第25話 決着
本当に嫌になる。何が悲しくて、こんな訳の解らない奴を相手にしなくてはならないのか。押しても引いても倒れやしない。いや、それどころか動きもしない。そんな奴を相手に一体どれだけ戦っているのだろう。それとも時間が経っているように思えて、実はあまり時間は経っていませんというやつなのだろうか。それはそれで嫌だが、今の状況はもっと嫌だ。
とっくに残り半分を切っている魔力を使って魔法陣を展開し、雷を発生させて奴にぶち当てる。奴は避けようともしなかった。それで魔法の雷が直撃こそすれど、やはりダメージが無い。若しかして魔法無効化の体質でも持っているのかと疑っても不思議ではないはずだ。それ程、奴に攻撃が効いていると思えないのだ。
速度を載せて体当たりをしても、鋭利な爪で引き裂こうと、尻尾を叩き付けても、魔法を撃ち込んでも、何も効きやしない。こっちはもう鱗に罅が入り、中には割れている箇所だってある。魔力も底を尽きそうだし、何よりこんなのをずっと相手にしていて精神的に来るものがある。なのに、何故奴はあんな生き生きしているんだ。そんなに他の龍と会えたことが嬉しいか。
奴は調子に乗っていなかった。寧ろ調子に乗っていたのは自身の方だった。
「おいおい。まさかもう終わりなのか?冗談だろ?なァ、それは俺を騙す演技なのだろう?
「…………………………。」
──────無意識か?無意識でそんなにオレの事を煽ってんのか?はーッ、つれーわー。マジつれーわー。マジでつれーし面倒だし……マ ジ こ い つ ぶ っ 殺 し た い 。
満身創痍だって解らないのか。血が流れているし息も上がっている。感じ取れる内包した魔力は最初に比べてクソみたいなもんだと解りきっていての発言だと十分に理解した。もう本気でぶっ飛ばしたい。同族の龍である自身でも理不尽な塊の黒龍……リュウデリアを、この状況から一体どうやって追い込めというのかは、皆目見当が付かない。
普通ならばここで良い案を思い付いて実行するのだろうが、考えてもみて欲しい。最大火力はもう使った。それに足して相手の莫大な魔力を暴発させて誘爆してやった。その時に魔力で全身を厚く覆って防御したし、魔法でも防御してダメージが貫通してきた。だが知っている。リュウデリアは魔力で覆うこともせず、文字通りのノーガードだった。それでダメージが無かった。
繰り出される殴打は一撃で意識を刈り取り、鱗はバカみたいに硬い。魔力は余りに余っているというし、そんな出鱈目な奴が安易に使えないという想像したくも無い魔法が有るという。殺す気か。ていうか、これだけの事を並べられて良い案が思い付くわけ無いだろ舐めんな。寧ろ教えて欲しい位だわ。そうウィリスは心の中で愚痴りに愚痴りまくっていた。
表情は最早無である。いや、ちょっと目元が引き攣っているかも知れない。まあそれは良いとして。ウィリスの顔は静かに冷たく、心は怒りで熱く燃え上がっていた。限界近いっていうのに、無意識だろうか煽りを入れてくるリュウデリアが悪いのだ。無理だろうなとは思いながら、ウィリスは本気でリュウデリアを殺したくなってきた。無理だろうが。
「──────『
「む、下からか」
魔法陣がリュウデリアの真下に現れて、雷が包み込んだ。自然発生する雷よりも数十倍の威力がある雷なのだが、リュウデリアはそれが直撃して尚、笑みを溢している。笑みといっても人間が見たら震え上がるような悍ましい笑みで嗤っているのだが。リュウデリアは楽しいのだ。人間では相手にならず、況してやここら辺に居る魔物なんかでは話にすらならない。
もっと強いのは居ないのか……と、オリヴィアの肩に乗って魔物を狩っている時は思っていた。何だったら魔物の突然変異がいきなり目の前に現れてもいいとさえ思っていた。寧ろ来てくれと願った。結果は……世界はそんなに甘くは無いということだ。
だからこそ、街の中で人間が意識を弄られて、龍の気配がして、自身ではまだ持ち得ていない魔法の精密なコントロール技術を持つ龍が居るのだと思ったら、この日が待ち遠しかった。早く会ってみたいと思って数日、漸く会えた龍は雷を自在に操り、今まで会ってきた者達の中で最も強かった。
ここまで戦えた奴は居ない。殴って耐えた奴も居ない。例え殴打が半分以下の力によるものだとしても、あの『英雄』ですら死を覚悟して回避していた。それなりに殴っても蹴っても魔法を撃っても死なない。やり返してくる。立ち向かってくる。他では味わえない高火力の魔法を体験できる。リュウデリアにとってウィリスとの戦いは、実に心躍るものなのだ。
「──────『
「おまッ……ッ!それ今真面に当たったら絶対死ぬやつッ!!あ゛ーークソッ!!『雷龍の
ウィリスに向けて右手を翳し、魔法陣も展開される。何度も見ている純黒の魔法陣。その魔法陣の構築速度は異常の一言だ。あっと思った時にはもう魔法陣が出来上がっている。だから今この時は回避が間に合いそうに無い。魔法陣から生み出された純黒の小さな炎球はウィリスに向けて放たれた。
避ける暇も無いとなれば、もう当たるのは覚悟してありったけの防御をするしか無い。正直殴打の時のようになる可能性もあるので、受け止めるという選択は余りしたくは無いが、避けられないともなれば話は別だろう。
全身を雷で形成された丸い球体で覆い尽くす。それを何層にも重ね合わせて格段に防御力を増強する。本来は一つ張れば終わりなのだが、正直今張った十枚でも、リュウデリアの魔法が防御魔法をかち割って貫通してくる可能性もある。そうなれば魔力で全身を覆って受けるしか無い。その頃には防御魔法によって威力が殺されていることを祈るのみだ。
完全な防御態勢に入ったウィリスに、純黒の炎球がやって来た。どう見ても大した魔法には見えないそれ。だが侮る事勿れ。見た目が小さい炎球であろうと、籠められた魔力は途方も無いものだ。でなければウィリスが態々厳重に防御魔法を展開する必要が無い。それに当たれば死ぬとも言わない筈だ。
純黒の炎球がウィリスの展開した防御魔法に到達した。瞬間、大空に純黒の太陽が顕現した。爆発では無い。凝縮された純黒の炎が解放され、太陽に思える巨大な球体を作り出しているのだ。無論、その中心部にウィリスは居た。そして焦っていた。爆発系で直ぐ終わるのではなく、高熱の純黒に全身を呑み込まれてしまったからだ。更には防御魔法が一気に八枚砕けた。秒である。
こんな高火力の魔法を魔力だけで防御すれば、灰すら残らないかも知れない。死。純黒が死を運んできた。それは今目の前にあり、背中にも控えている。本当に殺される。だが死ぬわけにはいかない。ウィリスは残りの二枚が砕け散る前に、また新たな防御魔法を発動し続けた。凝縮された純黒の炎熱が防御魔法を次々砕き、その度に防御魔法を展開する鼬ごっこになっていた。
何時まで続く。何時まで続ければ良い。防御魔法にはそれなりの魔力が必要になる。それをこうも何度も創り出していたら、魔力が底を尽いてしまう。唯でさえ、もう魔力が心許ないというのに。ウィリスは色んな意味で焦りを感じながら、懸命に魔法を発動し続けた。そして、純黒の太陽は消え、ウィリスはどうにか凌ぎきった。
しかし代償として、魔力が尽きてしまった。最後の防御魔法を展開した時に、丁度無くなってしまったのだ。これではリュウデリアの魔法も攻撃も受け止めることが出来ない。雷速で回避することも出来ない。防御面を強化する事だって出来やしない。拙い。このままでは絶対に拙い。そう思っている時に限って、リュウデリアが残像を伴いながら目前に現れるのだ。
残像を伴う超高速移動によりウィリスの目前に現れると、リュウデリアは殴打の姿勢に入った。魔力が無い今、喰らった時のダメージは考えたくも無い。故に受けるわけにはいかない。受けたくない。本気で受けたくない。それだけが頭の中で先行し、行うにはおざなりな尻尾の打撃に走った。体を捻って尻尾を捻ってリュウデリアに上から尻尾を叩き付ける。
だが尻尾の打撃は避けられた。リュウデリアが忽然と姿を消した事によって。嫌な予感が背筋に奔った。消えたリュウデリアの気配が真横からする。何でも良いから回避をしようと翼を強く羽ばたかせる前に、リュウデリアはウィリスの真横に移動し、無防備となった腹部に下から突き上げて抉り込むような拳を見舞った。魔力で覆って強化された拳は重く、硬く、強く、ウィリスの鱗に覆われた腹部を抉り込む。
「……っ……──────ごばァ……ッ!?」
「まだまだァッ!!」
「ぢょ゛……ま゛で……ッ!?」
くの字に折れ曲がって殴打の衝撃がウィリスの背中から衝き抜けた。腹部の黄色い鱗を粉々に砕き、強靭な筋肉の壁を破壊し、衝撃は内臓を通り抜けていった。呼吸困難を引き起こし、何がどうなっているのか解らない痛みが腹部を襲う。風穴が空いているんじゃないだろうかという錯覚を起こしてながら、まさかの追撃である。
痛みで悶えながら嘔吐いているウィリスの静止の声が聞こえず、リュウデリアは空中にも拘わらず前に一回転してウィリスの頭に向けて踵落としを決めた。ばきりという嫌な音を立てながらウィリスがぐるりと白目を剥き、衝撃を与えた方向である真下へと叩き落とされていく。リュウデリアは翼を大きく開いて大きく羽ばたき、その場から消えた。
踵落としが決まって叩き落とされている最中、ウィリスは意識が朦朧としていた。脳震盪によって平衡感覚も狂っている。そんな防御らしい防御も出来ないウィリスの体に、打ち上げる要領で蹴りを入れたリュウデリア。落ちていくウィリスに追い付いたのだ。ウィリスは斜めになりながら体から落ちていた。つまり蹴りを入れれば脇腹に直撃する。
ごきりという音が響き、新たな激痛によってウィリスの意識は強制的に引き戻された。感触からして蹴りを入れられた肋骨が粉々に折れた。それも数本である。上へ向かって打ち上げられながら、ウィリスは大量の血を吐き出した。ごぽりと吐き出される血と鉄の味、脇腹や頭の痛みに顔を歪めながら、どうにか翼を使って体勢を立て直そうとした。しかし、そんなウィリスの体はリュウデリアによって捕まえられた。
腹部の方から背中に向かって腕を回してリュウデリアがウィリスの体を抱き締めている。見方によっては抱擁しているようにも見えなくも無いが、やられているウィリスは堪ったものではない。リュウデリアが逃がさないと言わんばかりに、剛力を使って締め上げているのだ。ミチミチと軋み、蹴り折られた肋骨の箇所が死ぬほど痛い。なのに絞められている所為で息すら真面に出来やしない。
「かッ……ひ…ゅ……ッ」
「お前が全方位に雷を放った放電ならぬ放雷があっただろう?アレを少し俺風に創ってみたんだ。これを最後に戦いを終わりにしよう。……少々物足りないが」
「ぶ……ぐ……や゛…………め゛………っ!!」
「──────『殲滅龍の
抱き締められて逃げられない状況から、純黒なる魔力によって純黒と化した黒雷が、遙か上空で強烈に弾けた。ウィリスは満身創痍で降参するとも言えず、体中に奔る尋常ではない雷の痛みを感じながら、意識は暗闇へと落ちていった。
「──────ハッ!?」
嫌な夢を見ていたような気がする。痛くて苦しくて怒りがこれでもかと込み上げてくるような、そんな胸くその悪い夢を。ウィリスは草の上で目を覚ました。それから何かが有ったような無かったような……とぼやけた頭で考えていた。すると、そんな彼の前に純黒の何かが現れ、自身の顎を突然掴んだかと思えば上を向かせる。
乱暴なその手つきに苛立ちが瞬く間に頭の中で広がり、犯人を睨み付け、呆然とした。そこには純黒の黒龍が居て、顔を上げた自身を黄金の瞳で見つめているのだ。ウィリスは嫌な夢だと思い込んでいた一連のことを思い出した。
ひゅっ……と、喉が鳴り、喉の奥が乾ききった。心なしか体中が震えているようにも思えるのは気のせいだろうか。気のせいではない気がする。ウィリスは殴られ蹴られ、骨を折られ、訳が解らない程の威力を持つ魔法を撃ち込まれた、戦いという戦いにはならなかった喧嘩を思い出してしまった。
尻尾がぴんと立ち、瞳がこれでもかと泳ぐ。そんなウィリスの事を放って置いて、リュウデリアはウィリスの顎を掴んだまま右を向かせたり左を向かせたり観察した後、掴んでいた顎を離して腕を組んだ。2本の脚で立って腕を組んで見下ろしているリュウデリアに、何かやられるのかと怯えていると、ふと思い至る。全身が痛くない。寧ろ軽いのだ。
「傷はオリヴィアが治癒したぞ」
「……何でだよ。オレはお前に負けたんだぞ。殺しもしねーし、一体何を考えてやがる」
「……?俺は同族のお前と戦いたかっただけで、殺すつもりは毛頭無い。だから最初に言っただろう、力を見せろと。同族に会った事が無かった俺は同族の力を知りたかった。それだけだ」
「……オレは人間が絶望して死ぬところを見る為に、この騒ぎを起こしたんだぞ。テメェが厄介になってたこの街をだ。だっつーのに、それだけで話を終わらせるつもりか?」
「俺は別にこの街の人間がどうなろうと知った事では無い。生きているならば生きているで良いだろうし、死んだならば死んだで構わん。この街に来たのは偶然だからな」
「……そーかよ」
ウィリスは前に居るリュウデリアではなく、二匹を傍らで見ているオリヴィアに視線を向ける。人間にしか見えないが、人間では無いということ、ウィリスは見ただけで解っていた。取り繕ったところで、龍に隠し事は出来ない。そういった看破する力も込みで世界最強と謳われているのだから。
初めて見る、リュウデリアが言っていたオリヴィアという存在。人間では無いことは確かだが、何の種族かまでは解らない。だがどうでもいい。そんなことなど気にしていないからだ。ウィリスはオリヴィアが着ている純黒のローブに視線が行った。あれだけリュウデリアと戦ったから、察する。このローブによってオリヴィアは護られているということが。
十中八九自身の魔法を跳ね返したのは、このローブだろうと直感し、護られているなと思った。感じ取れる魔力はそう大したものには思えないように、敢えてカモフラージュされてはいるが、龍の感知能力を甘く見てはいけない。ウィリスはローブに籠められている計り知れない魔力が感じ取れている。故に、オリヴィアの背後には巨大な黒龍が、此方を睨み付けているように見えるのだ。
今居るのは街の入り口から少し離れた場所。近くに大きな焼け焦げた場所があるのは何なのだろうか。それを辺りを見渡して見ていたウィリスは、ある事に気が付いた。何か可笑しくはないか?と。リュウデリアが自身を見下ろしているのは解る。骨格からして二足歩行を主としているのだろうから。戦っている時もそうだった。しかしオリヴィアは違う。人間と同じ大きさだ。なのにどうして自身はそんなオリヴィアに見下ろされているというのか。
「な、なンッッッッじゃこりゃァ──────っ!?」
「お前が元の大きさのまま降りてくる訳にもいかん……ということで、リュウデリアが小さくなる魔法をお前にも掛けたんだ」
「これで俺達は、人間から新種の蜥蜴としか思われん」
「蜥蜴と一緒にされて堪るか!?」
「因みに俺は新種の蜥蜴の使い魔というポジションだ。便利だぞ。魔法は全てオリヴィアがやったように見せれば殆ど何でも出来る」
「お前の事情なんざ知るか!?」
「何だ、折角教えてやったのに」
「な・ん・で!オレが興味ある前提で話し進めてンの!?全く興味ねーわ!!おちょくっとんのかテメェは!?」
ウィリスは吼えた。何なんだコイツ等は……と。リュウデリアの方が強いというのが解っているから余裕なのか解らないが、街を襲って戦った相手が居るというのに楽観的過ぎないかと。まあ、ウィリスも命の奪い合いをしたわけでは無く、人間でいうところの手合わせみたいなものだ。此方は全力だったが。
オリヴィアが小さな二匹の龍を見て微笑んでいる。何だか居たたまれないウィリスは立ち上がった。確りと4本の脚で立ってみたが、痛むところは一切無い。体を確認してみても、出血している所も無く、鱗が砕けている所も無い。腹部にリュウデリアの殴打を受けて鱗が壊滅的な被害にあったが、見てみても傷は無かった。
龍の中にも傷を回復させる、治癒出来る者は居やしない。回復の魔法というのはそれ程稀少で居ないのだ。ウィリスも龍らしく住処を転々としているが、そんな稀少な者には会った事が無い。つまり、治してもらう所を見ていた訳では無いが、オリヴィアという存在は世界から見て超稀少な、喉から手が出るほど欲しい存在だ。そもそも回復の魔法は太古に失われている。
だがウィリスがオリヴィアについて何かを言うつもりも無い。誰かに報告することも無いし、広めるつもりも無い。負けたからといって腹いせに……なんてつまらない事をする種族じゃないのだ。負けたならば負けたと潔く認め、勝った相手を尊重する。負けたのは弱い己の未熟さが原因と捉える。
「何だ、もう行くのか」
「……あぁ。此処に居る理由がねェしな。オリヴィアっつったか、ありがとよ、オレの傷を治癒してくれて。あの傷だと7日もすりゃあ死んでたぜ」
「いや、そんなに保つのか」
「……じゃあな。次は負けねェ。精々首洗って待っとけ。絶対ェテメェをぶちのめしてやる」
「覚えておこう。因みにあと総合的に200倍強くなってくれると、もっと良い戦いが出来ると思うぞ」
「軽く言うなやッ!!」
翼を広げて飛び上がった。ウィリスはまさかこんな目に遭うとは思わなかったが、自身がまだ弱いということを知る良い経験になった。これから行かなくてはならない所が出来たし、何を言われるか解らないが、傷を治癒してもらい、特に何かを要求されている訳では無い。自身が弱いと解っただけでも十分だ。
少し飛んで振り返り、オリヴィアとリュウデリアを見下ろす。リュウデリアはもう使い魔としての姿に戻っている体なのか、オリヴィアの肩の上に乗っていた。種族が違う二人を見て、何の疑問も抱かない、抱かせない二人はお似合いに見えた。見ていて自然体だからだ。
龍は基本的に誰かに肩入れする事は無い。況してや別の種族の者なんかは基本生きようが死のうがどうでもいいのだ。なのにオリヴィアが着ているあのローブは、尋常ではない魔力と、視たことで思い知らされる、考えるのも億劫になる複雑な術式と機構。同じものを造れと言われても、自身には無理だと答えるだろう逸品。それが表すことは……。
「……おい!この小せェ魔法は何時になったら解くンだ!?結構飛んだぞ!!」
「あぁ。忘れてた。それは寝ている時も機能するように効果時間が設けられている(嘘)。一日は寝ていると思ったから、そうだな……あと23時間はそのままだな(大嘘)」
「よォしッ!!テメェ次は絶対にぶち殺してやるからなッ!!」
ウィリスは激怒した。小さな姿で帰らされている事に。そしてその元凶とも言えるリュウデリアに。次に会った時は絶対に許さないと。
「あ、ちょっ……ワイバーンが調子に乗ってんじゃねーぞゴラァッ!!」
ウィリスは大空を飛んでいる。小さな体で翼を懸命に動かしながら。時には敵の強さが解らない低位の魔物に襲われながら。
「──────何か有れば戻って報告せよと言ったが、何故その内容が初めて負けたという報告なんだ。貴様はこの私を愚弄しているのか?」
「い、いいえ……父様。ただ、オレの気持ちの整理がつきましたので報告にと……」
「愚か者がッ!!貴様は頭が足りん。だから貴様は兄弟の中でも不出来なのだ。初めて負けた?貴様は所詮有象無象の中に紛れ込んでいただけに過ぎん話だろうがッ!!」
「で、ですが……リュウデリアは龍族に於いても最上位の力を持っているかと……」
「……?負けたのは同族か。それに貴様……最上位だと?ふむ……其奴の名は何という」
「り、リュウデリア・ルイン・アルマデュラといいます……」
「……………………。」
とある場所にて、そんな会話がされていた。報告を受けた者は顎を手で擦って何かを考えている様子。それを静かに床に片膝を付きながら見ている。やがて考えていた者は召使いを呼んだ。若しかしたら何か余計な事をしてしまったかも知れない。膝を付いて頭を垂れているものは一粒の冷や汗を掻いていた。
純黒の龍は同族を知ることが出来た。だがまだ同族全体は彼の存在を知らない。これから何が起きるのかは……まだ解らない。
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