第195話 犯人はあの子かな?

 十六階は緑色の肌の一本角オーガ。

 十七階は十六階と同じ肌の色をしているものの角が左右から二本生えているオーガ。

 十八階は青い肌で十九階は赤い肌の二本角のオーガ。


 階層が上がるにつれ、オーガの体格がよくなっていき、戦闘力も向上しているようです。

 戦闘力に比例して、凶暴性も増しているようですけど、頭の中身は比例してないので基本的な対処の仕方は変わりありません。

 気を付けるのは攻撃性の高さといったところかしら?


 これには凶化の影響が少なからず、ありますわね。

 オーガは元々、戦うことが好きな種族です。

 ただ、何の考えもなしに挑んでくるほど、愚かではないはず。

 その点では上位のオーガであっても雑兵のように押し寄せるだけという現状は不自然なのです。


 そして、現在調査中の二十階では闇色の肌をした二本角のオーガですわ。

 かなり、上位種のはずですが、歴然とした力の差があっても狂ったように突撃してくるだけなんて……やはり、おかしいですわね。

 そうは申しましても向かってくるものを放置するわけには参りません。


 爺やは操り人形マリオネットの魔法を試しています。

 レオは指一本で戦うと言い出しました。

 これもロマンかしら?

 私にはよく分かりませんわ。


「邪魔しないでくださいな」


 両手で構えた永遠なる心エーヴィヒ・ヘルツを横薙ぎに振り払うときれいに上下二分割されたオーガのオブジェの完成ですわ。

 炎の刃フランメ・クリンゲの状態ですと刀身が赤色化しており、触れた物を焼き尽くすというよりも溶かしてしまうので非常に美しく切断出来るのです。


「リリーよ、ついでじゃからのう。手足と首もバラバラにしてくれうんかのう。出来れば、肘と膝もバラにしてくれると助かるのう」

「分かりましたわ」


 爺やは異なるオーガの身体を繋ぎ合わせて、何を創ろうとしてるのかしら?

 エスカレートして、十六分割や二十四分割に切り揃えて欲しいと言われそうでゾッとするのですけど。


「レーオー、本当に指だけで平気ですの?」

「あー、うん。多分、平気。ちょっときついけどね」


 レオはレオで何をしてるのかしら……。

 左右から、振り下ろされる槌や棍棒の雨を軽く身を捩り、紙一重で避けては『どう?』と言わんばかりに私にアピールをしてくるのですけど。

 それだけでしたら、手放しで黄色い声援を送るのですが……。

 避けた後、レオは右の人差し指でオーガの肘や膝を突き刺すのです。

 その後に起こるのは見ていると少し、気持ちが悪くなる現象ですから、見ていられません。

 まさか、指で刺されただけで破裂するとは思いませんもの。

 夢に出てきそうで怖いですわ。


「あらかた、終わったかしら?」

「ちょっと物足りなかったかな」

「いやいや、中々にいい材料が集まったぞい」


 見渡す限り、オーガだったモノらしい肉塊で彩られていて、とても気分が悪いですわね。

 これは心持ちの問題ではありません。

 下手すれば、胃液が上がってくるので肉体的に危ないですわ。


 察してくれたレオがそれ以上、視界に入らないように抱き寄せてくれたので事なきを得ましたけど。

 本当に危なかったですわ。


 レオの……違いましたわ! そう! 胸板に頭を預けて、なるべく周囲の風景を目にしないで最奥地へと向かいます。

 耐性が無くて、吐きそうになっただけでも、レオが心配してくれて、お姫様抱っこをしてくれるので楽ですわ。

 え? 関係なく、いつも抱えられている……?


「僕が抱きたいから、してるだけだよ?」


 そっと、レオがそう囁いてくれました。

 私もレオにこうして、抱っこをされているのが好きですわ。

 最初は恥ずかしさの方が上回ってましたけど、今はレオの体温と鼓動を感じられて、幸せを実感出来るから、ずっとこうしていたいくらい。


「ねぇ、レオ。何か、忘れている気がしますの」

「うん? 何だっけ?」


 レオも考えこんでくれるのですが、思い出せないみたい。

 何かを感じたのは間違いないのです。

 それが何かを思い出せないのが、もどかしいですわ。


 答えを思い出したのは最奥地に辿り着いた時でした。

 ダンジョンの中なのに川が流れていて、滔々と流れる清らかな流れがとても印象的な風景です。

 けれども、それより気になるのはまだ、煙が上がっている周囲の無残な大地の姿でした。


「こりゃ、また酷いのう」

「まるで高火力の炎の魔法を撃った跡のようですわ」

「犯人はあの子かな?」


 レオの視線の先には仰向けになって、あられもない恰好で寝ている少女がいました。

 両手足を大きく伸ばして、大地に寝そべっているので無防備な姿をもろに晒しています。

 スカートが短い丈なのにそのような恰好をしているのですから、下着が露出していて可哀想ですわね。

 状況が状況でなければ、レオの両目を塞ぎたいのですけど、そんなことをしたら、大人気ないかしら?


「さっき感じた魔力はこの娘ですわね」

「うん。知ってる子なのかな?」

「ええ。よく知ってますわ」


 チョコレートのようなブラウン系のボブヘア。

 草色に染められたニットのチュニックにダークグレーとワインレッドのチェック柄のミニスカート。

 私の肩にも届かない小柄で華奢な体格なのにニットのチュニックを押し上げるほどに自己主張している豊かな膨らみ。

 ええ、よく知っている娘ですわ。


七十二柱ななじゅうふたはしら、二番……アガレスですわ」

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