第154話 二人ともさては私を萌え殺そうとしてません?
黄金の三頭竜と漆黒の巨獣がもんどり打ち、黒い巨竜ギータはそのまま、青く凪いだ海に沈んでいく。
ミクトラント大陸南部の海岸は急深な地形で知られている。
その為、全高だけでも五十メートルをゆうに超え、その身の丈よりもさらに長大な尾を入れれば、全長百メートルを超える巨体であるギータであっても簡単に呑み込むだけの深さがあったのだ。
アウラールの強烈な一撃により、弾き飛ばされた衝撃もさることながら、それなりの高さから、海面に叩きつけられたにも拘わらず、ギータは何の痛手も被ってないかのように体勢を整え、ゆっくりと浮上していく。
巨体のせいか、陸上では鈍重な動きしか取れなかったギータだが、水中ではその楔から解き放たれるのだろう。
「さっせないよ~」
青い海を突き抜けるように進む灰色の弾丸がギータの長い尻尾の先端を分断し、その動きを止めた。
灰色の弾丸――デュカリオンの操る水陸両用型
拳の代わりに前腕から生える爪とやや湾曲した短めの足が二足歩行をする蟹のようだと揶揄された奇抜なデザインの機影である。
縮むように畳まれていた腕部と脚部が伸ばされ、背部と脚部から
その腕を水平に伸ばし、ゆったりとした泳ぎ方で海上へと逃れようとするギータを捉えた。
「いっちゃうよ~」
胸部で真っ赤な
合計十二本の射出された物の正体はトリトンに備えられた鋭い爪だった。
それは的確にギータの爪先――指の部分を狙って、一直線に進んでいき、黒い巨獣の泳ぎを確実に阻害していた。
「さてとそれじゃ、仕上げと行きますかね~」
トリトンによる執拗な攻撃を蚊に刺された程度としか、認識していないのだろうか。
意に介した素振りも見せず、そのまま浮上しようと泳ぎを進めるギータを見て、デュカリオンはその美しい顔を歪め、邪な笑みを浮かべる。
腕部と脚部を再び収縮せさ、巡航形態に変形したトリトンの
灰色の弾丸は浮上していくギータの周囲を凄まじい速度で螺旋を描くような動きを見せる。
「さあ、その身で味わいな。
トリトンによって、描かれた螺旋が大きなうねりとなって、ギータを包囲し、その恐ろしい姿を見せ始める。
やがて、出現したのは巨体を誇るギータを簡単に呑み込めるほどに大きな渦潮だった。
うねる波の音は耳にも恐ろしく、全てを呑み込まんとして、大きな口を開ける渦潮が黒いドラゴンを海の底へと誘うのだった。
🦊 🦊 🦊
「えげつないですわね」
「だから、嫌だったんだよ」
口を開けた巨大な生き物に呑み込まれるように昏い海中へと引き込まれていくギータの姿を見ていて、思わずため息が漏れそうになりました。
あのようなモノを量産してはまずいのではないかしら?
「大丈夫だよ、リーナ。あんな性能を発揮するのはあいつだけだからさ」
「そうですの? では一般的にあの力を出す訳ではございませんのね」
リミッターで制限を掛けることも考えたのですけど、その心配はいらないってことかしら?
まぁ、いいですわ。
トリトンはレオにお任せした事案ですし、今は目前の敵を滅するのが先ですもの。
「アウラール、あの渦潮の中心を狙うの。出来るわね?」
『ピロルル!』
右の首はオレンジの色をした熱線の
左の首は青白い色をした雷撃の
私達が乗っている中心の首はコバルトのように目の覚める色をした凍結の
三つの首がそれぞれの
アウルーラの名のように虹色に輝く、美しい閃光ですわ。
「そうね。
「へ、へえ。リーナも結構、厨二病なんだね」
渦潮どころか、かなり広範囲が吹き飛んだような気がしますけど……。
でも、アレの正体が私の読み通りでしたら、これでも消滅していないかもしれないわ。
面倒ですわね。
「はい? ちゅうにびょーですの?」
「ちゅーにーびょ?」
「何でもない。何でもないよ。二人とも気にしないでいい」
レオは魔装を着込んでいますから、フルヘルムです。
表情が分かりにくいのですけど、私には分かります。
今、真っ赤な顔ですごく照れてますのね?
どうしてかは分かりませんけど、かわいいですわ。
私とニールの前でかばうように立つ彼の腰に思わず、抱き付いてしまうとさらに赤くなった気がしますわ。
ニールは私に抱き付いていて、こちらもかわいいですわ。
二人ともさては私を萌え殺そうとしてません?
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