第156話 アレが弱いのではなくて、レオが凄いだけなのよ

 骨だけの姿になったから、もう骨ドラとでも呼んであげた方がいいのかしら?


「マーマ。あれ、大したことない?」

「そこそこ、大したことがあるはずなのよ」

「でーもー、弱そうだよ?」


 黒い疾風と化したレオを相手に手も足も出ないようですわ。

 それどころか、足を一本、完全にもぎ取られ、骨ドラこと黒蝕竜ギータは無様な姿を大地に晒しているのです。

 元々、前腕が退化して、小さいドラゴンですから、支える足がなくなれば、腕でどうにか、出来ようもないのでしょう。

 それよりも骨だけでどこがどう繋がっていて、どういう仕組みで動いているのか。

 そこが不思議なのですけど。

 レオは的確に接合部分を見抜いて、切断してますのね?


「アレが弱いのではなくて、レオが凄いだけなのよ」

「パーパ、スゴイね!」

『ピロー』


 抱っこしているちびドラ状態のアウラールも小鳥のように澄んだきれいな声で鳴いてますから、嬉しいのでしょう。

 レオって、圧倒的な力で押していく破壊力だけに目が行き、評価されがちですけど、彼の実力はそれだけではありませんのよ?

 圧倒的なパワーを生かすには驚異的なスピードもなくてはならないもの。

 そうなのです。

 絶対的な戦闘力を引き出しているのはバランスが最適だからこそ……。

 力、技、速さ。

 このバランスが優れているので強いのですわ。


 一人で納得し、うんうんと頷いていますといつの間にか、戦闘らしい戦闘が終わっていました。

 ものの数分で骨ドラは白い骨の残骸で構成された瓦礫の山に化けたのです。

 ここまできれいに解体されるとはギータも思わなかったことでしょう。


 レオは獣形態を解いて、黒甲冑に金のエングレービングが印象的な魔装に戻っていました。


「おかえりなさい、レオ」


 私のところへとゆっくり、帰って来てくれる彼の姿に安心して、気が弛んでいたのでしょう。

 警戒するのがちょっと遅れてしまいました。


「あら?」

「へえ、まだやる気みたいだね、あれ」


 ガラスの割れるようなパリンという音が微かに聞こえました。

 どうやら、七つの門セブンスゲートが三枚ほど破れたみたい。

 眉間を狙ってきたのか、鋭く尖った黒く、長い物体が目の前にありますわ。

 七つの門セブンスゲートで止まってますし、レオが押さえてくれましたから、何も起きてませんけど。


 害意の正体は白い瓦礫の山から、出現した真っ黒で大きな卵状の物体。

 その卵から、伸びている何かの生物の尻尾のようですわ。

 伸縮自在の遠隔武装とでも言えば、適格かしら?

 使えそうですわね。

 ペネロペに応用して、装備するのも悪くないですわね。


「あの、レオ?」

「止めても駄目だよ」

「止めませんわよ?」

「じゃあ、遠慮なく行くよ!」


 黒い尾を掴んでいるレオの拳から、青白い光が溢れ始めます。

 彼がもっとも得意とする雷属性の魔法を、流したのでしょう。

 やがて、光は尾を伝っていき、黒い卵までもが青白く発光を繰り返し始めました。


 一際、光の強さが増したかと思うと焦げ付くような臭いがしてきます。

 黒い卵から、黒煙が上がったので思い切り、電撃を流しましたのね?

 高出力で放出された電撃は下手な炎魔法などの比ではない破壊力を有しますもの。


 レオはそのまま、尾を両手で掴み、まるで陸上競技のようにグルグルと体を回転させながら、卵をさせ始めました。

 遠心力を利用し、高速で回転させているので見ている私とニールの方が目を回しかねませんわ。

 アウラールは既に首がこんがらがって、目を回しているのですけど!

 そんな様子すら、愛らしくて、かわいいのですわ。


 また、ちょっと目を離している間にレオは勢いそのままに力いっぱい、地面へと叩きつけました。


「あらあら……また、地形が変わってしまいましたわね」


 黒い卵が叩きつけられた大地に大きなクレーターが出来上がっています。

 この砂浜を元の風景に戻すのにどれほどの月日と労力が必要になるのかしら?

 ネスに再生計画を任せれば、問題ないでしょうけど……あら?

 先程の衝撃で殻が割れたらしく、這いずるように何かが出てきたようですわ。

 全身をぬめりを帯びた黒光りする鱗が覆った体毛のない不思議な体表面をしていて、長い尾を備えて、二足で歩いています。

 やや前傾姿勢になっており、足が短めのせいか、長い鉤爪の生えた両手は地面に届きそうに見える異様な姿です。


 それよりも不気味なのは頭部かしら?

 異様なほどに長く伸びた後頭部と細く鋭い牙が剥き出しになった口吻から、涎が絶え間なく、垂れていました。

 側頭部に備えられた金色に輝く、十個の器官が目に相当するものらしく、そこには何の感情の色も浮かんでいません。


「レオ、塵一つ残さず消して、よろしくてよ」

「分かった!」


 アジ・ダハーカの首の一つだったモノ――そして、ギータの疑似核となっていたモノは『キシャー』という耳障りな鳴き声を上げながら、動き始めるのでした。

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