第67話  攻撃開始

 




「──────それでそれで!?」


「一緒にお風呂に入って!?」


「べ、別に興味があるわけではないですが、これは……そう!友神が気になっている相手にどういうアプローチをするのかを聞いているだけでありまして決してそういった事に対しての興味を持っていて根堀り葉堀り聞こうとしているわけではありませんのでそこら辺は──────」


「はいはい。ラファンダの言い訳はいいから。で、でっ!?どうなったの!?」


「い、いや……洗ってあげて、それで……」


「何で洗ったの!?素手!?体!?」


「リーニス!?言葉が変態っぽいよ!?」




 言い訳の言葉をつらつらと並べて早口になっている智恵の神ラファンダを酒の神レツェルが窘め、料理の神リーニスが変態チックな質問をしていた。対面した友神と泣いていたオリヴィアだったが、何時までも湿った会話をしているのも……ということで、明るい恋バナを開始した。


 まだオリヴィアの恋の話をして30分も経っていないのだが、既に顔は真っ赤である。涙目にもなっていて縮こまってしまった。だが相手は親しい友神達。手加減というものを知らない。いや、知っているのだが態と無視して質問を重ねていた。


 神といえども恋やら愛に敏感な女なのは変わらない。レツェルもリーニスもラファンダも興味津々で、真っ赤になりながらも幸せそうに答えてくれるオリヴィアと、甘酸っぱい恋の物語に胸をキュンキュンさせていた。


 因みになのだが、レツェルは髪が桜色で短めのショートカットであり、体の凹凸がはっきりしている褐色の女神である。一番胸が大きくて酒を飲むと性格が変わる。酔っているところを狙って寄ってくる神も居るが、酒飲み勝負で勝ったら好きにして良いと煽るが、一度も負けたことが無い。普通に酒豪。


 料理の神であるリーニスは料理が得意なことと、美味しいものが好きなので毎日何かしらを料理し、他の神に試食を頼んだりすることが多い。薄緑の髪で長さはセミロング程度。胸は普通くらいだが、本人曰くお尻が大きいのが気になっているとのこと。エプロン姿で後ろからの眺めに堕ちた神も少なくはない。ただし全て撃沈している。


 智恵の神ラファンダは黒髪で肩甲骨に届くかくらいの髪の長さで、眼鏡を掛けている。スレンダーな体付きで、周りには胸が大きめの友神が多いので色々と小さいことを気にしている。性に関することは興味ありませんという委員長タイプに見えるが、そういう話題があると意外と食い付くのでむっつりタイプである。




「それにしても、オリヴィアと一緒にお風呂入ってるのに襲わないって……もしかして相手は理性の怪物なの?」


「確かにそうね。私達の中でも飛び抜けて綺麗なオリヴィアが相手なのにどうしてかしら?」


「治癒を司る本物の女神なのに、美の女神とか間違われてたんだよね~」


「いや、私に限らずお前達も綺麗じゃないか。なのに全員経験が無いのは不思議だな……何故だ?」


「私の場合は先ず前提条件としてお酒に強い神だから……でも私より強い神居ないし、体ばっかり見てくるから嫌だなぁ」


「私は私の料理をいっぱい食べてくれる神じゃないと。具体的には500柱前くらいはねぇ。体目当てなのか男神が料理教室に来たと思ったらずっと私の後ろから体を見てくるのよ?本当に最低よね」


「私は低能なのが嫌ね。特に性に奔放で見境ないのは嫌よ。せめて私と同じくらい頭が良くてもらわないと」


「好みがあると大変だな、互いに。私はもう見つけたが」


「ものすっごく強くて格好良くて、でもふとした時に見せる仕草が可愛くて頼りになる相手でしょう?良く見つけたわね」


「ふふっ。一目惚れしてから会いに行って、彼と共に過ごす内に色々な面を見れて、もっと好きになっていってしまったんだ。我ながら良い相手だと思う」




 4柱の女神達はそれぞれのタイプの話になっていた。だがその中で出て来るのは肉欲に奔放な男神ばかりで、オリヴィアを除いた3柱はそれに飽き飽きとしているらしかった。性に奔放というのが、自身の求める理想としてのタイプが在りきならば構わないが、どうとも思っていない相手からとなると、流石の神といえど嫌なのだろう。


 これだけ聞けば人間と差して変わらないのだが、神に老化というのは無く、意志で以て老化する。それすらも自由なのだから人間とは全く違うのだろう。


 オリヴィアは恥ずかしい思いをしながら恋バナを楽しんでいる一方で、友神達に感謝していた。深く悲しまないように、これからのことを思い浮かべないようにと気を利かせてくれている。それが心に温かく、私も良い友に恵まれているなとシミジミに思うのだ。


 ついている筋肉がどうとか、顔付きがどうとかを話している友神達の傍ら、懐に手を入れて純黒の御守りを取り出して両手で優しく触り、リュウデリアへの気持ちを強くする。純黒のローブは斬り刻まれてしまった。今となっては唯一の彼のことを感じられる代物なので、どんなことがあろうと死守しなければならない。




「あら?オリヴィア、それは何かしら?見たこと無いわね」


「ホントだ。地上の物?」


「小さいんだね。中に何が入っているの?」


「ふふっ。これは御守りといって、厄除けや招福、加護といった願いを形にしたものだ。彼が……リュウデリアが私のために創ってくれたものでな。持っていれば私の身を護ってくれるのだそうだ」


「へぇ……地上では色々考えているのね。それに……」


「ふふふ……ねぇ?」


「オリヴィア、そのリュウデリアって人に愛されてるんだねぇ」


「え、いや、違っ……これは何かあった時のために持っておけという意味でっ……」


「はいはーい。そういうことにしてあげますっ」


「た、確かに愛されているならこの上なく嬉しいがっ、リュウデリアだってそこまで深い意味を込めて贈ったわけではっ……」






「──────オリヴィア。我の美しい妃よ。夫たる我が参ったぞッ!!」






 ばがんッとけたたましい音を立てながら、黄金の扉が無理矢理開かれた。入ってきたのは軽装に包まれたことで逆に分かりやすくなった完璧な肉体美を持った、それこそどんな男が傍に立っても光り輝いて見えてしまうだろう程に美しい貌を持った金髪の男だった。浮かべるは歓喜の笑み。蕩けるような眼。それをオリヴィアだけに注いでいた。因みに御守りは一瞬で隠した。


 4箇所から同時に聞こえるくらい大きなチッという舌打ちが鳴った。聞こえていただろうに気にしていない、部屋に置かれていたり廊下に並べられた像とまったく同じ顔を持つ存在……正真正銘、神界を統べる神の頂点である最高神、デヴィノスである。


 後ろに見た目麗しいまだ小さな少女から妖艶な女性までを数多く連れている。その全員がデヴィノスによって囲わせられている愛人ならぬ愛神達であり、笑顔を義務付けられているので皆が一様に微笑みを浮かべている。


 ノックも無しに入ってきて早々自身に近付いてくるデヴィノスを睨み付けていると、友神達が前に出て盾になり、前までやって来たデヴィノスを心底軽蔑した……というよりも、ゴミに紛れた糞を見るような目で見ていた。




「汚らわしい。私達のオリヴィアに近付くな下衆野郎が。お前みたいなのは目につく場所に出て来るな。部屋に籠もって自分の手で慰めてろ」


「何が妃よ気持ち悪い。妄想も大概にしたらどうかしら。最高神の肩書きなが無ければなに一つ何も出来ない癖に威張り散らして。そもそも部屋の像を撤去して下さる?壊すのが大変なのよ」


「下半身でしか物事を考えられない神擬きが近寄らないで。ていうか臭いのよ。私達を使ってオリヴィアが来るように脅した癖して自分は手に入れたコレクションと交わっているなんて本当に頭おかしいんじゃないの?」


「ん?なんだ、お前達も我の寵愛を受けたいのか。それならばそう言えば良いものを……態々遠回しに言うとは愛い奴等よな。案ずるな、そこまで求めるならばくれてやらんこともないが、まずは額を床に擦り付けるべきだろう。我は全ての頂点である最高神であるからな」


「黙れ。死ね。気色悪いんだよ」


「頭の中どうなっているの?ここまで言われて何で寵愛を受けたいと思われなくてはならないのかしら。不快千万だからさっさと消えて」


「心底気持ち悪い。そもそもお前みたいな下衆野郎に犯されるくらいならどんな惨い方法でも自分でやって自決してやるわ」


「そんなに我の気を引きたいのか。フッ、我も罪深き神よ。そこに在るだけで何もかもを魅了して敵わん。良し、そこまで言うのならばお前達全員を一度に抱いてやろう。礼をする必要はない。お前達の気持ちは存分に理解している故。さぁ、我の寝室へ征こうぞ。我が妃に我を愛してやまぬ者達よ」


「「「──────本当に気持ち悪いから死ね」」」


「チッ。何故こんな奴が最高神なんだ……消滅してしまえばいいのに……ッ!!」




 デヴィノスの背後に控えている女達が全員目を暗くし、何も映していないのを見ると既に心を壊されているのが嫌でも解ってしまう。恐らく囲わされれば最後、逃げることは不可能と悟ってしまい、諦めてしまったのだろう。そんなものはデヴィノスの玩具か奴隷でしかない。


 今もデヴィノスが顎を使って無言で命令すると、オリヴィア達の元にやって来て連れて行こうとする。抵抗しようとしても、30柱以上は居るので抵抗なんてするだけ無駄だろう。それでも絶対に嫌だという意思の元全力で抵抗している。


 そんな光景を見ても、焦らすのが上手いなと言いたげな笑みを浮かべているデヴィノスには殺意しか湧かなかった。力さえあれば真っ先に殺して消滅させてやるのにと、血が出るほど手を握り締めて歯を食いしばり、殺意を込めて睨み付けた。


 傀儡と化してしまっている、デヴィノスが手を出した女達が群がって無理矢理連れて行こうと腕を引っ張っていく。踏ん張っても足が引き摺られてしまい、これまでかと思ったその時……足下が揺れた。超巨大な世界樹の上に建造された宮殿全体が揺れた。それはつまり、世界樹も揺れた事に他ならない。


 太平洋プレートも大陸プレートも無いので神界で地震は発生しない。つまり外的要因がなければ揺れやしないのだ。デヴィノスが目を細めている。恐らく原因が何かを考えているのだろう。すると程なくして、男神が2柱部屋に駆け寄ってきて、デヴィノスの元へ跪いた。




「急ぎの報告です、最高神様。神界に襲撃が起きました。不埒者はどうやら地上の存在のようです」


「フン。神界に乗り込むなんぞ阿呆の極みよな。してそれは人間か。その他の種族か?」


「……申し訳ありません。まだ確認が出来──────」




 最後まで言い終わることなく、2柱の内1柱が内部から弾けて死んだ。何のアクションもなく爆発四散した。神の肉片がデヴィノスに飛び散る前に、オリヴィア達の傍に居た数柱の女神が走って自分の体を使って盾になった。肉片が服に付着しようが関係無い。自分達はデヴィノスの為に居ると教え込まれてしまっているからだ。


 何故殺したのか。犯人であるデヴィノスは、襲撃してきた存在が何者なのかを把握していない事に苛ついて殺したのだ。殺したことに何とも思っていない。だから他に報告は有るのかという意味を込めて、残った男神に目線をやると、ゴクリと喉を鳴らし冷や汗を流しながら、今完全武装した戦いの神や戦神を向かわせたと言って、恐る恐る控えていった。




「ふん。滅多に無い襲撃か……良かろう。何処まで待ってやろうではないか。なァ?我が妃よ」


「リュウデリア……っ」


「……まぁいい。おい、我は少し行くところがある。お前達は我の妃を玉座の元まで連れて行け」


「畏まりました、我等の最高神様」




 まるで襲撃してきたのが、オリヴィアの知り合いだと解っているような口振りで喋るデヴィノスにレツェル達がギョッとした。まさか、まさかオリヴィアを連れ戻すために、神界へ辿り着いたとでも言うのか。そんな無謀なことをこんなにも早く?と。


 デヴィノスの女達に連れられながら、オリヴィアは神界へ襲撃したであろうリュウデリアの事を考えていた。一体どうやってこの世界に来たのか。何故こんな事まで……と。だが解ってしまう。彼は自身のことを連れ戻しに来てくれたのだ。


 嬉しいという気持ちが溢れ出そうになる。だが一方で何で来てしまったんだという気持ちにもなっていた。確かに龍は最強の種族だ。他の種族の追随を許さないだろう。しかしそれは、あくまで地上でという括りになる。神とは、想像するだけでも上位の存在であり、その想像通りに絶大な力を持っている。在り方が根本的に違うのだ。


 いくらリュウデリアが最強に近い力を持っていようと、神には敵わない。それを神であるオリヴィアが一番解っている。死んで欲しくない。でも現状止められない。だから神でありながら祈るしかなかった。どうか死なないでくれと。その願いは、届くのだろうか。それは神にも解らない。


























「さっさとゲート開けよクソザコがテメェッ!!」


「……今度は……手脚を……引き千切るぞ」


「まだ拷問をされたいのか?なァ、この塵芥風情が」


「……っ…ごぼ……ひら゛ぐがら……ま゛っで……」




 神界の最高神デヴィノスに襲撃の報せが入る少し前。地上に残された戦いの神を拷問に掛け、首から下を凍らせたまま一緒に持っていって大空を飛翔しているリュウデリア達は、顔中が血塗れになっている神に檄を飛ばしてゲートを無理矢理創らせた。


 雲が円を描き、中央の空間だけ景色が違う。見るのは初めてのクレアとバルガスが、これが神の世界へ跳ぶ為のゲートかと感慨深そうにしていて、リュウデリアがゲートを睨み付けていた。一度潜ればどうなるか解らないし、どれだけの神が居るかは解らない。


 オリヴィアを連れて行ったが、無理矢理という感じではなく、それも傷付かないように庇ってもいた。ならば彼女は何かの罪に問われて連れて行かれたのではなく、彼女自身に行きたいという意志が無くても行かざるを得なくなってしまったという線が濃厚だ。結論を言うと、連れ戻そうとすれば戦いになるのは必須だ。


 飛翔しているリュウデリア達は、ゲートを潜り抜ける。一瞬で見える景色が切り替わる。大空から森の上へと。そしてリュウデリア達から尋常では無い大きさの巨大樹があるところまでかなりの距離があった。どうやら近くではなく、遠いところへゲートを創られたらしかった。


 3匹の視線が連れて来た戦いの神に集まる。それを自覚しながら、歯を全て抜かれた口を動かして杜撰ずさんな笑みを作り嗤った。そこまでしてやるつもりはないと言っているのが伝わった。なのでリュウデリアは何も言わず、純黒の炎で神を燃やし尽くして消滅させた。




「塵芥が。まあ良い、この世界にさえ来れれば俺達の……かッ……がァッ!?」


「げほッ……ッ!?なん……だ……コレッ!?」


「……っ!?ぐふッ……ま…さか……か……ッ!?」




 一瞬で神を殺してしまったリュウデリアは、今度は見る限り何かあるだろうと思われる巨大樹の下に立っている建造物の方を見て、飛んでいこうとしたその時、顔を顰めて喉を押さえ始めた。苦しげな声が漏れていき、クレアとバルガスも例外では無く苦しげになる。


 だがすぐに察した。空気だ。神界に存在する空気が地上とは違うのだ。今になって体の内側から痺れたり熱くなったり冷たくなるという異常が起きていた。このままこの世界の空気を吸い続けるのは拙い。速やかに判断した3匹は、全くの同時に魔法を使用。自身の周りに地上の空気を再現した。


 だがしかし、今度は体が何処かへ引っ張られようとしている。良く見れば引っ張られる方向にゲートが出来ていた。まるでこの世界から出て行けと言われているようで、3匹は舌打ちをすると魔力で全身を覆い尽くした。するとゲートは少しずつ閉じていき、少しすれば完全に閉じられたのだった。




「マズいぞ」


「……確かに……これは……」


「この世界の空気は俺達にとって毒そのもの。長く吸い続ければ体がどうなるか解らんとなると、現状で我慢する訳にはいかん。そしてこの世界は神が住んでいるのではなく、世界と仮定する。つまり俺達はこの世界にとっての不純物であり……」


「魔力で全身を常に覆って存在証明をしつつ、この世界と俺達の境をあやふやにしとかねーと強制的に世界から弾き出されちまう。っつーことは、常に空気を創り出すのと、存在しておくのに毎秒無視できねぇ魔力使うって事か」


「……リュウデリアは……私達の中で……最も魔力が多いが……私達はそうも……いかない……激しい戦いに……発展するとして……魔法を使っていくともなれば……多く見積もって8時間……それが……私達に残された時間だ」


「……──────見つけた。オリヴィアはあの巨大樹の上にある宮殿の中だ」


「よっしッ!!ぱっぱと奪還してさっさと帰──────」




「──────居たぞッ!!討ち取れッ!!」




「──────はぁッ!?」




 この世界に確かに存在するという認識を世界に刷り込ませつつ、神の世界に対しての地上の生物という境をあやふやにすることで、どうにか3匹は神界に存在することが出来ている。ただしその間は自身の周りに空気を創り出す事を並行してやらねばならず、途切れると彼等は神界から弾き出されてしまう。そうなれば、もう一度神界へ来ることは出来ない。


 神にしか創り出せないゲートを、無理矢理創らせたのだから、世界の何処かに降りてきている神を探す必要があり、そんな労力を払っている時間は無い。なのでリュウデリア達に残された時間は8時間だ。それ以上だと恐らく魔力が保たない。魔力が尽きれば神界の空気という毒に犯されながら神界から弾き出される事となる。


 だからオリヴィアが何処に居るかを知らなくてはならないのだが、そこはリュウデリアが先制を取った。王都で貝を見つけた時の要領で見つけ出した。場所は正解である世界樹の上の宮殿の中である。数十人に連れて行かれているところまで細かく察知しているリュウデリアに、クレアが上々と言わんばかりに向かおうとしたその時、武装した神が大群となって飛んでやって来た。


 靴から小さな翼が生えており、それにより空中を飛んでいる。地上にやって来た3柱も、その方法で飛んでいた。だがおかしい。向かってくる神は確かに見つけたぞと言った。邪魔するならば暴れようとは思っていたが、まだ何もしていない。一体どうやって自分達の存在を知ったのか……と、そこで思い付いた。




「さっき殺したあの野郎……ッ!!どっかと交信する手立てを持ってやがったのかッ!!」


「……どうする……アレ等を相手にしていたら……オリヴィアの元まで行くのに……神による壁が構築される」


「良い。俺が一度にやる」


「あ、おい!魔力使い過ぎんなよ!?オリヴィア奪還する前に魔力尽きたら笑い話にもなんねーぞ!」


「解っている。だがオリヴィアの場所を俺達が知った以上、残り魔力が少なかろうと最後に奪還出来れば良いッ!!」




 飛んでやって来る神の数は目測50。今のところはまだまだ少ないが、これから増えるとなると一々相手している暇は無い。そこでリュウデリアが一気に蹴散らす事にした。飛んでくる神々よりも高い高度まで飛んで上がり、見下ろす。


 口内に魔力を凝縮していく。口の隙間から純黒の光が漏れ出していく。何かの攻撃の予備動作だと察知した神々がクレア達ではなくリュウデリアを狙って向かい始めるが、到達するよりも早く、準備が整ったリュウデリアが凝縮した魔力を解放した。





「──────『總て吞み迃む殲滅の晄アルマディア・フレア』」




 異界である地上から神界へ侵入した生命体、龍を同胞からの要請で排除しに来た50近くの神々が最後に見たのは、どこまでも黒い純黒の光りであり、圧倒的死の塊であった。


 盾を構える。侵蝕する。腕で防御する。侵蝕する。逃げようとする。逃がさない。直径500メートルに到達する純黒の光線は、向かってきた神々の一切悉くを無へ還してみせた。完全な死であり、消滅であった。


 だが止まらない純黒の光線は向かい来る神々を消滅させて尚止まることはなく、左から右へ大きく薙ぎ払い、オリヴィアが居る宮殿が乗る世界樹以外の、何の罪も無い神々が住まう一帯を消し飛ばした。突然の攻撃に対応が出来るはずもなく、日常を送っていた神々すらも、リュウデリアは慈悲も無く消滅させた。


 オリヴィアを連れて行った神に憤っているのではない。オリヴィアを連れ去った憤っているのだ。罪も何も関係なく、リュウデリアにとって此処に居るだけで殲滅対象であった。慈悲も無く冷酷にして非道。それが龍。破壊と死を撒き散らす触れてはならない種アンタッチャブル。理不尽の権化。


 人間ですら怒りに触れないようにするのが常識なのに、怒りを煽るどころか逆鱗を引き千切る行為をした神々に、何の返しも無いと思ったか。精々後悔するが良い。彼等は何があろうと、決して止まることはない。




「──────殲滅だ。向かってくる塵芥も、邪魔な塵芥も、何もかもを殺し、滅してしまえ。龍の逆鱗に触れた愚かな神々の一切悉くを喰らい尽くせッ!!神殺しの時だッ!!」


「──────■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!」


「──────■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!」




 リュウデリア、クレア、バルガスの3匹は、大爆発を起こしながら純黒に侵蝕され、巻き込まれた神々が誰として生存を赦されない神界を見て、憤怒に塗れた咆哮を上げた。




「──────っ!リュウデリア……?クレア……バルガス……」




 宮殿の玉座の間に連れて行かれているオリヴィアは、微かに何かを聞いた気がした。例えるならば、誰もが恐怖を感じる恐ろしき龍の咆哮を。だが彼女には違う捉え方をするだろう。






 必ず行くから、待っていろ。まるで、そう優しく語り掛けてくれているような、そんな捉え方を。







──────────────────



最高神・デヴィノス


仮にも神界を統べる者なので、リュウデリア達が侵入したことは解っていた。そしてタイミングから、オリヴィアに関係する奴ということも。だから玉座の間にて座して待ち、試練をくれてやろうとしている。


手に掛けて愛神にした女神の総数は36柱。気に入れば随時増やしていき、常に微笑みを義務付けている。オリヴィアに一目惚れしてアプローチをしようとしていたが、相手にされず、だが自身が最高で完璧な存在であるからと、どんだけ酷く言われて嫌われようと、自身の気を引きたくてしている行為と見なす。普通に狂っている。





リーニス&レツェル&ラファンダ


最高神が嫌い。マジで嫌い。バチクソ嫌い。だからか体ばかり見てくる神に好印象を抱かないので、もれなく男性経験が無い集団になっている。神なのに珍しいが、全部最高神の所為である。


オリヴィアと共に玉座の間まで付いてあげようと思ったら、呼ばれているのはオリヴィアだけだからと、また部屋に閉じ込められてしまう。力があるなら最高神を殺してる。





リュウデリア&クレア&バルガス


神界へ侵入し、ファーストアタックを決めた。初撃で1000以上の神々が消滅している。そこに憐憫の感情はなく、殺すことに何の躊躇いなんて抱いてはいない。


神界の空気が自身達にとっての毒だったので、魔法で空気を生み出しつつ、魔力を使って神界の存在証明と、境界線をあやふやにすることを同時にやっている。多大な魔力をこれだけでも使っているので、制限時間は8時間。だがそれは……?





オリヴィア


特別席の玉座の間で待機させられている。リュウデリア達の咆哮が聞こえた気がした。服の上から純黒の御守りを握り締めて祈っている。



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