第82話  終幕






「術式展開──────『総黑終始零世界くろのせかい』。ようこそ、純黒の世界へ」




 魂に刻まれた唯一の術式を読み解き、現実に展開する御業。融合魔法が出来る者でも辿り着けないとされる、もはや伝説にすら数えられる代物。それをリュウデリアはいとも簡単にやって見せた。だが、これをやるということは、それだけ追い詰められているという証明であり、これで決めなければ後が無いということに直結する。


 奥手の中の奥の手。友であるクレアとバルガスよりも魔力量が圧倒的に多いリュウデリアを以てしても、莫大だと言ってしまえる程の消費魔力。しかしその代わりに、与えられるアドバンテージは計り知れないものとなる。己に絶対有利な状況に持っていける領域に相手を強制的に引き摺り込むのだ。


 その場合、権能を持っている神の、最高神デヴィノスであろうと例外にはならない。純黒は総てを呑み込み塗り潰す。魔法だけでなく、権能も範囲内であることは、デヴィノスの使用した権能が、リュウデリアに効かなかったことで実証済み。つまり、呑み込まれれば最後、自力で抜け出すことは不可能である。


 術者を殺すか、同じ術式展開で対抗して打ち勝つか、相手の魔力が尽きるのを粘るかしか回避方法が無い。そしてリュウデリアの魂の術式展開に於ける真髄は、有りと有らゆる異能の無効化。よって呑み込まれた後で同じ術式展開で対抗することは不可能。発動されてしまえば終わり、発動すれば価値が確定する奥の手は、まさに最強の一手だろう。


 だが実際のところ、リュウデリアはこの魂の術式展開をあまりしたくはなかった。何故ならば、最終奥義で発動すれば勝ち確なので、使うとすれば使わなくてはならない時に限定される。要はそれ以外では勝てないと認めてしまう事になる。だから出来れば使いたくなかった。


 使いたくなかった……が、オリヴィアの為ともなれば話は別だ。愛している大切な存在を連れ攫われて、更に相手が強大な神ともなれば、リュウデリアはいくらでも使うだろう。故に、デヴィノスは詰みだ。ここまでである。後は死を待つだけ。それを理解しているのだろう冷や汗を掻いているデヴィノスだったが、あることを思い付いて不敵に笑う。


 殺そうと魔力を練り上げたところで、デヴィノスは駆け出してオリヴィアの元へ向かった。まさかこっちに来るとは思っていなかった彼女は、首に腕を回され、右腕の関節を背後で決められた。どうだと言わんばかりの顔をするデヴィノスに、リュウデリアは……まあそうするだろうなと嘆息した。




「貴様の目的は我の妃だろうッ!!ならば今すぐこの純黒の空間を解けッ!!さもなくば殺してやるぞッ!!」


「お前の妃ではない。。……それにしても、はッ!あれだけ偉そうに上からモノを言っていたお前が、追い詰められたら取る行動がソレか?ほとほと呆れて何も言えんな」


「……っ……リュウデリア……っ!」


「くっ……黙れッ!!貴様程度の有象無象が我を見下すなッ!!良いか、貴様が我を殺せば神界の──────」


「知るか。神界が滅びようが何だろうが、俺には関係無い。滅びるならば勝手に滅びるが良い。俺の目的は最初から、オリヴィアだけだ」


「……ッこの……ッ!!分を弁えろ有象無象ッ!!貴様如きが我を殺そうなど不敬が極ま──────」




「──────




 リュウデリアの魔力が全て解放される。体内に存在するあまりに莫大な魔力。それが放出されて柱のように立ち上る。威圧感は圧倒的で、身の毛もよだつ圧力をデヴィノスに与えた。やれるわけがない。やるわけがない。こちらには目的であるオリヴィアが居る。この存在そのものを震えさせる圧力を持つ魔力を差し向ければ、諸共死ぬのは明白。故にやらない。


 そう思っているデヴィノスに反して、リュウデリアは立ち上る莫大な魔力を一カ所に凝縮させていく。形成されるは純黒なる球体。確かな絶望。総てを呑み込む純黒なる魔力の特異点。これを解放すれば、訪れるのは避けようもない死だけだ。


 実のところ、リュウデリアは自身の魔力総量を把握していなかった。その理由として、あまりに多過ぎたからである。多過ぎて、自身でも把握しきれない程の代物を、たった一つの小さい球体にして固めている。


 人間が100の魔力総量を持っていて炎の球を飛ばすファイアーボールを撃つのに20の魔力を消費していくとする。すると残りは80となり、残りのその魔力で他の魔法をやりくりしなくてはならない。だが彼の場合は違う。測定不能の魔力総量で、ファイアーボールにどれだけの魔力を注ぎ込むかを決めるのだ。同じ魔法でも籠めた魔力の多い方が基本勝つ。だから初級魔法に2000も3000も魔力を籠めることが出来る。


 つまり、普通は減点方式で魔法に魔力を籠めている皆と違って、どれだけ魔力を籠めるかと考えて、適当に籠めるリュウデリアとでは根本的な部分が違う。それだけの魔力を、全て解放してぶつけようとすれば、どうなってしまうのだろうか。


 これだけ考えても想像することすら出来ないというのに、リュウデリアはここにダメ押しを用意していた。戦闘の最中に術式を構築して自身に刻み込んでいた魔法陣。その正体は、変換の魔法陣。あるものをあるものへと変換するだけの魔法なのだが、この時に設定した効果は、デヴィノスをより追い詰めるものとなる。




「やめろ……やめろ貴様ッ!!目的のオリヴィアを共に殺すつもりかッ!?」


「黙れ塵芥が。俺がこれまでに受けたものを全て返してやる」


「全て……?貴様は一体何を言っているッ!!」


「怒り。憎しみ。焦燥。そして……痛み。これらを全て変換する。これは莫大だぞ?魔力と感情は密接な関係があるからなァ?さぞや変換効率が高いことだろう。痛みとてそうだ。お前は満身創痍の俺をこれ見よがしに殴って蹴ってくれた訳だが、この俺が唯一方的にやられて終わると思うか?全てはこの時の為に用意した工程の1つでしかない。故にお前は、唯々己の首を絞め続けていたのだ。さて、もう説明は要らんよなァ?潔く死ね」


「何度も言わせるなッ!!諸共殺すつもりかと言っているのだぞッ!?」


「フハハ……俺がオリヴィアを殺すものかよ」




 賢明にオリヴィアを人質として確保して、リュウデリアに攻撃態勢と、くろのせかいの解除を求めている。当然そんなものを受け入れるつもりが欠片も無いと示すが如く、負の感情と痛みによるダメージを魔力に変換し、凝縮させている魔力に加えていった。途方も無い莫大な魔力に、変換した莫大な魔力を混ぜていく。


 そのまま解き放てば十分殺せるというのに、何もかもを出し切って絶対に殺してやるという気概を示す。逃がさないし逃げられない。外さないし外させない。デヴィノスからしてみれば、止まることの無い死の恐怖を与えられ続けているのだ。


 凝縮させている純黒なる魔力の球体を口を開けて囲い、今にも解き放とうとしている。もう死は目の前まで来ている。オリヴィアを盾にしているのに攻撃態勢は止められない。何故目的の彼女を人質に取られて止まらないのだと、焦燥と憤りに支配される。


 そんなデヴィノスに拘束されて人質にされているオリヴィアは、リュウデリアが何かを既に施している事を確信していた。絶対に何かをしていて、自身には影響を及ぼさないようにしている。なのに、ソレが何なのか解らないのだ。焦っているデヴィノスにいい気味だ、死ね。と、思っている傍らで、その何かを考えている。


 自身が死なないように何をやったのか。それを考えていると、懐が暖かい事に気が付く。関節を決められている右腕は使えないので、左手で懐から暖かい物を取り出す。それはリュウデリアに貰った御守りだった。自身の身を案じて、態々創ってくれた大切な御守り。純黒な御守りに指を這わせていると、小さく凹んで幾何学模様を作っている事を知る。


 御守りには魔法陣が刻まれていたのだ。オリヴィアの為に創られた御守りは、いざという時に効果を発揮する代物で、その効果は魔法である。その代わりに媒体となる御守りは破壊される。一度きりのもの。純黒の空間でそんなものは発動しないと思われるが、純黒の空間では純黒だけが例外となる。故に、御守りを持っているオリヴィアは死なない。


 それに気が付いたオリヴィアはハッとしたようにリュウデリアの事を見て、気付いたのだと察した彼は小さく頷いた。微笑みを浮かべる。本当にすごいなと。ありがとうと。彼だけにしか向けない愛の籠もった微笑みを贈るのだ。




「これが俺の全力全魔力の──────」


「やめろッ!!それを我に向けるなァッ!!!!」




「やってしまえリュウデリア──────こんな奴は殺してしまえ」




 口内から外へ溢れるリュウデリアの全魔力。百余年生きてきて初めてとなる、正真正銘の全魔力解放。どれだけの威力になるかは本人にも解らないが、最高神デヴィノスを消し滅ぼすだけのものは持っている。


 最早オリヴィアは盾の役割をしていない。あれだけ我の妃だと言っておきながら弾き飛ばし、踵を返して後ろへ逃げ出した。どこまでも続く純黒の空間で逃げ場は無く、そして解放される魔力を防ぐ手立ても無い。決別の時である。






「──────『總て吞み迃む殲滅の晄アルマディア・フレア』」






 視界の中には収まりきれない大きさをした純黒の光線が、デヴィノスに向けて解き放たれた。




 走って逃げられる訳がなく、刹那の内に追い付いて呑み込んだ。抵抗も無く、まるで最初から存在していなかったように純黒の下に消し飛んだ。完全な根底からの消滅。神界を統べる最高神デヴィノスは、リュウデリアによって殺された。


 そしてオリヴィアも光線に巻き込まれた。突き飛ばされて座り込んでいる状態だが、手に持った御守りが発動し、球状の障壁が展開されて純黒の光線を防いでくれていた。やはり彼が救ってくれて、彼が護ってくれていた。本当にすごい奴だと、目尻に浮かんだ涙をそのままに微笑んだ。


 純黒な空間である、くろのせかいが崩壊する。罅が全体に広がり、砕け散っていく。景色が変わり、元の宮殿内部の玉座の間に戻ってきた。しかし解き放っている純黒の光線はまだ健在であり、デヴィノスの為に創られた玉座を消し飛ばし、壁を破壊して神界の無限の彼方へと突き進んでいった。


 神々はその日、目にした。あまりに大きすぎる純黒なる魔力による光線が世界樹の頂きから真横に飛んで行き、衝撃の余波を届けてくる。そして理解した。あれは死だ。何もかも、総てを呑み込む絶対の死だと。


 万人ならぬ万神に恐怖を与えた純黒の光線が少しずつ細くなっていき、最後は掻き消えた。玉座の間では純黒の結界から現れたリュウデリアの光線の威力に体を屈め、皆で身を寄せ合って耐えていたオリヴィアの友神の酒の神レツェル。料理の神リーニス。智恵の神ラファンダと、デヴィノスに従わせられていた女神達が居た。


 光線が止むと恐る恐る顔を上げ、デヴィノスが居なくなり、リュウデリアとオリヴィアが帰ってきたことを確認すると、レツェル達はあのデヴィノスに勝ったのだと察してオリヴィアの元へ駆け出して、一斉に抱き付いた。全員で来られたオリヴィアは驚いた表情をしながら、耐えきれずに後ろへと倒れてしまう。




「良かったぁあああああああああっ!良かったよオリヴィアぁあああああああああああああっ!!」


「オリヴィアの気になる子は強いわっ!!本当に強いっ!!あのクソゲスゴミ野郎を本当に斃しちゃうんだものっ!!」


「怪我は無いかしらっ!?大丈夫っ!?」


「ぅわっぷ……っ。大丈夫だ、私は大丈夫だっ!心配を掛けてすまなかった。リュウデリアのお陰で私は何ともない。ありがとう。それにリュウデリアも本当にありがとう。……リュウデリア?」


「………………………………。」


「……っ!?えっ……っ!?なになにっ!?」




 驚いた声を出すレツェル。それもその筈。底まで大した身長差が無かったリュウデリアの体が、大きくなっていくのだから。だが実際は元の大きさに戻っていると言った方が良い。何せ、使ってしまったのだから、小さなサイズを維持できる筈も無い。


 見上げるほどの、約30メートルの巨体になり、足場になっている宮殿が崩壊していく。幸いオリヴィア達が居るところは崩壊しなかったが、その他の部分は殆ど崩れてしまった。そして、上から大量の血が滝のように流れてくる。全てリュウデリアの血だ。


 流れようとする抉られたり、斬られて負った傷を凍らせた純黒の氷が魔力不足によって消失したのだ。よって傷口が剥き出しになって血を流している。鉄臭い血が降り注いでオリヴィア達は頭かから掛かる。レツェル達が悲鳴を上げている中、オリヴィアだけは呆然としていた。致死量の出血だ。声を掛けたときも何の反応も示さなかった。まさか……。


 そう思った時に、神界から地上へ渡るときに使うゲートが開いてリュウデリアを吸い込み始めた。当然だ。魔力が無いから存在証明も出来ないのだから。オリヴィアは彼にしっかりしろと、血を浴びながら叫ぶ。しかし彼の残る右腕はだらりと垂れており、返事は来ない。顔がかくりと下を向いた時、息を呑んだ。黄金の瞳が、殆ど光を宿していなかったのだ。




「リュウデリア────────────ッ!!!!」




 オリヴィアが必死に叫ぶ中、彼の体は倒れるようにゲートに呑み込まれていった。


















 地球の遙か上空で、リュウデリアは落下していた。地上に背を向けた状態で墜ちていく。体は動かない。頭も働かない。何もする気がおきない。思考には靄が掛かったようになり、視界も霞んでいる。これはもしかして死ぬのかと思うと、すんなりと胸の中に嵌まった。


 そうか。出し尽くしたのか。リュウデリアはそう思った。だがまあ良いかとも思う。一緒に生きていくことが出来なくなってしまったが、オリヴィアを救うことが出来たのだから。最後の最後で心残りが出来てしまったが、これ以上の事を求めても仕方ない。




「……今…日……は………良……い………天…気……だ……な……────────────」




 薄らぼんやりとだけ覚えている、両親に捨てられて大空を独りぼっちで落下した時に見た光景。青空が広がり、真っ白な雲があり、太陽が昇っている。ありふれた光景で何度も見たものだが、何だか懐かしい気持ちになった。


 遙か上空から落下し続けた黒龍はたった一匹、受け止められる事も無く、そのまま固い大地に激突した。地が揺れ、草木は衝撃波に煽られ、砂塵が舞う。黒龍は地に墜ちた後、動くことはなかった。
















「──────リュウデリアッ!!あぁ……ぁあああああ……っ!!リュウデリアぁっ!!」


「…………………………。」




 急いで神のゲートを潜って地上にやって来たオリヴィアは、リュウデリアの事をすぐに見つけた。だがピクリとも動かなかった。左腕は無く、翼も右側が無く、体には穴が開いていて、深くて大きな切り傷がある。血はもう出し尽くしたとでも言いたいのか、思いの外出ていなかった。


 涙がぽろぽろと零れ落ちるのを拭いもせず、両手を向けて純白の光りを発した。治癒の力だ。懸命に治そうとしているのに、傷付いたリュウデリアの肉体は、一向に治らない。例え部位の欠損だって治癒してしまう筈の自身の力は、全く彼を治してくれない。どうして、どうしてだと叫びながら続けていると、リュウデリアの瞼が少しだけ開いた。


 まだ生きている。光りが殆ど失われている、くすんだ黄金の瞳だが、自身の事を捉えて見つめている。だから、涙を流しながらだが安心させるように無理して微笑んだ。




「だ、大丈夫だぞっ。わ、わたし……っ…私が綺麗にっ……治してやるからなっ」


「……む………だだ…………」


「な、治ったら何が食べたいっ?腕によりをかけて美味いものを食べさせてやるぞっ」


「もう………て…お……くれ……だ……」


「私が攫われて行けなかった街に行くのもいいな!もしかしたらそこにしかない美味しいものがあるやも知れんぞっ!」


「……意味……が……な……──────」


「──────言うなッ!!!!お前は死なせないッ!!私が絶対に治してやるッ!!だから弱音を吐くなッ!!いつものお前はどうした!?傲岸不遜に嗤い!胸を張って自信を抱き!気高き龍の魂を持つお前はどうした!?お前は死なないッ!!絶対に死なないし、死なせないッ!!」




 オリヴィアは叫んだ。リュウデリアの否定する言葉を更に否定するために。言わせないために。でないと、頭では解っていることを実感してしまいそうで、堪らなく怖いから。しかし治癒の力を使っていても治らないことは変わらない。


 治癒とは、生きている者に対して有効な力だ。死んでいる者の傷は治すとは言わない。治すという範囲に居ないのだ。彼は満身創痍に見えて、本当は限界だった。玉座の間に着いた時には殆ど肉体は死にかけ、デヴィノスからの攻撃で肉体は一時的に死んでいた。それを魔力で無理矢理魂と繋ぎ合わせ、気休め程度の時間稼ぎをしていたに過ぎない。




「すま……ない……お前と……もっ…と……ともに……生きた……かった………」


「やめてくれ……なんで今そんなことを言うんだ……っ」


「一緒に……過ごし……て………1年……も…経って……いない……が………お前を……愛しく……思っ……て……いる……」


「わ、私もっ……私もお前を……リュウデリアを愛しているっ!だから、な?これからも私と一緒に生きよう?そんな別れの言葉みたいなことは言わないで……なぁっ?」


「愛して……いる……心から……オリヴィア……を………今……まで……──────」




 ──────ありがとう。




「リュウデリア……?」


「…………────────────。」


「なぁ、返事をしてくれ。リュウデリア、もう一度愛していると言ってくれ」


「────────────。」


「ぁ……ぁぁ……ぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!ダメだダメだダメだダメだっ!!起きろリュウデリアっ!!死ぬなっ。死なないでくれっ!!」




 オリヴィアは何も言わなくなって、瞼を閉じ、血も流れなくなったリュウデリアに向けて只管治癒の光を与えた。だがやはり傷は治らず、それは単純な死を意味していた。


 認めない。絶対に認めない。頭では理解していようと納得は絶対にしない。そして諦めない。治癒を施す純白の光りを与え続ける。全力で。これ以上無い程に。すると、リュウデリアの肉体が少しずつだが治っていった。オリヴィアは瞠目したが、すぐに気を取り直して治癒を施し続けた。




「リュウデリアっ!!目を覚ませっ!!リュウデリアっ!!」




「──────オリヴィアっ!!」


「……っ!!リュウデリアから……気配が消えている……魔力も感じられない……クレアッ!!」


「任せろッ!!お前は赫雷で心臓を刺激しろッ!!オレは魔法で酸素を無理矢理肺にぶち込むっ!!オリヴィアッ!!気持ちは解るが少し下がってろッ!!コイツの肉体は生半可な電気ショックじゃ反応しねェからバチバチにやっから危ねェぞッ!!」


「ぁ……クレア……バルガス……っ」




 肉体は傷一つ無い状態に戻った。なのに息は止まったままで、心臓も動いていない。そこへ、全身傷だらけのクレアとバルガスが駆けつけた。オリヴィアの気配を感じて飛んできたのだ。そして動かないリュウデリアを見てすぐさま察して心肺蘇生に入った。


 バルガスの赫雷が胴体に流し込まれて心臓を刺激し、クレアは魔法で無理矢理開けた口の中から肺へと酸素を送り続ける。本当は2匹とも立っているのが辛いくらいの重傷の筈なのに、懸命にリュウデリアを蘇生させようとしてくれていた。







 オリヴィアは言われたとおりに離れたところで見守りながら、両手を合わせてリュウデリアの無事を祈る。どうか、死なないでくれと。それだけを。





 ──────────────────



 リュウデリア


 玉座の間に着いた時には肉体が死にかけていて、デヴィノスとの戦闘で肉体が先に力尽きた。だが魔力だけで魂と肉体を繋ぎ合わせ、どうにか戦っていた。





 オリヴィア


 リュウデリアの肉体を治癒することに成功するが、心臓が動き出してくれなかった。今はもう見守ることしか出来ない。歯痒い気持ちが有るが、死なないでくれと、心の中で祈っている。





 クレア&バルガス


 先に帰ってきていて、少し休憩していると地上にオリヴィアの気配を感じたので真っ先に飛んできて、心停止しているリュウデリアの蘇生に取り掛かった。体中が痛くて、正直言うとかなりしんどいし魔力も少ししか回復していないので心許ないが、全力で救おうとしている。





 レツェル&リーニス&ラファンダ


 正直リュウデリアがデヴィノスを本当に斃すとは思わなかった。だが超嬉しい。


 リュウデリアの血に塗れているが、オリヴィアが血相変えて地上へ行ってしまったので、自分達は取り敢えず崩れそうな宮殿から、愛神にされていた女神達を連れて脱出した。





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