閑話18 うさぎの冒険II 最低で最高な旅の仲間
おっす!
俺っちはアイポラス。
みんな、イポスって呼ぶんだぜ。
よろしくな!
「イポス、何してやがる? 置いてくぞ」
頭には牛のように二本の角が側面から、生えている鋼鉄製の兜をかぶっている。
背丈は成人男性の三分の二に届かないほどしかないのに腕や胸板は筋肉の塊そのものって、感じだ。
ビヤ樽にマッチョな手足がくっついて、髭面のおっさんの頭が乗っかっている姿を想像すると分かりやすいな。
そう、おっさんはドワーフだ。
「へい。分かってやすぜ」
姫様から、特命が下った。
やらざるを得ないだろ? だろ?
そう思うよな? よな?
しっかし、灰色の竜の伝説なんて、聞いたことがないな。
おまけに頭が固くて融通が利かないドワーフと旅をするなんて、聞いてないんだけどな……。
「イポス、お前」
目の前に迫力のある顔が近付いてきたから、柄にもなくびびっちまったよ。
おまけに襟首を掴まれたんだが。
力加減ってもんを考えて欲しいもんだよ、全く。
「ど、どうかしたましたかね。シュタール」
「無理はするな」
「は、はあ?」
簡潔にそれだけを言い放つと列の先頭へと戻っていったのは俺っちより、少しばかり背が高い珍しいドワーフだ。
ほとんどのドワーフがほぼ、俺っちと同じくらいの背丈で人間の成人男性の胸に届くか、届かないかってくらいなんだがシュタールはゆうにそれを超える身長の持ち主なんだよな。
それでいて、顔立ちもドワーフにしてはシュッとしていて、気品と威厳を兼ね備えているんだね、これが。
生まれ持った貴種の血って、やつかね。
ドワーフってのは最低に失礼で最高に愉快な連中だ。
デリカシーに欠けていて、がさつにして豪快。
しかし、受けた恩は倍返しにする気持ちがいい連中でもある。
訳が分からないって、意味では俺っちの兄弟分も変なヤツらばかりだから、どうってことない。
俺っちがこの面倒な道中をするきっかけになったのはあのくそじ……いや、下手なこと言うとこのおっさん達がうるさいから、ちゃんと言っておくか。
シュタインベルガー卿が俺っちを腕のいい影として、紹介したせいだ。
何がシュタインベルガー卿だよ!
骨の癖になんて悪口を言うとウサギじゃなくて、カエルにされるからな。
地獄耳ってのはあの爺さんの為にあるんじゃないかね。
どこに耳があるんだか知らんが……。
とにかく下手に悪口を言うとあの爺さんがいつの間にか、後ろにいる。
間違いないね。
話が脱線しちまったかね。
要はあの爺さんのせいで伝説を信じて、悪魔が棲むやばい山に行くって、連中に同行しなきゃいけない訳だ。
最初は俺っちのこの愛らしい姿――触り心地が良さそうな紅茶色のふわっとした毛に覆われた顔には黒曜石の色をしたくりっとした瞳が好奇心を隠せず輝き、ぴょこんと立っている二本の耳はあたりを窺うようにせわしなく、動いている。どう見てもかわいらしいうさぎのような外見だが身に纏うのは闇に紛れる漆黒のチュニックとハーフパンツである。その割に羽織ったジャケットが目立つ空色で金色のボタンが煌めいているのだから、隠れる気があるのか怪しいものだ―もあって、全く、信用なんてされてなかったんだが……。
それとない疎外感を味わいながらも旅は続いた。
悪魔が棲む山ってのは相当に遠いらしく、馬を使わないと辛い。
いくら、あいつらがドワーフで俺っちがうさぎだろうが馬だ。
お馬さんのお陰で途中までの道中はとても楽だった。
乗馬の心得があるヤツが一人もいないもんだから、中々に騒々しい旅だったがね。
しかし、状況が変わったのは『闇蜘蛛の森』に差し掛かった時だ。
あの爺さんの受け売りだから、確かな情報だと思うがこの生物の厄介なところは敏捷に動き回って獲物を捕らえる捕食者でありながら、罠を張るっていう狡猾な知性を持ってることだ。
それを身をもって知ることになるとは思わなかっただろうね。
誰が? ドワーフだよ!
まず、野営中に繋いでいた馬が消えた。
でもって、次に消えたのは最初に焚火の当番についていたシュトライテンだ。
シュトライテンは一行の中でも最年少の若いドワーフだ。
髭も蓄えてないし、ドワーフと言わなければ分からないようなかわいげのある少年って見た目をしてるんだが名前が『戦い』なんて物騒なせいか、とにかく喧嘩っ早い。
だけど、ドワーフってのは変に度胸があるのか、馬とシュトライテンが消えたのにあまり、深く考えてない。
だから、俺っちの出番だ。
俺っちの耳と鼻が妙な臭いを嗅ぎつけてしまったのさ。
このままでは大変なことになると説得する俺っちに白けた視線を向けるんだから、酷いもんだ。
それで臭いを辿って行ったら、真っ白な繊維質の物でグルグル巻きにされたシュトライテンを見つけた訳だ。
いわゆる蜘蛛の巣ってヤツだな。
そこかしこにグルグル巻きにされた物体が転がっていたが、大きさからすると馬に違いない。
シュトライテンの前には大きな
咄嗟の出来事に呆然としてる連中の中で動けたのはシュタールと俺っちだけだった。
俺っちは風よりも速く動ける。
瞬間的な加速なら、稲光よりも速く動ける自信があるが多分、身体が持たないな。
まあ、とにかく、
名付けて、
教えてくれたのはアンディだ。
アンディは素手で鉄を切り裂く男だから、比べるのもおこがましいんだが俺っちの蹴りも中々のもんだとは思う。
まともに顔の中心に俺っちの蹴りを喰らった
その日からだよ。
俺っちを見るドワーフの目が変わったのは!
それまではお客さん扱いだったのがまるで古くからの友人みたいに気安く接してくれるようになった。
だから、最低に失礼で最高に愉快な連中って訳だ。
思ったよりも悪くない旅になっていることに俺っちも驚いてる。
だがその旅ももうすぐ終わりだ。
ゴールは近い。
いよいよ山岳地帯へと入るのだ。
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