第174話 レオって、そういうところがあるのを忘れていましたわ

『さて、リーナ。そろそろ、止めといこうか。今度はアレ、撃ってもいいよ。抑え気味でいけるかな?』


 レオの言い方では私がまるで抑えることを知らないで色々とやらかしているようではありません?

 確かにちょっと手が滑って、危うく大惨事になりかけたことはありますけど。

 未遂ですわ。

 未遂なら、無罪ですのよ?


「任せてくださいな」


 背部に後方に向けて、変形・収納されている可動式魔導砲アクティブアルケインカノンを展開し、既に周囲に漂わせていた薔薇の花弁ローゼンブラットをコリネウスを包囲するように散開させました。


「レオ、準備はよろしくって?」

『いつでもいいよ!』

絶対零度アブソリュートゼロいきますわ」


 可動式魔導砲アクティブアルケインカノンで狙いを定め、充填させた氷の魔力を解き放ちます。

 二筋の純白の光条が動きの鈍いコリネウスを捉えました。

 同時に薔薇の花弁ローゼンブラットからも凍気を照射されています。

 つまり、全方位からの絶対零度アブソリュートゼロですから、逃げ場はありませんのよ?


 コリネウスは足掻こうとした姿のままで完全に凍結されて、氷像になりましたわ。

 成功のようですわね。

 本来の魔力をそのまま、撃っていたら、分子レベルまで破壊しますから、粉々になります。

 凍結しているということはうまく制御が出来たということですわ。

 私を褒めて欲しいですわ。


「どうです、レオ。私にもちゃんと出来ますのよ?」

『知ってるよ。リーナは出来るって。うまくいったご褒美は後であげるからね。止めは僕に任せてよ』


 んんん?

 『ご褒美』『後で』と何だか、不穏な単語が聞こえたような気がするのですけど、気のせいかしら?


 背中のリアクターバインダーを畳み、地表へと降り立ったオデュッセウスのショルダーバインダーが開き、不思議な形状の魔導砲アルケインカノン発射口がその姿を現しました。

 空の色を思わせる澄んだ色の魔水晶が並列に三個並んでいるのです。

 さらに胸の前で交差させた腕を覆う篭手の装甲も開き、同じような魔水晶が二個並んでいるのが見えますわ。

 雷撃を増幅させるのが目的ですのよね?

 そうすると一、二、三……十個もの魔水晶で増幅させて、何する気ですの!?


「ち、ちょっとレオ……」

厄災の雷撃カタストロフェ・ブリッツ


 十個の魔水晶から放出された雷の魔力が青白く輝く、拡散された光条となって凍結して動かないコリネウスに襲い掛かかりました。

 とてもきれいなオーロラみたいでつい見惚れてしまいましたもの。

 当然、氷像は光の渦に呑み込まれて、粉々に砕け散ったわ。

 ええ、それ以外の物も色々と巻き込まれたようですけど。


 そうですわね……。

 レオって、そういうところがあるのを忘れていましたわ。

 魔法や斬りつける時に叫びたい人でしたわ。

 あまり、叫ぶと声が枯れますわよ?


『ふぅ……』


 レオの疲れ切って吐いた溜息にも似た吐息が私には悩ましく、聞こえるのは気のせいかしら?

 何だか、夜に激しく愛し合った後みたいで恥ずかしいのですわ。

 あら? ペネロペにもやや、呆れられたような気がするわ!?


「あのレオ、コリネウス以外も色々と吹き飛ばした気がしますのよ?」

『え?』


 確かに目標は見事に粉砕したと思いますわ。

 ただ、大地が抉られ、見るも無残な景色が広がっておりますけど。


 山や森が消えたというほどではありませんし、人的被害は出てないように見えます。

 これなら、レオが気にしないように慰めてあげた方がいいかしら?

 レオもそうしてくれたのですし、こういう時に優しくしてあげるのが年上の余裕ですわね。


 そんなことをぼんやりと考えていた私は離れた地で起きていた二つの戦いに気付くことがなかったのです。

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