第153話 ドラゴン・エアラインへようこそ
『ガオオオオオオン』
漆黒の巨大な獣が天空に向け、空気がビリビリと震えるほどの咆哮を上げた。
その巨体を再び、東に向けると緩慢とした動作で歩みを進めていく。
激しく揺らぐ大地に獣から腐り落ちる肉塊が黒いシミとなって、大地を穢す。
ズリズリと足を引きずるようにゆったりとした歩みを進める黒蝕竜ギータが次の一歩を進めた瞬間、巨体がグラリと傾いた。
掘削した陥穽に片足がはまったのだ。
それを見計らったように空気をつんざく轟音が鳴り響き、魔導榴弾がギータの足元に目掛け、飛来した。
榴弾は着弾と同時に広範囲を巻き込む大爆発を起こし、ギータを足元を崩していく。
完全に片足を掬われた形となった巨獣は怒りも露わにその長大な尾を払い、周囲の木々を薙ぎ倒す。
だが、こうなる原因となったモノの姿を捉えることは出来ず、藻掻けば藻掻くほどに巨躯が枷となって、沈んでいった。
やがて、身動きの取れなくなったギータが青く澄んだ空を睨み据える。
その視線の先には自らの方に向け、飛来してくる金色の竜がいた。
『ガオオオン』
ギータは憎々し気に再び、空気が震撼する唸り声を上げるのだった。
🦊 🦊 🦊
『ピロルルルル! ピロルルルル!』
独特の甲高い咆哮を上げながら、空を往く金色の竜での快適な旅。
ドラゴン・エアラインへようこそ。
……というほど快適ではありません。
魔装を装着したレオとどうしても付いていきたいと珍しく、駄々をこねたニールとアウラールの頭の上にいるのです。
彼は魔装の効果もあって、それほど支障が無く、立っているようです。
直立している必要性があるのかは怪しいですわね。
ですが、これほどの高速で飛行しているのです。
ニールを抱っこして座っている方が安全ですわ。
レオが前に立っているお陰か、幾分、風の強さが和らいでいるのもあって、そこそこ空の旅を楽しめますわね。
「リーナ。まさかとは思うんだけどさ。何か、した?」
「え? し、知らないですわ」
ちび竜状態になったアウラールがあまりにかわいいのでちょっと、血をあげただけですのよ?
私はまだ、出ませんでしょう?
ヘルにもニールにもあげられることが出来なくて、どうしましょうと考えたのです。
そこで血を与えることにしましたの。
二人とも立派に育ったので育ての母として誇りに思っていたのですけど……
元来の恵まれた才能と力だけではなく、どうやら私の血に何らかの秘密があるみたい。
それに気付いたのは最近のことですけど。
アルフィンに赴いて間もなくの頃でした。
まだ、住む人の数も少なく、人手が欲しかったので蟻に血を与えたのです。
二足歩行の蟻型獣人ミュルミドンに進化しましたもの。
アウラールは金色がさらに輝く感じになったくらいですから、バレていませんわ……多分。
「そのようなことよりもアレですわ」
「あれがギータか。意外と大きいね」
「マーマ、戦う?」
小首を傾げ、かわいらしいニールの様子に胸の奥まで温かい気持ちになりますけど、静かに首を左右に振ります。
『いいのよ。ここはこの子に任せてあげるの。お姉ちゃんだから、大丈夫でしょう?』『うん』と来る時に駄々をこねた割に素直なニールの愛らしい姿にさらに幸せな気分に浸るのですけど!
本当でしたら、ニールとキリムにも手伝ってもらい、アウラールと力を合わせるべきなのでしょう。
三対一でしたら、余裕で勝てるとお思いになられるかしら?
でも、あのギータというドラゴンは特殊。
そうである以上、慎重を期したいのですわ。
「アウラール、アレを海の方に飛ばせるかしら?」
『ピロルルルル!』
『任せて』と言ってますわ。
アウラールは飛行体勢のまま、高度を下げつつ、ギータに接近します。
まずは先制攻撃を仕掛けるようです。
私達が乗っている中央の頭を除いた左右の頭がブレスの放射体制に入り、もたげられました。
右の頭からは直線状のオレンジ色の火炎が放射され、左の頭からはレオの雷撃魔法によく似た青白い直線状の電撃が放射されます。
やや狙いが甘いらしく、周囲の地形を壊し被害を出しながら、ギータに直撃した二色のブレスは黒く、腐り果てた肉塊のようなその体表をズタズタに引き裂きました。
致命的なダメージを与えたようには見えません。
「アレ、中々に厄介みたいだね」
「そのようですわね」
『ピロルルルル! ピロル!』
さらに速度を上げたアウラールがまるで猛禽類が獲物に襲い掛かるように強靭な後ろ足でギータを蹴飛ばしました。
百メートルを超える質量同士の物体がぶつかりあった衝撃は中々の見物でしたわ。
ギータも見上げるような巨体ですけど、アウラールはそれ以上と言っても過言ではありません。
滑空したことで勢いが増していたのでしょう。
狙い通り、真っ黒な身体がスローモーションのようにゆっくりと海へと倒れていきました。
耳障りな轟音と衝撃は凄まじいものでしたが、レオがかばってくれたこともあり、私もニールも吹き飛ばされることなく、何ともありませんでした。
その姿がまるでロマンス小説の王子様のようで……レオへの愛がさらにさらに強くなったのは言うまでもありませんわね。
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