力の差を埋めることは出来ない。この世界は、そんなに都合が良いことは起こらないのだ。
強ければ生き、弱ければ死ぬ。そんな当たり前が世界で広がっている。その『世界』は地上だけではない。神の世界である神界とて同じ。だから弱い神は怪物に喰われ、強い怪物がその猛威を振るうのだ。上と下が最早硬く形成された図表。その図表を外から砕くのが、リュウデリア達という訳だ。
「やっぱ神を根底から殺すぐれェの力はあると思ってたぜ」
「いくら……強くても……延々と……向かってくる……神々を……相手に……そう簡単に……勝てると……なれば……その位の……力は……あって然る……べき」
「神界そのものを滅ぼすのは、オレ達でも無理に近いからな」
神界を滅ぼすと聞いて最初に思ったのは、その存在は神を何らかの力で殺すことが出来るのではないか?ということだった。リュウデリアの侵蝕する純黒ならば、特別な事をせずに根底から殺す事が出来るが、最初のバルガスとクレアは無理だった。そんなに特別な魔力ではないからだ。
だから神を根底から殺せるような特別の魔法陣を構築した。そうしなければ神に勝てないと自覚していたからだ。その術を、最初から持っていたか、元々持っていた強さに後付けで手に入れたかのどちらかだと推測していた。そして推測通り、怪物は神を殺せる力を持っていた。
神殺しの力に、神を真っ向から捻じ伏せられるだけの力。それが合わさって脅威となっている。それを必死な表情をしながら訴えてくるシモォナに、本当に神界を滅ぼすのか解らないのならばこんな顔はしないか……と、取り敢えず更に追求しようとする言葉を口から出すことは無かった。
過去の時間軸に来てから、何かとぐだぐだとやっているので、なんかなーと微妙な気持ちになっているバルガスとクレア。着いたら怪物は近くに居らず、見つけようと動いても見つけられず、見たという声はあっても、何処へ向かったかは不明。何処から来たかも不明。結局どういった存在なのかも不明。解らないことが多すぎる。
空気と存在証明にも魔力を使っているので、延々とこの神界に居られる訳ではない。そもそもシモォナの時間跳躍が保つかも解らないのに、これ以上無駄なことをしていたくないのだ。そんな考えを抱いていると、バルガスとクレアの体がピクリと反応した。
偶然それを見たオリヴィアが瞬間的に警戒を露わにした。彼等がこのように反応するということは、ある一定の強さを持つ者の気配を感じ取ったか、直感で嫌な予感や何かが来ると察知した時だからだ。何かを感じ取っているのか、2匹の黄金の瞳が左右へ動き、目を見開くとクレアがオリヴィアを抱き抱え、バルガスがシモォナを抱き抱えてその場から退避した。
瞬間、先程まで居た場所が爆発した。いや、爆発だと語弊があった。何かが大地に上から叩き付けられたのだ。重く大きなものが、勢いを付けた事で起きた震動は大地震を思わせた。巻き上がった土が降り注ぐのを魔力障壁で阻んだバルガスとクレアは、ケタケタと笑い出した。
何を笑っているのかとオリヴィアが問うと、自分達が居たところを見てみろと言われたので目線を向けると、フードの中で瞠目した。見慣れた純黒の鱗。逞しい肉体。鋭い黄金の瞳。強者の覇気。落ちてきたのは、リュウデリアだったのだ。それもおまけ付きである。
「──────■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!」
同じ時間軸には来ていると分かっているが、無限に広がる神界ではぐれてしまったと思っていたリュウデリアを見つけることが出来た。そしてそんな彼は、皆が探し求めていた怪物を連れていた。しかし解せない。何故上から落ちてきたのか。
これはオリヴィア達が周辺から話を聞いていた時よりも少し前に遡る事になる。リュウデリアが怪物と邂逅をした、その時の話だ。
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バルガス&クレア
お願いだから交渉はさせて欲しいと必死にシモォナに頼まれたので、不承不承だが任せた。確かにいちいち向かってくる奴等を相手にしていても飽きるので、まあ良いかという感じ。
リュウデリア達が落ちてくるのを直感で察知した。なんか来る……?来るなこれ。しかもデカいのが。よし退避しよう。みたいな感じ。
オリヴィア
リュウデリアを見掛けることができて心底ホッとしている。会えないことは無いだろうが、一刻も早く会いたかったので胸が苦しい。まさか上から落ちてくるとは思ってなかった。
リュウデリア
上から落ちてくる。まあ落ちてくるというより、怪物に落とされたという方が正しい。今は怪物に夢中なので、いつもならば気がつくオリヴィア達に気がついていない。
怪物
神を喰らい、根底から殺す事ができる存在。
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