第175話 チャイナドレスでこの前の続きがいいかな?
正式な領主カルディア辺境伯。
レオが辺境伯の称号を得て、カルディアの地を治め始めてから、アルフィンの発展は留まるところを知りません。
領主代行として私が治めていた頃から、大々的に立場の弱い方々を受け入れると喧伝していたのもあるのでしょうけど……。
かつてこの地で善政を敷いていたアイゼンヴァルト家の『消えた公子』が帰還した。
この事実が一番、大きいのかもしれませんわ。
人口は順調に増えており、元々カルディア地方に住んでいた人々が戻ってきただけではなく、帝国からの移住者も多い傾向にあるのです。
帝国で件の法律が施行されてから、その傾向がさらに強まったのですけど。
これもベリアルの思惑通りと考えると少々、複雑な気分になります。
でも、それ自体が悪いことではありません。
アルフィンに多種多様な種族が集ったのはそのお陰でもあるのですから。
ベリアルが求めるのは黒でも白でもない世界。
強い力を持ったから、神々の時代は終わりを告げた。
ならば、世界を常に均衡させればいい。
彼の行きついた究極の平和理論はそんな極端なものでした。
歴史の変換点に干渉しては力を排除すべく、暗躍する。
アルフィンの動乱でアイゼンヴァルト家を除いたのもその一つ。
優秀な指導者を迎えた帝国が大陸を制するのを止めたかったからなのでしょう。
そこに混沌の神の一柱が横槍を入れるとは考えていなかったところが大きな問題なのですけど。
私とレオが十年間、会えなかったのもベリアルのせいなのです。
許せない気持ちが強いのですけど! と目の前で何もなかったかのように談笑している彼に言いたいですわ。
なぜ、件の彼がアルフィンの領主執務室にいるのか、不思議に思われますかしら?
現在、風魔に続いて、水面下で開発が進められている新たな
そのメンバーに選ばれたのがザルティス爺とメテオール。
つまり、ベリアルですわね。
ザルティス爺はこの町での暮らしが余程、気に入ったのでしょう。
住まいとしていた鉱山跡を引き払い、アルフィンに引っ越してきたのです。
彼の屋敷には良く分からない『うんたらかんたら研究所』のような看板が掲げられていて、中々に退屈しない日々を過ごしているのだとか。
メテオールは面倒事を私達に任せた挙句、姿を消したと思ったら、ちゃっかりとこじんまりとした屋敷を購入し、住みついているのです。
さすがは七十二柱でもっとも虚偽に塗れた者。
……などと感心している場合ではなくって。
私はピンチなのです。
心が持ちませんわ。
執務室で私の定位置はレオの膝の上です。
二人きりの時はまだ、いいでしょう。
私だって、レオと一緒にいられて、嬉しいのですから。
ただ、手が変な動きをして、悪戯するのだけはやめて欲しいですわ。
耳元で息吹きかけながら、囁くのも禁止!
拒否出来ませんもの。
会議が行われているのは執務室。
私は定位置。
はい、羞恥心で死ねるかもしれない恥ずかしさを味わえますわね。
腰に手が副えられていて、妙に熱を感じるせいかもしれませんけど、本当に心臓に悪いのですわ。
「だからのう。斧を二振りほど、標準装備させるのはどうかのう?」
「兵装名はパラシュでどうでしょうか?
「斧かぁ。
私もそこに疑問を感じていたのです。
剣や槍は護身術の一環として会得している者が多いから、汎用性という意味で潰しがきくのでしょう。
斧という武器の強さは分かりますけど、人を選ぶと思うのです。
「それはですのう。剣と槍が多いからこその斧ですじゃ」
「つまりはアンチとして考えておくべきということですよ」
「そういうことか!」
そういうことでしたのね。
剣や槍を持つ
そうである以上、もし、敵対する勢力が
そうなれば、同じ武器で戦った場合、技量の差が勝負の分かれ目になるはずです。
武器が異なれば、状況はまた、変わるということかしら?
私は一声も発しません。
下手に声を出すと『あんっ』って、出そうですから!
三人の男による会議は妙に白熱したものとなりました。
私はレオの悪戯に耐えなくてはいけませんでしたから、ほとんど右から左に流れて、内容が残っておりません。
何でもドワーフから新たな
「チャイナドレスでこの前の続きがいいかな? それとも別のがいい?」
満面の笑みという表現はこういう太陽のような笑顔の為にあるのかしら?
それくらい、レオは本当に嬉しそうです。
私もそんな笑顔のレオが見られて嬉しいですわ。
って、そうではありませんでしょ!
レオの目が笑っていませんもの。
あれは獲物を目にした捕食者の目ですわ。
逃げないといけませんわ。
でも、横抱きに抱えられていて、『逃がさないよ』とでも言うかのようにがっしりと彼の腕の中に収められている訳で。
「レ、レオの好きな方でいいですわ」
『ふーん』と目を細めて、獲物を見定めているかのように見つめられるとちょっと怖いですわ。
「今のリーナだと白いバニーガール姿もいいね。どっちがいい?」
「え? ええ?」
「どっちも着たいとか?」
さらに目を細めたレオの威圧感にフルフルと首を横に振ることしか、出来ません。
どちらを選んでも明日、起き上がれるのかが分かりません。
お姫様抱っこをされたまま、どこに連れていかれるのでしょう?
レオは執務室でこの前の続きをしたかったようですけど、使えませんでした。
そこで仕方なく、私を抱えたまま、城内を散歩するように結構歩いているのです。
寝室ではないようですし、浴場でもありません。
レオの足が止まったのは尖塔にある個室。
確か、以前は貴人が罪を犯した際に幽閉される部屋だったような……。
「この部屋を改装したんだ。僕とリーナだけの部屋にね」
本来は無機質な鼠色の壁に囲まれ、床も石畳のはずです。
置かれているのも質素な木製のベッドに簡素な机と椅子だけでうら寂しい部屋……ではありませんのね?
今、私の目の前に広がる室内の様子は想像していたものとあまりにかけ離れていたものになっていたのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます