第150話 ニールも妹が出来て、嬉しいかしら?

 『ピロルルルル』という妙に甲高い鳴き声を上げながら、降臨したのは黄金の色をした鱗が美しい三頭の竜アウルーラです。

 広げられた翼だけでも百メートルを超えてますわね。

 頭部も人に威圧感を与えるの十分なドラゴン種の中でも屈指の恐ろしいもの。

 子供が見たら、夢に出るのではないかしら?

 大人でもかなりの恐怖感を味わえる代物だと思いますわ。


 ドラゴンは遠い親戚と言っても過言ではないくらいに近い存在です。

 私もレオも力を解放した姿である真・獣形態は人のこと言えませんし……。

 だからこそ、この人の姿でありたいのですけど。

 レオはあまり、そこを気にしてないみたい。

 黒獅子の姿を『かっこいい?』とポーズを取っていたんですもの。

 アウルーラを見て、目を輝かせてますわね。


「何が起きてますの?」

「リーナのことを母親だと思ってるんじゃないかな」


 大地に舞い降りたアウルーラは一直線に私の方へ向かってきたかと思うとまるで大型犬が飼い主に親愛の情を示すように鼻先を近付けてきたのです。

 ただ、その大きさが大きさですから!

 あちらは親愛の情を示しているつもりでも危険ですわ。

 普通の人間だったら、死んでいるのではなくって?


一体化ユナイトで思わぬ副作用が出てしまったのかしら?」

「まあ、いいんじゃないかな」


 最近のレオは独占欲を隠そうとしません。

 私、いつの間にか、横抱きに抱えられてますもの。

 この体勢では喋るついでにキスの雨が降ってくるので心臓によくありませんの。


 予定では命の灯が消えかけていたズメウの兄弟を一体化ユナイトで助け、協力してもらうつもりだったのですけど。

 私のことを母親と認識してくれるのなら、より話が進めやすいですわ。

 ニールも妹が出来て、嬉しいかしら?


 さて……まず、あの巨体を止める為に罠を仕掛けないといけませんわね。

 幸いなことに知性は高くないようです。

 ただ、東へと一直線に向かおうとしているので進路上に仕掛ければ、勝手に掛かってくれるのではないかしら?

 巨体が仇になる罠で簡単そうですわ。


「ねぇ、レオ。例の新型の戦車ルークは使えるのかしら?」

「駆逐はまだ、駄目だよ。自走砲なら、いけると思う」


 十分ですわね。

 迎え撃つ手立ては整いましたわ。

 古典的な手法ではありますけど、陥穽は効果的ではありますもの。

 要は動きを止められれば、いいのです。

 たかが落とし穴、されど落とし穴ですわ。

 重ければ重いほど、効果は絶大ですもの。


 アウルーラには誕生して間もないのです。

 圧倒的に経験値が足りない以上、ギータを動けなくして、有利な状況に持っていかねばなりませんものね。


「トリトンは出せますの?」

「修理は終わったし、受容者レシピエントも魔力同調シンクロに問題ないってさ」

「そう……いきなり実戦は厳しいでしょうね」

「大丈夫……だと思うよ」

「そうですの?」


 レオにしては煮え切らない言い方をするのね。

 珍しいですわ。

 何か、ちょっと怪しいのですけど!?

 トリトンの受容者レシピエントに何か、秘密があるのかしら?


 👷 👷 👷


 海岸線から、やや離れたところで大規模な土地の掘削作業が行われていた。

 威勢のいい掛け声とともに作業に従事しているのはオーガやオーク、リザードマンといった力自慢で知られている種族が多い。

 スコップを手に掘削活動に勤しんでおり、大きく深い穴を掘ろうとしているようだ。


「おめえら、急げ! 急げ! ヤツが来る前に急げ! 急げ!」

「おうとも! おうとも!」


 一心不乱に穴を掘り続ける彼らの姿はまるで何かに憑りつかれたように見えても仕方がない。

 それほどに迷いが見られない。

 だが、正気を失っている訳ではないのは彼らの目を見れば、分かるだろう。

 他種族を喰らい、繁殖の道具としか見なさないと言われる凶暴な性質で知られている者とは思えないほどに闘志に燃えたその瞳には邪な想いなど、一切なかった。


 大穴の掘削作業が行われている地点より、やや北東へ五キロメートルほど進んだ小高い丘陵地がある。

 徐々に広がっていく大穴を視認出来るその地に急ごしらえで建造された新型戦車ルーク・自走砲が二十両ほど配置されていた。


 その場を仕切るのはコボルト族の長であるパトラだった。

 パトラはマズル(口吻)が短く、仔犬に似た顔つきの多いコボルト族にあって、シュッとした長いマズルでどちらかと言えば、精悍な顔つきをしている。

 だが、背丈は人間の成人男性の平均身長の胸のあたりまでもない非常に小柄なものだ。

 その全身はシルクのように細く、美しい毛が覆っており、モフモフ好きな人に見つかったら、もみくちゃにされること間違いなしの見た目である。

 しかし、彼らコボルトは愛くるしい見た目だけの種族では決してない。

 その小さな体には勇気と不屈の闘志が詰まっているのだ。


「配置完了でしゅな」


 パトラは整然と並ぶ自走砲部隊を見やり、腕を組みながら、うんうんと満足気に頷いた。

 彼がハッチを閉めると魔動機関アルケインエンジンが唸りを上げ、搭載された大型魔導砲アルケインカノンが射角を取るべく、ゆっくりと動き始めた。

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