第155話 全く、首が一つだけでもしつこいんですのね?

 ちょっと頭が痛くなってきましたわ。

 アウラールの巨大新星爆ジャイガンティックノヴァブラストが想定外の威力でした。

 これではまた、地形が変わって環境に変化が生じますわね。


「リーナ。それより、問題なのはあっちだね」

「そうですわね」


 巨大新星爆ジャイガンティックノヴァブラストが急深な海岸を極端に遠浅の地形に変えてしまった。

 これは覆しようのない事実ですわ。

 しかし、それ以上に問題となる現象が起きてしまったのです。

 七色の光で穿たれたギータの苦し紛れに放った黒い閃光。

 渦潮で沈み行く体に虹の閃光を受け、そのまま大人しく沈んでくれたら、良かったのですけど。

 アウラールの翼を狙って、撃たれた腐食ブレスが偏光障壁に弾かれたのですわ。

 弾かれた方向がよりによって、陸地だったんですもの。

 由々しき事態ですわね。


 ギータの腐食ブレスは熱線や雷撃に似た特性を持ち、直線状に放射されます。

 紫色の燐光に彩られていて、闇の色を纏った閃光のようにも見えて、きれい……などと言っている場合ではありませんわね。

 中々の大惨事ですもの。

 黒い閃光が走った海岸線には大規模な崖崩れと地割れが発生。

 様変わりした地形は風光明媚とはとても言えないものですわ。

 どうしますの、これ?


「どうする?」

「レオは戦ってみたいのでしょう? あの時よりも弱くて、歯応えがないかもしれませんけど」

「うん。それじゃ、ちょっとだけ楽しんでくるよ」


 レオはそう言うとサムズアップをしてから、飛び降りていきました。

 結構、高さがあったはずなのですけど、相変わらず、無茶しますわね。


「アウラール、あそこに降りることは出来るかしら?」

『ピロールー』


 まだ、被害の出ていない比較的、きれいな砂浜が残っているようです。

 そこに降りるようにとアウラールに指示を出しつつ、地上を窺いました。

 ギータは少しばかりのダメージを受けたようですが、既に渦潮から抜け出し、上陸を果たていました。

 考えていることは同じなのかしら?

 まだ、きれいな砂浜を目指しているようです。


「全く、首が一つだけでもしつこいんですのね?」


 ギータの全身を覆っている朽ち果てた肉塊は全て、こそげ落ち、その姿がさらに不気味さと異様さの増した禍々しいものになっています。

 想像してみてください。

 骨だけなのにミシミシギシギシと不快な音を立てながら、動いてますのよ?

 まず、どういう原理で動いているのか。

 そして、自重で壊れないのか。

 頭の中に次々と湧いてくる疑問に際限がないみたい。

 面倒ですから、思考は一旦、切りましょう……。


「でも、コアもないただの死んだ首一つでは話になりませんのよ?」

「ふわぁ、ニール眠いー」


 あまりにやることがないのでニールを眠気という名の抗いがたい魔物が襲い掛かってきたようです。

 でも、アレはレオがすぐに片付けるでしょう。

 問題ないですわ。

 ニールが少しでも寝やすいように優しく、頭を撫でていると安らかな、寝息が聞こえてきました。


 🦀 🦀 🦀


 その頃、巨大新星爆ジャイガンティックノヴァブラストの余波で波打ち際に打ち上げられたトリトンは救援の信号を送りつつ、上陸しようと立ち上がろうとして……

 第一歩で盛大にコケていた。


「ちょっと~、何してんのよ~」


 水陸両用として、水中活動は完璧なまで調整が施されたトリトンだが相変わらず、歩行すら、満足に出来ないのだった。






――Side レオンハルト

 水中をうごめく白い影を補足した僕はアウラールから、飛び降りると魔装を纏ったまま、真・獣形態に変身する。

 リーナが本来の姿を取り戻した以上、僕の力も最大限に発揮出来るってもんだ。


 地上に降り立つ頃には僕の姿は真っ黒な獅子に変化しているが以前よりも大きくなっている。

 何よりも魔装の力が反映されて、今まで出来なかったことも可能になっただろう。


 力のセーブがやや出来ていなかったかな?

 着地した場所がクレーターみたいに大きく陥没していた。

 うん。

 だけど、これくらいは問題……ないかな?

 大事の前の小事っていうし、大丈夫だ。

 リーナは多分、許してくれるから、いいことにしよう。


 天に向け、咆哮するとまた、やらかしてしまった気がする。

 周囲の地形がちょっとばかり、吹き飛んだと言えないこともない。

 だけど、これくらいのやっちゃった感も多分、平気だ。

 リーナは許してくれる……はず。


 そんなことより、今はからくり仕掛けの山車のようにぎこちない動きで動いている骨だけのモノを倒すのが先決だ。

 折角だから、試してみるか。

 前腕を覆っている篭手のような金属状の装甲。

 これは魔装の影響に依るものだ。

 そして、これは僕の新しい攻撃手段でもある。

 ガシャリという金属音とともに両腕の篭手から、鋭利な刃物のようなものが展開された。

 このブレードなら、いけるな。

 爪で切り裂くのより、ずっと愉しめそうだ。


「八つ裂きにしてやる! いや、細切れにしてやるかな? どっちでもいいや」

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