第171話 とりあえず、撃ってみましょう

 駆逐戦車が十一両。

 自走砲が二十両。

 計三十一両で構成されたコボルト猟兵団による一斉射撃が絶え間なく、行われた。

 雨のように降り注ぐ魔導榴弾により、大地は穿たれ、勢いよく燃え盛る炎は竜の舌のように空をも焦がしていく。

 しかし、異形の兵団の歩みは止まらない。

 原型を留めていない仲間だったモノの骸を踏みつけ、死の行軍を続ける。

 腕が引き千切られようが胴体に大穴が開いていようが構わずにただ、進み続ける。


 頃合いと見たのか、砲撃の雨が止み、コボルト猟兵団が後方に退いていった。

 そして、『アオォォン』という狼の遠吠えに似た咆哮とともに一陣の風にように出現したのは魔動騎士アルケインナイトロムルス・ルプスだった。

 ロムルス・ルプスは黒い絨毯のように張り巡らされた異形の兵団に突っ込んでいく。

 疾走形態での高速移動の勢いを落とすことなく、両腕のクローを前面に押し出しながら、当たるを幸いと言わんばかりに触れる異形の歩兵ポーンもどきを切り裂く。

 縦横無尽に駆けていくさまはまるで狂える狼の王だった。


「狼殿! あまり、無理はされんようにな」


 左腕で構えていた大盾を水平に振るうと周囲の歩兵ポーンもどき数体が肉片に変わっていく。

 ロムルス・ルプスにやや遅れて出現したのはヘクトルだ。

 左の大盾をまるで相手をすり潰し、叩き壊す為の武器のように扱いながら、右腕一本で構える大太刀で流れるように目前の敵を切り裂くその姿はまるで白い鬼神のようである。

 コボルト猟兵団の砲撃により、足止めされていた黒い絨毯は新たに出現した銀と白の巨人を前に急速にその力を失っていった。


 しかし、魔動騎士アルケインナイトは無限機関ではない。

 内蔵された核と受容者レシピエントの魔力が作用し、その巨体を動かしている為、魔力の乱れと衰えが命取りになる。

 長時間を戦えば戦うほど、受容者レシピエントにかかる負担は増大する一方であり、不利になるのだ。

 力の差を見せつけ、歩兵ポーンもどきを全く寄せ付けず、軽く薙ぎ払うように戦いを続けていた二機の魔動騎士アルケインナイトだが、さすがに疲労の色は隠し切れなかった。

 痛みを感じることなく、ただ押し寄せてくる黒い絨毯は包囲の輪を次第に狭めてくる。


「これはいささか、まずいでござるな」

「確かになあ。やっちまったなあ」

「笑いごとではすまんでござるよ」


 大盾を前面に展開させ、魔法の防御フィールドを張るヘクトルの背後から、押し寄せる歩兵ポーンもどきをロムルス・ルプスがクローに内蔵された魔導砲アルケインカノンで確実に破壊していく、その手際の良さは二機の見事な連携によって、為されていた。

 だが、確実に追い詰められつつあることを受容者レシピエントの二人は気付いていた。


 その時、不思議なことが起こった。

 押し寄せる歩兵ポーンもどきの首が何の前触れもなく、次々と大地に落ちていく。

 首を失い、動きを止めたモノを意に介さないようにそのまま、進んでいこうとする歩兵ポーンもどきだが、そのモノたちも前触れもなく、縦に横に切り裂かれ、大地に伏していった。


「任務完了」


 二機の魔動騎士アルケインナイトを包囲していた歩兵ポーンもどき全てが動きを停止すると何もない空間から、影のように沁み出してきた黒いモノが人の形を象っていく。

 闇夜の色を纏い、各所に金色の意匠が施された細身の巨人。

 腕組みをしながら、静かに佇むモノ。

 その正体はまだ、アルフィン工房で調整が行われていたはずの大僧正ビショップ風魔だった。




『リーナ、行くよ! このままだとすることがなくなりそうだしね』


 繋いでいた手が離れていくのは辛いけど、我慢ですわ!

 我慢!!

 レオが難の憂いもなく、切り込んでいけるように全力を尽くすのが私の役目ですもの。


「ペネロペ、あなたの力を見せなさい」


 ペネロペの核が返事をするように唸りを上げ始めたのを合図に先行します。

 眼下に見えるコリネウスへと急速接近していくオデュッセウスを追いながら、ショルダーバインダーに格納されている薔薇の花弁ローゼンブラットを全て、射出しました。


「邪魔はさせませんわ」


 オデュッセウスの行く手を阻もうと動く歩兵ポーンのような物体を薔薇の花弁ローゼンブラットできれいに焼き尽くして、差し上げます。

 私、炎系の魔法はそれほど得意ではないのですけど、これくらいの芸当は出来ますのよ?


「えっと……確か、これですのよね?」


 ペネロペの背部には大型の羽根状の薔薇の花弁ローゼンブラットだけではなく、可動式の魔導砲アルケインカノンが二門装備されています。

 普段は邪魔になるので後方に向けているのですけど、戦闘時に使用する時だけ、前に向けられるのですわ。

 便利でしょう?

 ……とも言えないですわね。

 少々、邪魔になっているのは変わってません。

 収納して展開する変形機構は篭手にも内臓されていますから、応用すればいいのではないかと思ってしまうのです。

 ただ、背部のは大型の魔導砲アルケインカノンなので火力も高く設定されていると言っていたような……。


「とりあえず、撃ってみましょう」


 ペネロペが不安気に唸ったような気がしますけど。

 上空から、残像を残しながら、高速で移動するオデュッセウスがコリネウスの胴に強烈な蹴りの一撃を加えたのを確認してから、可動式魔導砲アルケインカノンを変形・展開させます。

 狙いはあの辺りでいいかしら?


『ちょっと待って、リーナ! それ、待って』


 レオの慌て声に私は高めていた魔力の解放を止めるのでした。

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