第176話 どちらかを選んで着たら、満足してくれるのかしら?

 レオは壊れ物でも扱うように優しく、労わるように下ろしてくれました。

 お姫様みたいに扱ってもらえて、嬉しいですわ。


 身体を包み込むように丁寧に優しく、抱き締めてくれるので……もう、それだけで心がポカポカしてきて、何をされても平気ですもの。


「え? 本当? 何でもいい? 後でダメとか言わない?」


 抱き締められていたこともあり、よく周りが見えなかったのですけど、床が冷たい石畳ではなく、長毛の羊の毛で編んだ手触りの良い絨毯が引かれているようです。

 レオの言い方にも珍しく、自信がないようでちょっと、気になりますわね。


「どういうことですの?」


 彼の胸板にそっと手を置いて、少し距離を離してみて、何となく察しました。

 魔法の灯で明るくもなく、暗くもないけど、二人で甘い一時を過ごすのには最適な明度が保たれているわね。

 この技術はかなり高度なものですから、この部屋の改装に協力した者が少なからずいた、というところかしら?

 無機質な鼠色が剥き出しになっていた石壁に壁紙まで貼られているのです。

 それもあまり目を刺激しない薄い桃色。

 ほんのりと染まったくらいの色合い。

 私好みの落ち着いた色なのですけど。


「リーナはこういう部屋が好きでしょ?」


 レオが笑っているのに笑っていないような……。

 右手には私達の瞳の色と同じ色を宿したち、ちあい? ちやいにゃ? そのような感じの名前のドレス。

 左手には私の肌と同化しそうな純白のうさちゃんスーツ。

 違いましたかしら?

 バニーガールさんの着てらっしゃる例のアレですわ。

 兎耳のついたカチューシャ、網タイツ、赤いピンヒールと白いバニースーツで一揃いなのよね。


「この色は好きですけど、レオの手にあるそれは何ですの?」

「どっちを着てくれるのかな」


 彼の無垢な瞳の中に秘められた無言の威圧感を感じますわ。

 どちらかを選んで着たら、満足してくれるのかしら?

 それはないですわね。

 着たら、朝まで放してくれない自信がありますわ!

 そのような自信はどこかに置いてきた方がいい気がしますけど。


「で、ではチャイニャドレスの方がいいですわ」

「にゃって、言うの禁止ね。今すぐ、押し倒したくなるから。分かった。チャイナを着るんだね」

「んんん?」


 え? 今、とても気になることを言いませんでした?

 ということはもしかして……。


「もちろん、どっちを着てくれるかってことだよ。そうと決まったら、まずはそのドレスを脱ごうか」

「あ、あのその手は何ですの? どうして、近付いてきますの?」


 妙に艶めかしい手の動きをさせて、レオがジリジリと近付いてくるので私も後ろに下がるしかありません。

 気が付いた時には既に手遅れでした。

 足が何かに触れたと思ったら、それがベッドの端だったのです。


 振り返って、今更、気付きました。

 ベッドのデザインに思わず、『え?』と目が丸くなって固まってしまったのが原因でしょう。

 だって、円形の大きなベッドなんて、見たことがなかったんですもの。

 二人で寝てもスペースが余りそうなほどに広く、壁紙と同じ薄い桃色のシーツがかけられています。

 おまけに枕がハート型なのですけど……。

 『え?』となった私はおかしくないと思いますのよ?


「脱がせるのって、新鮮でいいね」

「ち、ちょっとお待ちになって」


 はい、ベッドに目を奪われていたせいでそのベッドに押し倒されている私です。

 目の前にはそれはもう嬉しそうで幸せいっぱいという彼の顔。

 それはいいのですけど、私がよくはないのです。


 今、私が着ているのは黒を基調としたゴシックドレスでリボンなどのアクセントとなる飾りが赤いところがワンポイントなお洒落になっていて、着るのもちょっと大変なのものです。

 脱がせるのも大変……ではありませんの!?


「そう思ってる割に期待してない?」

「し、してませんわ。ひゃぅ」


 レオは随分と手慣れた様子でドレスを剥ぎ取るように脱がせてくれるのですけど、ついでみたいに首筋にキスを降らせてくるから、質が悪いですわ。

 脱がせるだけではなくて、楽しんでいるでしょ?


「んぅ、あんっ」


 もう上半身はきれいに脱がされていて、アンに手伝ってもらう着替えよりも早いですわ。

 あまりの手際の良さに私が呆然としてしまうくらいなのですから。


 既に下着も剥ぎ取って、レオはじかに胸を左手で感触を楽しむように揉みながら、右手を撫でるように足の上を這わせてから、ゆっくりと脱がしていくのです。

 このじっくりと味見するようにされるのも悪くないって思ってしまう私が変なのかしら?


 はい。

 結局、呼吸が荒くなるくらいに身体中を弄ばれて、あちこちに赤い花が咲き乱れています。

 服を着替えるだけなのに指でされるせいで息が上がっているのですけど。


 ドレスを着るのも一人では無理でしたから、彼が着させてくれたのですが……。

 また、下着なしで素肌の上にそのままって、おかしくはありませんの?

 『汚れてしまいますわ』という抗議の声にレオったら、『これくらい、どうってことないよ。これからだからね』と余裕たっぷりの爽やかな笑顔を見せてくれるのです。

 何でしょう? 鳥肌が止まらないのですけど!?


「リーナ。それじゃ、ベッドに手をついて、顔が見たいから……大丈夫だよね?」


 また、レオの演技指導……もとい艶技指導が始まってしまいましたのね?

 やや低い位置に手をついて、足を肩幅よりちょっと広く開く。

 真っ直ぐに立ちながら、身体を捻って、レオの方を見る。

 簡単なようですけど、少々、身体の硬い私にとっては難度が高い姿勢です。

 おまけに彼のせいで足は生まれたての小鹿のような状態になっているのですから、責任を取って欲しいですわ。


「これから、たっぷりと取るよ」

「ひ、ひゃい」


 どうも下半身が涼しくなったと思ったら、レオが裾を派手に捲っていたのです。

 油断も隙もありません。

 え? いつの間に出してますの?!

 レオが熱いモノを焦らすように私の太股に当てています。

 少し触れているだけなのに彼の体温を感じるくらいに熱くて……あの元気過ぎではありませんの?

 いつもより、とても元気そうで大丈夫かしら、私。

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