第211話 愛じゃないかな、愛

 アルフィンの地下工廠は今日も大忙しです。

 アルテミシアを引き渡す期日が片手の指で間に合うくらいに近づいているんですもの。


 私もいつものようにレオの膝の上……ではありません。

 今日は完全に後ろから、抱っこされているのです。

 逃げられません。

 それはもう、しっかりと抱き締められてますもの。


 バックハグでしたかしら?

 一段と刺激を強く感じるのは闇の色を纏うチャイナドレスが薄手の絹で誂えられているせいだけではないでしょう。

 密着しているせいか、互いの熱を感じ、それが強い刺激に繋がっているのですわ。


「一機だけ、別工廠で造るんだっけ?」

「ひ、ひゃぁい」


 レオが喋ると熱い息遣いがもろに首筋にかかってきて、危険ですわ。

 これで耳を噛まれたら……


「それをして欲しいのかな?」

「ち、違いますわ」


 違わないけど、違います。

 断固として、認めませんから!

 これを認めてしまったら、このまま、あの部屋にお持ち帰りされる未来が見えますわ。


「そっか、残念」


 残念と言いながら、息を耳に吹きかけながら、さりげなく、胸を揉むのはお持ち帰りが本気だったことの裏返しですわね。


「ふぁ……あっ……コホン。ト、トリトン・カルキニオンは完全水中型ですから、バノジェに増設した専用ドックの方で建造中ですわ。ケートゥス計画の要ですも……の」


 最後の言葉を言い淀んだのはレオが胸の蕾を摘まんだせいですわ。

 背中越しなのにどうして、位置が分かるのかしら?

 的確に両胸を摘まめるのが不思議なのです。


「何でだと思う? 愛じゃないかな、愛」

「やぁ……耳を噛むのダメですってばぁ」

「じゃあ、こっちは?」

「そこも気持ちいいからぁ……う、ううん? だから、ダメですって!」


 『愛』と耳元で囁かれただけでこのまま、レオのペースに持っていかれそうですけど、流されてもいいのかしら?


「いいと思うよ」


 レオはそう言うや否や、立ち上がりました。

 私は『あら?』と思っている間に横抱きにされているのですけど、耳朶を噛まれた時に既に腰が抜けていて、抵抗なんて出来ません。

 する気もありませんけど……。


「私の方がもっと、もっと愛していますわ」


 せめてもの抵抗として、彼に聞こえない程度にレオへの愛を囁きます。

 それくらいの悪戯は許してくださいますでしょう?


「分かってるよ。リーナの愛は全部、分かってる」


 熱を帯びた瞳で私を見つめるレオの力強い言葉が嬉しくて……。

 でも、いけないですわ。

 これだと今日の愛はすごく激しくて、私は無事でいられるのかしら?


 Fin?

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