第182話 私とレオの子供ですのよ?

 二ヶ月の間に変化したのは新しい武器である永遠なる心エーヴィヒ・ヘルツだけではありません。


「どうです、レオ。私のペネロペの新しい装備!」

「きゃはは」


 ペネロペはパールホワイトから、少し落ち着いたシルバーグレーに機体色が変更されました。

 対となるオデュッセウスはピュアホワイトを基調色として、マリンブルーとクリムゾンレッドのラインが引かれたメリハリのある色構成になっています。

 戦場において、目立ちそうな色合いですけど、これには意味があるそうです。

 もし、何かしらの事変が起こった場合、オデュッセウスが指揮機となりますから、士気を上げるのに多少の派手さというものが必要だとか……。


「使いにくい大鎌にしたんだね」


 レオはちょっと不思議そうな顔をしてますわね。

 それというのも新兵装は両脛の部分に柄部分を収納しておき、展開させ連結してから、使用する大型の鎌だからです。

 永遠なる心エーヴィヒ・ヘルツと同じ仕様で実体のある刃ではなく、魔力を流した魔法武器でもあります。

 そして、使いにくいというのも事実ですわ。

 形状が形状ですから、大振りになりがちなのと小回りの利く武器との相性が悪いことかしら?


「それにしても……本当に僕達の子供みたいだ」

「きゃはっ」


 私が抱っこしているのは艶々とした蜂蜜色の豊かな髪に白磁のような肌をした小さな女の子。

 年にして三歳くらい。

 私の小さい頃によく似ていますわ。

 多分、この子が自らの姿をイメージする参考としたのが私だったからでしょうけど。


 ただ、一目で異なると分かるのは右の瞳が紅玉色ルビー左の瞳が碧玉色エメラルドなのと前髪で隠している額に第三の瞳が開いていて、蒼玉色サファイアなことかしら?


「私とレオの子供ですのよ? ねぇ、アリー」

「きゃふぅ」


 嘘ですけど。

 計算したら、レオが十歳で私が十五歳くらいの時の子供になってしまいますもの。

 物理的に無理ですわ。

 そもそも、レオは十歳の頃にこちらの世界にいなかったですし、彼が大人になったのも割合、最近のことですもの。


 この小さな女の子の正体はアウラールなのです。

 人化の法を一月余りで習得したのですから、秘められた才能が楽しみですわ。


「きゃは! きゃはは!」


 レオはきっといい父親になるわ。

 だって、私からアリーを受け取って、肩車している様子は本当に微笑ましいんですもの。

 ずっと見ていても飽きませんわ。


 そんな私の幸せな気分を壊す気配を感じましたのよ?

 面倒ですわ。

 腰を落とし、振り向きざまにそのお腹に目掛け、回し蹴りを叩き込みました。


「まあああいすういいいいとはあ……げぼあああ」


 私の蹴りをまともにお腹にもらったその者は工廠の硬い金属製の壁にまで吹き飛び、そのまま気絶したようです。

 骨が数本、折れているかもしれませんけれど、いつものことです。

 誰も慌てる様子がありません。


「いいの、あれ?」

「きゃふ」


 アリーは分かっていないのか、ご機嫌のようです。

 レオは純粋に心配しているみたいだけど、ネビーは不治の病ですの。

 病気ですの。

 あのくらいきついお仕置きをしておかないと悪い病気がどんどん進行しますのよ?


「さぁ、そろそろお昼の時間ですわ。久しぶりにテラスでいただきましょう」

「うん、いいね」


 床でだらしなく伸びているネビーを置き去りにして、昼食が入ったバスケットを手にしたアンと合流し、意気揚々とテラスへと向かうのでした。




 どうしてこうなったのかしら?

 膝の上でスヤスヤと安らかな寝息を立て、かわいらしい寝顔のアウラールが乗っているのはかまいません。

 隣の席にアンが腰掛けていて、ゆうに大人の顔くらいはある肉の塊に噛みついているのもかまいません。


「ねぇ、アン。ロマンでお腹がいっぱいになりますの?」

「なりませんよぉ」


 返事をしながらも頬張る口は止めないあたり、大したものね。


「そうですのね。何が楽しいのかしら」


 なぜか、ランチの席にザルティス爺とメテオールが同席したばかりか、私のレオと楽しそうにお話しているのです。

 ですが、私も大人です。

 公爵家の令嬢としては淑女レディであるべく、品位を保たねばなりません。

 怒ってはいけないのです。

 あくまであれは魔動騎士アルケインナイトのお話が盛り上がっているだけ。

 お仕事のお話ですもの。


 本当に?

 確かに今はアルフィンで一から新規設計がされた大司教ビショップラーマの話題で話し合っているようですけど……。

 レオに妙な入れ知恵をしているのはあの二人と見て、間違いないですわ。


「お嬢様、あのぉ。大変なことになってますよぉ」

「ん?」


 アンに手元とジェスチャーされ、視線を下ろすと若鶏のソテーが無残にも穴だらけになっていたのです。

 誰なのでしょう、このような酷いことをするのは!

 私ですわ……。

 どうやら、無意識のうちに鶏をフォークで何度も何度も突き刺していたみたい……。

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