閑話17 うさぎの冒険

 うさぎさんが冒険するこのお話。

 続くかどうかは分かりません(´・ω・`)



 ◆ ◇ ◆




 人の訪れを拒むが如く、天高くそびえる山があった。

 その山を支配するのは大いなる灰色の竜。

 永き時を生きた竜は強大な力を持っていた。

 息が山を砕き、羽ばたきが森を消し去る。

 しかし、竜には決して勝てない敵がいた。

 それは孤独。

 竜は願った。

 この心の渇きを癒して欲しい、と。


 時は流れ、灰色の竜は伝説となり、忘れられていった。




 アルフィンの城下町には自由と活気が溢れている。

 行き交う人々の表情も明るく、そこに悲壮感を漂わせた者などまず、見当たらない。

 だからこそ、彼らが身に帯びた悲壮感とただならぬ決意の固さを滲ませた表情は目立っていた。

 それは何より、彼らがアルフィンではあまり見かけないドワーフという種族だからかもしれない。


「優秀なヤツは見つかったんですかい?」


 自慢の髭を触りながら、並々と注がれたエール酒を一息にぐっと煽る男の頭にはまるで毛髪が無い。

 男はふさふさした長く、立派な髭を生やしていた。

 そのせいか、あまりにも対照的で寂しい頭を気にしていないようだ。


「ああ。腕利きの斥侯らしい」


 答える男も立派な口髭と顎鬚を生やしている。

 しかし、その顔立ちから感じられるのは抜身の剣を思わせる鋭さである。

 他のドワーフよりも若く青年と言ってもいい年齢にしか見えないのに威厳を備えていた。

 このドワーフ青年は名をシュタールと言う。

 かつて存在したドワーフの国。

 竜によって滅ぼされ、国を失った民は大陸各地へと散らばった。

 その王族の血を引き、再興を試みんとする者がいた。

 それがシュタールだ。

 口さがない者は『国無し王子』などと呼んでいた。


「何と言ってもあの男の口利きだ。それが大きい」


 シュタールはグラスを揺らし、エールを見つめた。

 しかし、その視線はもっと先――どこか、遥か彼方を見ているかのように鋭く、決意を秘めたものだった。




 アルフィンのメインストリートを軽い足取りで歩く、小柄な人影。

 真っ白な綿毛のような毛並みに覆われた頭の上には長い耳が二本生えており、その顔も人の物ではない。

 人と同じように二本の足でしっかりと大地に立ち歩くうさぎ。

 それが彼、アイポラスである。


 今、彼は悩んでいた。

 彼にとって、悩むことは非常に珍しいことだ。

 常に楽天的で何でもいいように解釈するのが長所であり、短所でもある。

 そんな彼が任されたのはこれまでにないものだった。

 決して、重責に圧し潰されている訳ではない。


「ああ、面倒くせえっすね」


 アイポラスは自他ともに認める優秀な影だ。

 稀少性と見た目から、心無い者に捕まり、悲惨な末路を辿る。

 それがアイポラスの一族に課せられた宿命とも言うべき、枷である。


 しかし、彼はもって生まれた好奇心の強さを抑えることが出来なかった。

 故郷を飛び出し、人が住む町へと繰り出したのだ。

 その結果、たちの悪い人買いに攫われて、見世物小屋に売り払われたところを救ってくれたのが幼き日のリリアーナである。

 彼女の下には同じような境遇の者が多く集っていた。

 以来、故郷への郷愁を抱えながらも抑えきれない好奇心と主や友への情愛を胸にアイポラスは人の中で生きてきた。

 そして、自らの肉体に秘められた潜在的な力に気付き、才能を開花させたのだ。


「俺っちは一人がいいんすけどなぁ」


 元来、彼は単独行動において真価を発揮し、諜報活動において多大な貢献を上げてきた。

 今回与えられたのは単独とは程遠い集団で成し遂げなければならない任務だ。


「よりによって、ドワーフとか冗談きついっすよ」


 集合場所として指定された酒場の看板を見上げ、アイポラスは深いため息を吐くと諦めの表情を浮かべ、扉をくぐるのだった。

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