第168話 やっぱり、チャイナドレスだからさ
ドレスという言葉の響きに騙された私が迂闊でしたのね。
拳を器用に避けるレオに向かって、思わずハイキックを繰り出してしまいました。
自分の体が硬いことを忘れていたのもありますし、何かを失念していた気がしますわ。
何でしたかしら?
深いスリットが入ったドレスなので、普段と違って素足が出ているせいかしら?
「えいっ」
「ダメだって、リーナ!」
「ひ、ひゃい」
さっきまでふざけていたのにレオが、急に真面目でキリッとした顔をしています。
一体、どうしたというのでしょう?
いえ、それどころではないのでしたわ!
足首をしっかりと掴まれ、壁に押し付けられているのです。
顔の横にはレオの手があって……。
目の前でキスが出来る近さに彼の顔があるんですもの。
ロマンス小説で言うところの壁ドンではありませんの?
「リーナ、何かを忘れてないかな?」
「ふぇ? な、何をですの?」
さらにレオの顔が近付いてきて、押さえられたまま、キスをされる……『強引にされるのも悪くないですわね』と考えると妙にドキドキとしてくるのはなぜかしら?
もう数え切れないほどのキスを交わしていますのに。
やはり、目を瞑った方がいいかしら? などと考えていた私の耳に入って来たのは予想外の言葉でしたわ。
「下着を履いてないよね」
「あっ……」
えぇ、思い出しましたわ。
レオに『似合うと思うんだ』とプレゼントされたのは私と彼の瞳の色によく似たきれいな紅色に染められたドレスでした。
喜びのあまり、思わず、レオの頬にキスするほどに浮かれてしまったた私ですけど、ドレスを広げ、その全体を確認すると心が急に氷点下になりましたのよ?
「レオ、このドレス。手も足も肌が出過ぎるデザインではなくって? それに胸のところが開きすぎではありませんの?」
「チャイナドレスだからね」
胸にそれほどの自信がある訳ではありませんもの。
レオが毎日、愛情を込めて丁寧に……ですので、多少は育ったとは思うのですけど、わざわざアピールする程ではありませんわ。
「ち、血合いなどれす? これ、血で染めてますの?」
「違うって。そういう名前なだけ! リーナは足がきれいだから、似合うと思って」
そう言って、ちょっぴり顔が赤くなっているレオがかわいいから、着ますわ。
恥ずかしいですけど、平気なのです。
だって、顔を赤くしたレオがかわいいんですもの。
「え? 下着を付けたらいけませんの? それはちょっと……」
「見えると変だからね。大丈夫だから、ちょっとだけだし……ね?」
そんなことを前に言われた記憶があるのですけど!
『ちょっとだけ』が夜通しでしかも抜かずにずっと愛されましたけど!
レオの『ちょっと』と私の『ちょっと』に齟齬があるのかしら?
いいえ、いいのです。
レオが喜んでくれるのなら、少しくらいの恥ずかしさは我慢してみせますわ。
「あ、あまり見ないでくださいませ」
「やばい。かわいい! 無理!」
「ちょっと、レオ!?」
案の定。
予想通り。
レオの前で一回転をしようと背を向けた瞬間に襲い掛かってきましたわ。
奇跡的に避けることが出来ましたけど。
紙一重でしたのよ?
危なかったですわ。
レオの息遣いは荒いですし、手はワキワキと動いてますし、捕まっていたら……秒でされてましたわね。
本当、危ないですわ。
……という訳で無理をして、彼にハイキックをしようとした結果、足首を掴まれて、壁ドンをされている現状に繋がるのです。
「今、すごい状況な訳だけど?」
「あぅあぅ……」
下着を着けていないのに思い切り、ハイキックをしました。
スリットが深いので見えてはいけないところまできれいに見せていることになります。
それも自ら、足を開いている訳ですから、その恥ずかしさたるや……頭から湯気が噴き出しそうですわ。
脳が沸騰しそうになるというのは本当のことでしたのね?
「いつ見てもきれいなままだし、準備もいいよね?」
「にゃ、にゃにをジロジロ見てますにょ!?」
言語中枢もやられたようです。
さらにこの状況で感じているなんて、どこか別の部分もやられてますわね。
「このまま、壁に圧しつけながら、側位がいい? リーナも好きだよね」
「ひ、ひゃい、奥までくるからぁ……し、しょんなことないですからぁ」
「でも、ダメだよ? 僕、決めてたんだ。後ろから、思い切りしたいって」
「は、はい? ひゃぅ」
次々に打ち出されるレオの攻撃を前にたじたじになっています。
頭はもう混乱状態でまともに思考出来る状況になく、気も弛んでいたのでしょう。
急に横抱きに抱えられても全く、抵抗することなく彼の腕の中に収まりました。
そのことで余計に混乱を来してしまいます。
「やっぱり、チャイナドレスだからさ。いいよね?」
「な、なにがですのよ!? いいねって?」
そのまま、まだ手付かずの書類が重ねられたままの机の方へと連れていかれ、下ろされました。
え? どういうことですの?
「机に手をついて、顔はちょっとこっち向けて、こんな感じかな。それで足は……こうかな」
海岸で水着を披露した時、気絶するくらいまで愛された記憶が蘇りました。
アレはすごく気持ち良かったですけど。
体力的に結構、きつかったのを覚えています。
今日のドレスにも何だか、ものすごく思い入れがあるみたいですし……大丈夫かしら?
不安に思う心が呼んでしまったのかしら?
コンコンと遠慮がちに扉をノックをする音が響いたのでレオが口を
自分は穴が開くくらいに見つめるけど、他の人に見られるの嫌いですものね。
私だって、レオ以外に見せたいなんて、思ってませんのよ?
「知ってるよ」
そう言って、軽く
愛されているって、実感が出来るもの。
でも、ノックのお陰で助かったと思ったのは内緒ですわね!
レオは血合い……ではなく、ちあいなドレスを着た私を余程、見せたくないのでしょう。
私を室内に留めたまま、用件を聞きに行きました。
暫くして、戻ってきた彼の顔に浮かぶのは憂い。
そんな沈んだ表情をしている彼を見ていると心配で不安になってきます。
思わず、駈け寄ってしまい、あっさりと捕獲されました。
「面倒なことになるかもね」
私を抱き締めながら、
そんな彼を励ましたくて、背中に腕を回して、抱き締めてあげます。
こんなことでレオの力になれるかは分かりませんけど、ただ、そうしたかったから。
「続きは今度、ちゃんとするね」
「ひ、ひゃい……」
額に口付けを落として、ニッと微笑むレオの顔には無言の威圧感というものがあります。
諦めてもいなかったし、忘れてもいなかったんですのね。
ノックのせいで興が削がれただけなのかしら?
その日、もたらされた急報はバノジェの北東に位置する熱帯雨林で発生している異常事態だったのです。
どうやら、ベリアルが言っていた面倒なことが起きてしまったようですわ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます