第120話 説明
「──────ゲート誰も創れねーとか、全員もれなくポンコツじゃねーかっ!」
「だってぇ!私ゲート創って地上に降りようと思わなかったんだもの!」
「私もそうね。今回が初めてよ」
「………………………。」
神のゲートが開く。雲が輪を作って別の空間と繋ぎ、中からオリヴィアの友神であるレツェル。リーニス。ラファンダ。そしてプロメスが落ちてくる。だが設定を間違えたらしく、かなり高所からの落下となった。
このままならばほぼ確実に即死。例え死んでも自分達ならばまた記憶を引き継いで復活できる。しかしプロメスだけはそうはいかないと、心の声が3柱とも一致し、自分達をマットにでもするつもりなのか、子供の姿故に小さいプロメスを抱き締めた。
しかし地面に落下することはない。何故ならば、見かねたオリヴィアがリュウデリア、バルガス、クレアに受け止めるように頼んだからである。レツェル達は高所からの落下でパニックになって彼等のことに気がついていないが、こちらはしっりと把握しているので心配は及ばないのだ。
遊びで造り出した土のゴーレムを遠隔操作する。リュウデリア達の造ったゴーレムは自重をもものともせず翼を使って飛翔した。落下中のレツェル達をしたからゆっくりと受け止める。受け止められた側の彼女達は最初こそ驚いたが、パニックも治まって周りを見る余裕ができた。
下を見ればオリヴィア達が見上げていて、穏やかに手を振っている。助けてくれたのだと現状を把握して、自分達を受け止めたまま飛んでゆっくりと着地してくれるゴーレムの頭を撫でた。ありがとうという気持ちを込めて。
「はぁ……一時はどうなることかと……」
「もう!ラファンダが任せてって言うから任せたのに!」
「私じゃなくても同じ事になっていた筈よ。だって私達こういったことにめっぽう弱くて足手纏いだもの。違う?」
「なんでそんなに自信満々で言えるの??」
「んぐっ……んぐっ……ぶはーッ……そんなもんはもう助かったんだからいいだろ。ありがとなオリヴィア。それとその連れの龍達もな」
「ケッ。敵じゃねェのかよ。武器の性能確かめる絶好の機会だと思ったのによ」
「少し……残念だが……オリヴィアの……友ならば……警戒はしなくて……いい」
「で、その汚い襤褸のようなプロメスは何だ?気配から察してもう死ぬぞ。いや、消滅か。俺には関係無いが」
何か訳ありようなので、助けたゴーレム達は元の土に戻した。聞く姿勢を取っているのは、他でも無いオリヴィアの友神であると分かったからだ。それ以外ならばきっと聞く耳を持たない事だろう。そして、リュウデリアが素朴な疑問を口にする。
レツェル達のことはしっかりと助けてやったので傷一つ無いが、一緒に居るプロメスは違う。左腕が肩から無く、体の前面には袈裟に掛けてつけられた大きな裂傷がある。頭からも血を流していて重傷だ。息もか細くて弱々しい。意識は失っていて戻る気配はない。
最高神というのは神格も最強レベルで権能も非常に優れたものを持っている。単純に強いのだが、プロメスを見ればそんなことは言えなくなる。一体何があったらこんな重傷になるというのか。リュウデリアの指摘にハッと思い出したレツェル達3柱は、オリヴィアの元まで駆け寄って両手を取って詰め寄る。必死な表情で見てくるので勢いも相まって少し瞠目して体を仰け反らせた。
「オリヴィアお願いっ!プロメス様を助けてっ!」
「“アイツ”にやられてもう死にそうなんだよっ!」
「このままでは彼が死んでしまうわっ!根底からの死、消滅よっ!」
「分かった分かった。取り敢えず落ち着け。何かと思えばそういうことか……」
「詳しいことは後で話すけど、プロメス様は他の神々を助けるために、ずっと単独で戦っていたんだ。長い戦いの果てに勝ちはしたけど今みたいに死にかけていて……オリヴィアが最高神を嫌うのは分かる、けど!プロメス様は私達のために戦ってくれたんだ!だから頼む!」
「……はぁ。何故完全消滅するかは、確かに後で聞こう。今は治癒をするから待っていろよ」
「本当に頼むぜ!プロメス様をここで消滅させる訳にはいかないんだ!」
「安心しろ。生きているならば死にかけだろうが
傷だらけのプロメスの傍により、手を翳した。純白の柔らかな光が照射されて治癒を齎した。無くなっている腕も、胴体につけられた引っ掻き傷のような大きい裂傷も、頭の傷すらも治っていった。呼吸も安定して静かながらはっきりとした息遣いが聞こえる。
例え部位の欠損であろうが、生きているならば治すことが出来るオリヴィアの治癒の力によって、プロメスは一命を取り留めた。やってくれたことに感謝しながらレツェル、リーニス、ラファンダがオリヴィアに抱き付いて口々にお礼の言葉を贈った。本当に助かったと。
一応眺めていたリュウデリア達は、直し終えたプロメスの周りに寄って囲い込み、上から覗き込んでいる。随分と早い再会となったが、プロメスの内に秘めた莫大な神格と強さの覇気から、最高神と言われるだけの実力は持っていると察していた。だが蓋を開けてみれば先の満身創痍である。つまりそれだけの強さを持つ奴が居たということ。
「絶対に強ェ筈のコイツがやられた……ねェ。神界だろ?ンな奴のそれらしい気配ってあの時感じたか?」
「いや……少なくとも……私は……感じなかった」
「俺も感知しなかったな。周りを巻き込んだ攻撃も幾つかした。それに釣られて来ても良いと思うが……相手は何だ?是非とも知りたいものだ」
「ん、んん……あ……れ……此処は……」
「流石に目を覚ますのが早いな、プロメス。オリヴィアとその友達に精々感謝するが良い。今のお前が居るのは全て彼奴等のお陰だ」
「そっ……か。ボクは……“アイツ”をどうにか斃して……」
普通ならば数日は目を覚まさなくても当然な傷だったのに、治癒してもらったと言えども、もう目を開けて現状を理解した。覗き込んでいるリュウデリア達の目を見て、何で彼等が居るのかを知る。助けてもらったならばお礼を言わないとね……と言って立ち上がった。少しフラついたが、それだけなので体調については大丈夫なようだ。
治癒を遣り遂げて友神に抱き締められているオリヴィアの元まで行くと、空気を読んでレツェル達が離れていった。プロメスは少し見上げて目を合わせる。オリヴィアは最高神という神が好きではないので胸の前で腕を組み、話し始めるのを待っている。
中々に不遜な態度なのだが、プロメスがそれだけで気分を害した様子は無く、むしろ子供のような、しかし理外の外にあるような整った顔を綻ばせてニッコリと微笑んだ。そして頭を下げたのだ。最高神ともあろう者が、他の神に。此処に近衛の神が居れば頭を下げる行為を咎めることだろう。
「オリヴィア、ボクを助けてくれてありがとう。本当に助かったよ」
「……ふん。友達に頼まれて治癒してやっただけだ。お前の為ではない」
「あはは……取り敢えず助かったよ。危なく消滅するところだった」
「お前をそこまで追い詰めたのは何だ?俺から言わせてもらえば、最高神でありそれ相応の莫大な力を持つお前があれ程の傷を負い、尚且つ消滅するような相手は思い浮かばん」
「右に同じく」
「同じく……思い浮かばない」
「……うん。助けてもらったからね。ここで何でもないと言うと無理な不自然さだから話させてもらおうかな。けどその前に……」
プロメスがパチンと両の手を合わせる。すると合わせられた手を起点として半透明な膜が広がって皆を多い包み込んだ。何をしたのかと聞くと、これは他の者から見えなくさせ、盗み聞きしようとしても会話の内容を認識できなくさせる結界であると説明があった。別に聞かれて今更どうなることはないが、念の為の措置である。
ついでにと開いた掌を下から上に持ち上げると、地面が動いて椅子の形になった。地べたに座って話すよりも、何かに腰掛けた方が良いだろうということで作ってくれたのだ。
オリヴィアやレツェル、リーニス、ラファンダがそれぞれ座り、リュウデリア達は尻尾があって座りづらいので尻尾の先を突き刺して背もたれに穴を開け、通すための場所を無理矢理作った。それで漸く座れた彼等に、配慮が足りなくてごめんねと謝るプロメス。それに対して手を適当に振って答え、それよりも話を聞かせろと言った。
自分達が戦わずして強いと認識しているプロメスがこうもやられた相手のことが知りたいのだ。チラリと斃したと言っていたのを聞いていたのでもう居ないと分かっているのだが、それだけの強さを持っている者が居るならば、是非とも聞きたいのが心の内の言葉だ。
「じゃあ話させてもらうね。ボクをあそこまで追い詰めたのは、“災厄の獣”と呼ばれている獣だよ」
「災厄の獣?神界に生息してる神獣か何かか?」
「神獣……とは違うね。ボクはまあ……ちょっと記憶も記録も無い状態で生まれたから知ることはそこまで多いわけじゃないんだけど、アレは神の獣ではなく……神を喰らう獣だよ。それも、その存在理由からか異様に強い」
「神を喰らう獣……な」
「オイ。オレとバルガスの方見んな」
「確かに喰ったが……獣では……ない」
「えっ!?あなた達神を食べたの!?」
「し、信じられない……」
「うっは!神食うのかよ!やべぇなそれ!面白くて酒が進むわ!」
「レツェル、飲み過ぎだ。あと話の最中だから没収だ」
「あぁんっ。オリヴィア様お慈悲をぉ……っ!」
瓢箪を持ってごくごくと中の酒を飲んでいるレツェルを見越して横から奪い取って没収したオリヴィアに、縋り付いて返してと言っている酒飲みは置いて置くとして、リーニスとラファンダはクレアとバルガスが神を食べたということを聞いて驚きを禁じ得ない様子だ。まさか地上の生き物が神を喰らうとは思わないだろう。
だが、問題はそこではない。神を喰らう災厄の獣。名前だけでも凶悪性が滲み出てくる。それに、神の強さは知っているので、それを喰らうというのだから単純な強さを持っていることだろう。何せ実際にプロメスが重傷を負ったのだから。
話しているプロメスが進めていく。災厄の獣は突然神界に現れ、そこらに居る神々を喰らって力をつけ、災厄を撒き散らしたのだそう。しかし突如何も無いところから出現したのではなくて、前最高神が自分の力で封印していたようで、彼が殺されたことで封印が破棄されてしまい、結果として神界に解き放たれたそうだ。
「……何故そこで俺を見る。俺は悪くないだろう。あの塵芥を殺さねばオリヴィアが囚われたままだった。そもそもそんな封印の事なんぞ──────」
『良いか、貴様が我を殺せば神界の──────』
「──────封印の事なんぞ何も言っていなかった」
「今記憶から何を消した??」
「何か……隠したような……気配がする」
「はんッ。俺のオリヴィアを攫っておきながら妃だの何だの宣う塵芥を殺しただけだ。俺は悪くない。そもそも神界が滅ぼうが興味なんぞないわ」
「開き直りやがった」
「オリヴィア愛されてるわねぇ……」
「私の方が愛しているがな」
「あとで詳しく聞かせてもらわないとっ」
レツェル、リーニス、ラファンダで固まり、キャーッと黄色い声を上げている。オリヴィアは背筋にゾクリと嫌な予感を感じた。主に自身のリュウデリアとの仲を根掘り葉掘り聞かれそうな、そんな予感である。
取り敢えず話を戻すと、プロメスが戦っていたのは前最高神が封印していた災厄の獣であるということだ。神を喰らう者ということで権能そのものが効きづらく、体力も無尽蔵に感じるほどあって膂力も果てしないことから戦いが長引いてしまい、今の今まで戦っていたのだそうだ。
そして、災厄の獣の中でも最も大事なことがまた話されていない。プロメスは確かに最高神となって日が浅く、権能の使い方も完璧とは言い難い。戦い方というのも今のところはゴリ押しでやっており、戦略も何も無い状況だった。だがそれでも四天神を同時に相手して尚且つ余裕で勝てるだけの強さはある。しかし……。
「あの災厄の獣は末端だったんだ」
「……何?」
「本体から切り離されたものの一部ってこと。それも恐らく一番弱い奴だね。鑑定眼を使って調べたから間違いない。最低でも本体から切り離された端末は4匹居たと思う。理由までは視えないから解らないけど、本体も合わせて5匹だね」
「……既に残っていたのはお前が殺した末端だけなのだろう?」
「そうだね。アレで最後の1匹だよ。多分だけど、前の最高神が戦いの最中に接敵したあの1匹をどうにか封印して捕まえたんだと思う。あの強さだからね。兵器運用でも考えていたんじゃないかな?結局強すぎて封印するしか手がなくなったのだと思うけど」
「ケッ。つまんねーの。ンなに強ェならちょっと
分かっていた事だが、やはりつまらない。そういう考えが3匹から読み取れる。鑑定眼で見たので残りはもう居ない。本体すらも過去に葬り去られたのだろう。その手を是非とも教えてもらいたいものだが、最早誰が知っているのかも解ららない。まあ、もう終わったことなのでそこまで知りたいと思うわけでもないが。
残念だったなー。そうだな。残念だ。そんな緩い会話をしているリュウデリア達は呑気だが、密かに鑑定眼を起動して視たプロメスは解っている。彼等から立ち上る強さの覇気が、先程まで戦っていた末端の災厄の獣よりも遥かに強いということを。
赫。蒼。純黒。その色のオーラがそれぞれの体から発せられていて立ち上っている。武器を造ってもらってからはその強さがより増している。本人達は気づいていないようだが、意図していないだろうが、勝手に呑み込まれてしまいそうだ。
普通ならば最高神という存在が手こずったのだから、斃されて喜ぶべきところを残念そうにしている3匹を見ながら、プロメスは任せても良かったかなと少しだけ思い返した。
──────────────────
プロメス
助けてもらったことに感謝している。後少しで消滅するところだったと自覚しているから。レツェル、リーニス、ラファンダからは様付けで呼ばれているが、別に強制はしていない。最高神だからと少し警戒されていたけれど、他の神々の為に戦ったりしていたら自然と皆から様付けで呼ばれるようになっていた。
権能を創る権能で治癒の権能を創ってやることも出来たけれど、練度がまだ足りず、上手く創れない上に気絶していたからどちらにせよ使えなかった。オリヴィアは何気なく治癒の力を使っているが、本当ならばめちゃくちゃ難しい。
龍ズ
ゴーレム遊びしようとしたら出鼻を挫かれた。まあ強そう奴の話し聞けたからいいかと思っている。レツェル達のことはリュウデリアから聞いて敵ではないと把握しているクレアとバルガス。
オリヴィア
友神に言われたのでプロメスを治癒した。本当は最高神そのものが嫌いになっているので自発的に治してやろうとは考えない。消滅しても知ったことではないと考えている。何故なら最高神の役にまた当て嵌まる神が生まれるから。
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