第183話 もう悪戯は絶対、やめますわ……

 ニールとアリーは人化の法をさらに極めるべく、お祖父さまと魔法の勉強中です。

 レーゲンもアンに付き添われ、ライさまの工房へ採寸に出かけています。


 つまり、レオと二人きりなのです!

 お日様が出ている時間に二人きりで過ごせるのは珍しいことですから、本当ならもっと甘い時間を過ごすべきなのですけど……。


 なぜか、普通にレオと執務室で公務なのです。

 私は公務と申しましてもレオの膝の上にいて、彼の世話をするだけ。

 特にこれといったことはしません。


 ただ、折角の二人だけなのに今日のレオはあまり、元気がありませんの。

 どうしたのかしら?

 いつもなら、膝の上にいるだけでも元気になっていませんでした?

 おかしいですわね。


「リーナ、何か、機嫌が悪く……ぐぅ」


 何か、言おうとしたレオの口に無理矢理、菓子パンをねじ込んであげました。

 この菓子パン、贅沢なことに高級な砂糖がふんだんにまぶしてあって、生地にも混ぜてあるので、とても甘いのです。


 甘いのですけど、病みつきになる味。

 ただし、甘いのが苦手な方には少々、辛いかしら?

 レオは甘い物があまり、好きではありませんもの。

 でも、嫌いでもないのですから、これは嫌がらせではないでしょう?


「んっ……」


 後頭部と腰に手を副えられて、唇を奪われました。

 口の中に広がるのは砂糖の甘さだけではありません。

 彼の舌が歯列を割って、侵入すると私の舌を絡め取り、味わい尽くすからです。


 まるで甘味を共有しようとでもするように唾液が交換されました。

 単に甘い砂糖のせいではなくて、レオを感じられる味……。


 レオは気を良くしたのか、それとなく腰に回していた手を胸に這わせようとしたので軽く、抓っておきます。

 痛くない程度にじゃれただけとも言いますわね。


 それから、お仕事そっちのけで菓子パンを互いに食べさせあって、キスしているだけになってしまったのですけど、私は悪くありませんよね?




「その計画に必要なのが、灰色の竜の伝説ですのね?」

「うん。そうなんだ」


 レオの膝に乗ったままですけども、今は彼の胸に顔をくっつけて、しっかりと抱き付いています。

 この方がレオの心音が聞こえて、安心出来るんですもの。


「あの山に向かうのでしたら、優秀な人材が必要でしょ?」

「そうなるね。彼らは勇敢でとても、腕が立つみたいなんだけどさ。あまり、考えないみたいなんだ」


 レオが目星をつけている新たな受容者レシピエントはドワーフみたい。

 その話を男三人でしていたものですから、寂しかったですわ。


「では腕も立ち、知恵も回る有能な影はいかがかしら?」

「アンディのことかな?」

「いいえ、違いますわ。彼は今、不在ですのよ? イポスですわ」


 アンディは現在、帝国に重要な物を届けに行ってます。

 機密事項ですから、転移門ポータルを使って、私とレオが直接、赴くという手もありましたけど。

 そうなりますと大事になりそうですから、全く察知されずに成し遂げられるアンディに任せたのです。


 それにアンディは優秀ですけど、コミュニケーション能力には問題がありますもの。

 無口で表情もほぼ動かしませんから、陽気ですが頑固といわれるドワーフさんとはうまくいかない可能性の方が高いでしょう。

 その点、イポスは隠密能力の高さだけではなく、索敵能力や咄嗟の判断力にも長けています。

 何より、誰とでも打ち解けられる融和性の高さがあります。


「あのうさぎの人か」

「ええ。少々、へそ曲がりなところはありますけど、きっとうまくやってくれると思いますわ」


 私の言葉で決めたのか、レオが書類に決裁しました。

 こうして、魔動兵の新たな計画が動き出したのですけど、そうではない厄介事が舞い込もうとは思ってもいなかったのです。

 だって、そのような余裕なかったんですもの。


「じゃあ、仕事も終わったから、運動しようか」

「え? 運動って?」


 頭の中にはてなマークがたくさん浮かんでくるのですけど。

 考える間もなく、横抱きに抱えられてました。

 ええ、別にいつも通りなのですけど、レオの不敵な笑みが何だか、怖いですわ。

 分かっていますとも。

 これはあの部屋に行く気ですのね?


「もちろん、いい汗をかく運動だよ」

「そ、それって!? まだ、お昼ですのよ?」


 私の抗議の声が届くことなんて、ないとは知ってましたわ。

 ちょっと悪戯したことの仕返しとばかりに声が出なくなるまで運動をさせられました。

 身体中が痛いですし、あちこちに赤い花が咲いてます。

 声は掠れてしまいましたし……。

 でも……


「気持ち良かったでしょ?」

「ひっ……ダメだってばぁ。もう無理だからぁ」


 後ろから抱き抱えられて、レオの上に座らされると彼のモノが奥深くまで届くのです。

 中まで深く、激しく、愛されるのは気持ち良いのですけど……。

 意識が飛ぶくらいに愛されるのは……ええ、とても嬉しいんですのよ?

 でも、もう無理ですわ。


「やぁん、無理だってばぁ」


 胸が弱いと知られてますもの。

 レオの胸を揉む手つきにとても耐えられませんわ!

 気持ち良くって、頭がふわっとなって……あっ。

 また、レオのが元気になったのですけど!


 もう悪戯は絶対、やめますわ……。

 体が持ちませんもの。

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