閑話16 それぞれの戦い
わたしはタチアナ。
ずっとお父さんだと思っていた人がお父さんじゃないと分かった日。
それまでの平凡で普通の生活ではないけど、わたしにとっての日常が終わりを告げた日だ。
その日から、わたしの日常は忘れられない胸を躍らせる冒険の日々に変わったんだ。
それだけじゃない。
信じられないことに世界の危機を救ってしまったらしい。
気が付いた時にはベッドの上で全身に包帯が巻かれてるいた。
おまけに知らない天井だし……。
ここはどこなんだろう?
何か、とんでもないことをしたらしいけど、無我夢中だったから、ほとんど記憶にない。
だから、わたしは旅に出ることにした。
わたしはわたし自身を知らなきゃいけない。
だから、わたしはわたしを探す旅に出るのだ。
何か、言っててスゴイかっこいいことを言ってる気がする。
帰る家もないし、家族もいない。
そうしなきゃいけないだけなのが、辛いところなんだよね。
それに相棒がどこにでも『お邪魔しまーす』といけるようなもんじゃないし。
『ガオン』と反論するような声がしたことから、お分かりいただけただろうか?
相棒ヤマトは人じゃない。
人の形をしてるけど、大きさが人じゃない。
大人の男の人が五人くらいいても届かないほどに大きい。
そもそも生き物なのかどうかもよく分かんない。
だけど私にとって、大事な友人で相棒なのだ。
そんな訳でわたしと相棒のヤマトは生まれ故郷の国を旅立ってから、世界各地を見て回った。
わたしが広い帝国をある程度、自由に旅が出来たのはあるネックレスのお陰だ。
このネックレスを見せるだけで、帝国領内の通行は自由なんだとか。
そして、ヤマトと旅をしている。
時には魔物の群れと戦ったり、土木工事の真似事をしたり、それなりに充実した日々だ。
気ままな二人旅(?)の生活を楽しめている。
ところがある日、わたしは嫌な力を感じたのだ。
「おっくれてごっめ~ん、わたしが来たからにはこれ以上、好き勝手はさせないっ」
動きを見せ始めた力を追ってきたら、これだもん。
わたしの前には
大きい、すごく大きいよ。
ヤマトだって、相当に大きいのだ。
そのヤマトが見上げないといけないって、どれだけ大きいんだろう。
とにかく、見上げて、首が痛くなるくらい大きい!
「気持ち悪っ! しかもまだ、動いてるし」
『ガオ』
ヤマトは何となく、わたしと感覚が似ているみたいでこんなにも大きな図体してて、見るからに強そうなのに妙なんだよね。
妙っていうと腕組みをしたポーズのまま、微動だにしない黒い巨人も変かな。
「貴公、いけるか? 参る!」
「気候? 聞こう? 何の話です?」
『ガオオ?』
あっ!これって、話を聞かない人の特徴だ。
わたしの答えを聞く前にもう動き出してるもん。
しかも速い!
見た目からして、スマートだし、速そうに見えるけど速そうの次元じゃない。
目に残像が残るスピードで動いているって、どういうこと!?
「木の葉隠れの術!」
黒い巨人が一、二、三……増えてくっ!?
合計で十体に増えた黒い巨人が一斉に怪物に向けて、その右腕を振り上げた。
どうなってるの、あれ。
ヤマトみたいに大きな物体が動いてるのも不思議だけど、色々と何かを無視してるよ?
「嘘でしょ!? 武器無いのにどうなってんの」
手だけで怪物の腕や足をきれいに切断していく黒い巨人が信じられない。
どうなってるんだろ?
そういう構造の
正直言って、あの旅を一緒にしてた人々だと何があってもおかしくないとは思うんだ。
だけど、おかしいよね?
それにしても切られて、落ちてるのに地面でもまだ、ビクンビクンなってる触手が気持ち悪いっ。
「今でござる」
「え? あっ、はい。いっきまーす」
『ガ、ガオン』
全部、黒い巨人にお膳立てしてもらっただけな気がするけど。
この感じ、あの黒いドラゴンと同じなんだよね。
だから、わたしがここで討つ!
四枚の翼を広げて、上空へと一気に上がり、ムラクモを両手で構え直してから、渾身の力を込めて、光の刃を振り下ろした。
「とりゃああああ!」
手応えは十分。
金色の光を放つムラクモで身体を真っ二つに切られた怪物はどす黒い湯気のようなものを噴き出しながら、やがて動かなくなった。
「ふぅ……やれやれだね、ヤマト。あのどうもありが……あれ?」
黒い巨人の姿が影も形もなくなっていた。
さっきまでわたしを見守るように腕組みしたポーズで立っていた気がするのに。
え? えええ?
「アルフィンに寄ってみようか」
『ガオオ』
地上で
バノジェ南東の海域においても動きがあった。
海を思わせる深い青色に塗装された
その動きは隊長機であるデュカリオンの乗るトリトンと連動していた。
「それじゃ~、ちゃちゃっとやっちゃうよ~!」
海中を巨体をうねらせ、泳いでくる蛇のように長い胴を持った怪物。
海蛇に似ているがその大きさが尋常ではない。
海軍の主力艦である大型の帆船・戦列艦よりも長いのだ。
細長い胴体に手足に類する部位は見られず、逆三角形で扁平な頭部には角のような突起物が生えていた。
その形状は南海に生息する猛毒を持つ海蛇がそのまま、巨大化したとしか、思えない代物だった。
突然変異の大海蛇を視界に捉えたデュカリオンは乾いた唇に舌を這わせ、口角を上げる。
少女のような美貌にどこか、怜悧さを浮かばせたデュカリオンの号令に海の申し子による怪物退治が静かに始められようとしていた。
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