第151話 仔犬がブンブン尻尾を振っている幻が見えますわ
おかしいですわ。
レオがちょっと不機嫌なのです。
「どうしましたの?」
「な、なんでもないよ」
そう言いながら、目を逸らすのですけど頬は上気したように赤らんでいて、明らかに何かを求めていますわ。
トリトンの
そうしたら、レオの様子が前述のようにおかしいんですもの。
ソワソワしていると言う方が正しい表現かしら?
「僕もそれ、したい」
「何か、仰いました?」
「マーマ、これはもうないのー?」
右隣に座っているニールは自分の顔と同じくらい大きな菓子パンを頬張っていました。
ついさっきまではそうだったのですけど……もう食べてしまったようです。
下手すれば、パン屋さんの商品を食べ尽くしますもの。
ここは甘さで誤魔化すことにしましょう。
砂糖をたくさんまぶし、蜂蜜をたっぷりとかけた超甘党仕様の真ん丸なパンをニールに渡しました。
甘党な彼女は案の定、喜んで、もしゃもしゃと食べ始めます。
手が汚れますわね。
それをドレスで拭かないで欲し……一足、遅かったようです。
私の願いは叶いませんでした。
ニールの黒いワンピースは砂糖と蜂蜜でデコレーションされていったのです。
大惨事ですわね。
そして、膝上には私が抱き締めるような姿勢で金色のかわいらしい生き物が鎮座ましています。
飛べるのかも怪しい、ちっちゃな翼。
三つの首と頭。
黄金色の丸々とした奇妙な蜥蜴のような生き物はアウラールです。
お目目もつぶらな瞳をしており、全長百メートル以上ある凶悪な面構えのあのドラゴンと同じと考えられる人は少ないでしょう。
「アウラール、かわいくありません?」
「あっ……うん、かわいいよ。だから、僕もそれをして……」
「声が小さくて、よく聞こえませんのよ?」
聞こえなかったのですけれど、レオのソワソワして、落ち着かない態度で何となく、察しました。
そういうことでしたのね?
「レオ。ここにどうぞ」
「いいの?」
ポンポンと太股を軽く叩きながら、そう言うとレオは満面の笑みでソファに横になります。
仔犬がブンブン尻尾を振っている幻が見えますわ。
喜びを隠さない表情の豊かさに私がそっと彼の髪を梳くように撫でてしまいました。
これは癖になってますわね。
何ともいえないモシャモシャとした感触。
これはモフモフを愛でるのと同じくらい手触りがいいですわ。
いえ! それ以上に気持ちいいんですもの。
「本当はそっちの感触を味わいたかったんだけどなぁ」
「んんん?」
「何でもない」
胸で抱き締めているアウルーラの方を見て、レオが何か、呟いた気がするのですけど、はぐらかされました。
あの目はアウルーラではなく、胸を見ていたような気がしますわ。
レオって、好きですものね?
彼の目が歩くたびに揺れる豊かなモノを追っていたことを知ってますもの。
でも、それでレオが浮気をしたり、私に興味を失くすことはないと分かってますけど!
きっと胸に対する執着が強いのはお母さまへの想いとか、色々あるのですわ。
ただ、レオのその拘りのお陰で私の胸が明らかに見て分かるくらいに成長したのです。
全然、成長していなかったのにちょっと複雑な気分になりますけど、彼が喜んでくれるのでいいのですわ。
「夜にゆっくり味わえば、いいしね」
「え? そうですわね」
まだ、お昼前ですのにもう夕食の話だなんて。
レオは育ち盛りですものね。
ほんのちょっと前まで私よりも小さくて、かわいくて。
丁度、胸で抱き締められましたのに!
今では私の方がレオに抱き締められる側なんですもの。
彼の胸板を通して感じる熱にドキドキして、ポカポカするので幸せですけど。
🐉 🐉 🐉
その頃、ギータの侵攻予想地点における大穴掘削作業班の作業が完了していた。
巨大な陥穽は偽装を施され、ぱっと見では周囲の地形と遜色がなくなっている。
ギータの到着予定時刻は刻一刻と迫っていた。
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