第194話 舌で刺激してくる赤ちゃんはいませんもの

 私は騎乗りたいなんて、一言も言った覚えがありませんのにどうして、こうなりましたの?


「あんっ、あぁんっ。やぁっ」

「ふぅ、ああっ。気持ちいい。また、出ちゃいそう」


 そりゃ、ライオンなレオの上に跨っていた時、ちょっと気持ちいいって思いましたけど!

 服着ているのに出してしまって、子供っぽい表情を見せるレオをかわいいって思いましたけど!

 それとこれとは話が違うと思いません?


 私の中ではしっかりと手を握り合って、向かい合って。

 それから、じっくりと愛してもらえるものと思っていましたのよ?

 レオの服を脱がせて、私は脱がしてもらって、抱き合って、息が止まるくらいのキスを交わしているのですから、そう思いますでしょう?


 でも、気付いたら、彼に軽々と抱っこされて、後ろ向きでいきなり挿入れられたのです!

 おかしいですわ!!


 始める前から、出来上がってはいましたけど……。

 十六階に上がり、すぐに寝室へと戻るくらいに盛り上がっていましたし、いつでも受け入れられる準備も整っていましたわ。

 でも、何か、違いません?


 自分の体重で思い切り、奥まで一気に貫かれて、息がはくはくしている私を他所よそにレオは余裕でそのまま、ベッドに仰向けに寝たのです。

 繋がったまま、私は上半身を彼の胸板に預ける体勢になっています。

 彼の右手がしっかりと腰を掴んでますし、左手は胸を揉んだり、摘まんだりとやりたい放題なのです。


 レオはそれだけ、好きなように私を弄んでいるのに右の胸に顔を近付けると甘えるように……赤ちゃんがおっぱいを吸うみたいにちゅうちゅうと吸うのです。

 これが一番、危なかったですわね……。

 まだ、出たりしないのに吸ったり、甘噛みしたり……舌が一番、危ないのですけど。

 でも、そんなレオをかわいい! なんて、思っている余裕はなかったのです。


「やぁっ。出ないからぁ、そんな吸っちゃやだぁ。あぁっ、あっ。話が違っ……あんっ。そんな深いのダメぇ」

「ふぅ、ホントに出ちゃうよ。リーナ、いい?」


 私が騎乗っていることにアドバンテージなんて、ありませんのよ?

 レオはグラインドさせて腰を強く、ガンガンと突いてきます。

 腰を掴んだ手でさらに上下に揺さぶられるので彼の肉槍が深いところに刺さって、弱いところを責め立てるのです。

 私も無意識に腰を振っていて、自分が気持ちいいところに当たるようにしているのですけど!


 ただ、不思議なのですわ。

 合わせようとしていなくても達する時は一緒ですの。

 頭の中で白く弾けるような奇妙な感覚を感じたのとほぼ同時でした。

 膣内なかにレオのモノが凄い勢いで精を放つのを感じたのは……。


 心地良い快感を感じ、頭はふらふらとどこか覚束ないですけど、レオのはまだ出てますわね……。

 え? まだ、元気なのですけど!?

 何だか、さらに元気になってません?

 あそこが痛いくらいレオのが大きくなったような……。

 抗議の声を上げようとするとちょっと強めに歯を立てられて、『ひぅ』と怯んでしまいました。

 その隙にガンガンと下から突かれ、今度はレオが一度も達していないのに数回、イかされました……。


 そうなってしまうと完全に彼のペースですもの。

 ただ、気になることが一つ。

 今日、二人とも変な性癖に目覚めてしまったのではないかしら?

 レオが赤ちゃんみたいにちゅうちゅう吸うといつもより、締まるみたい。

 彼はこれに味を占めたようですの。


 でも、後ろからだと体勢的に吸えないでしょう?

 それで私を横に寝かせて、後ろから包むように抱いて、まだ出ませんのに揉みしだきながら、蕾を吸うのです。

 本当に赤ちゃんみたいに一生懸命吸っていて、かわいいのです。

 ただ、舌遣いがかわいくないですわ。


 私の反応を見ながら、舌で刺激してくる赤ちゃんはいませんもの!

 そんな彼に翻弄されて、気が散っている間に片足を持ち上げられ、浅いところをじっくりとなぶるように挿入れられました。

 でも、決して、激しくはしてこないのです。

 その代わりに指でいじられるとは聞いてませんでしたけど。


 騎乗っていた時は壊れるくらいに激しい腰使いだったのに今度は静かなのにすごく感じてしまって、レオが達していないのに私だけが何度も達しています。

 申し訳ない気分に陥りそうですわ。


 達したのが五回目の時でした。

 レオが歯を立てて、蕾を強めに噛んだせいなのでしょう。

 自分でも分かるくらいにレオのモノをぎゅうと締めてしまいました。

 浅めの挿入れ方で感じにくかったのか、この体勢になってから、まだ射精していなかったレオの熱い怒張が膣内なかでちょっと膨らんでからぴくっと震えました。

 それが前兆になって、一気に精が放出されました。

 心地良い満足感と快感。

 幸せな気分のまま、私は静かに意識を手放すのでした。




 十六階のポータルで待っている爺やのところにお姫様抱っこをされて、戻りました。

 どうやら、調査報告書の手帳が三冊目に入っているようです。

 日頃から、魔導師でなければ、学者になっていたと語っているのは伊達ではないみたい。


「ここから、二十階まではオーガのようじゃ。少しは楽しめるかもしれんぞい」

「オーガか。でもさ、狂化してるとあまり、頭を使ってこない気がするんだよね。それだといまいちだね」


 挨拶もそこそこに野営地を片付けてから、出立です。

 そうそう。

 十五階の宝箱から出たのは魔槍でした。

 なぜ、忘れていたのかと申しますと付与されている魔法効果が普段、コンパクトな大きさになる程度だったからです。

 収納ストレージを使える者にとってはあまり意味がない機能とも思えますけれど、一瞬で取り出し相手の意表を突けるので案外、馬鹿にならないかもしれませんわ。


 そして、ポータルを出ると早々に魔物の群れが襲い掛かって来ました。

 正体は薄緑色の肌をしたオーガです。

 額から、短い角が一本だけ生えており、オーガにしては体格が小さい部類のようです。

 オーガの中でも最下位……さながら戦闘兵のような地位なのかしら?


「量産型だね」

「数だけは多いのう」

「え、えぇ」


 また、レオ独特の言い回しですわね。

 それに乗っていく爺やもすごいですけど。

 私には無理ですから、適当に相槌を打っておきましょう。

 数だけは多いですから、喋っている暇もなさそうですし。


 この階に至るまでレオはデュランダルを、私はオートクレールを抜いてすら、いません。

 必要性を感じないくらいに歯応えが無いからです。

 レオは『素手の格闘訓練にいいかもね』と爽やかな微笑みを浮かべながら、正拳で胴に風穴を開けています。

 レーヴァティンでの抜刀術に飽きたというより、十分過ぎる検証結果を得られたから、やる気がなくなっただけのようです。


 私にはレオのような膂力はありません。

 ですから、近接用の脛当てをつけた足で蹴り飛ばすだけですわ。

 蹴って、踏み潰す。

 ただし、見てはいけません。

 見たら、衝撃映像が目に入りますもの。


「リーナの足癖は相変わらず、悪いね」


 そう言いながら、後ろから殴りかかってきたオーガの頭を裏拳で吹き飛ばしたレオの手癖も相当なものだと思いますのよ?

 爺やは見るも悍ましい実験をしているようですし……。


「ふむふむ。面白いのう。面白いのう」


 バラバラにした身体を繋ぎ合わせて、動くかどうかを試しているらしいのですけど、その光景は悪夢になりえますわ。

 飛び散る肉片。

 噴きあがる鮮血。

 いけませんわ。

 爺やは一体、どこを目指しているのかしら?




 ――その頃、二十階。

 空を往く雲を眺めているうちに睡魔に誘われ、船を漕いでいた少女は鼻を突く異臭とダダ漏れの気配に目を覚まし、ゆっくりと体を起こした。


「頭が高いわに。控えろわに」


 立ち上がった少女の背丈は成人男性の肩にも届かず、見た目もあどけなさを残した十代前半にしか見えない。

 そのせいか、侮るように『ぐひゃひゃ』という下卑た笑い声が響き渡る。

 巨躯に宿る鋼のような肉体は黒光りし、頭には左右から二本の角が生えた黒いオーガの集団が少女を取り囲んでいた。


「げへげへ。メス……犯す」


 少女の紅玉色の瞳が炎を帯びたように輝き始める。

 その炎に宿るのは怒りの色だ。


「全く、これだから躾けのされてない獣は! 光栄に思うがいいわに」


 紅蓮の炎が少女の身体を包み、ゆっくりとその形を変容させていく。

 小さい火種のようだった炎が徐々に大きくなるとやがて、オーガを軽く呑み込めるほどに成長していった。


 一陣の風が吹き終わると炎はきれいに消え去り、そこにはゆうに五メートルは超えようかという爬虫類のような生物――大型のワニに似ており、緑がかった黒く、大きな鱗が全身を覆っている。しかし、ワニのようでありながら、その背からは鉤爪を有した一対の蝙蝠状の翼が生えていた――爛々と燃え上がる炎のように輝く、ルビーの色の瞳が周囲を取り巻くオーガを怯えさせるほどの威圧感を出している。


「主人も分からないお馬鹿さんにはもったいないんだけど、特別に見せてあげるわに。地獄の針千本ティシャーチアートキッヒ・イグラ


 畳まれていた背の翼が徐々に開き、備えられた鉤爪が赤色化すると元少女の掛け声とともに撃ち出される。

 地面に着弾した地獄の針千本ティシャーチアートキッヒ・イグラは目が潰れるほどの凄まじい閃光を放ち、周囲を全て、吹き飛ばすのだった。

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