第145話 ロマンとやらで思いついたのでしょう?
上半身が湖に浸かったままで何ともみっともない姿を晒しているトリトンの回収作業が開始されたのは翌日のことでした。
トリトンはレオとザルティス爺肝入りのロマン兵器みたい。
是非とも見届けたいとレオが希望したので私も同席となったのですけど。
ええ?
昨夜もいつも通りでしたわ。
横抱きに抱えられているのもいつも通りですわね。
「ねぇ、レオ。あれは何ですの?」
「こんなこともあろうかと思って」
キュラキュラという奇妙な駆動音を上げながら、現れたのは上半身が
上半身は急ごしらえなのかしら?
良く言えば、とても素朴な感じと言えなくもありませんけど。
胴体部は
ただ、頭部は単眼を備えた半円状の簡素なもの。
腕もほぼフレームが剥き出しになっていますから、簡略化しすぎにも程がありますわね。
「また、ロマンとやらで思いついたのでしょう?」
「ははっ。な、なんのことだか!?」
レオを責める訳ではないですけど、ジッと見つめると乾いた笑い声をあげながら、目を逸らしました。
どうやら、図星だったみたい。
「あれは作業用に考案されましたの?」
「うん。ポール・バニヤンって、言うんだ」
「そ、そうですのね。それで大丈夫ですの?」
ポール・バニヤンなる名を与えられた作業用
凄く強引と申しますの?
大雑把過ぎて、むしろ清々しいですわね。
ミシミシガラガラの後にガシャンと金属の軋む嫌な音が響き渡りました。
壊れましたわね……。
「大丈夫ではなさそうですわ」
「うん……」
レオが落ち込んでいるモードに入りましたわ。
仔犬の耳がぺしゃんと折れ、『くぅ~ん』と啼いている状態ですわ。
本当は仔犬ではなく、逞しい獅子なのですけど。
「でも、逆に良かったと考えたら、どうですの? 試験段階で問題が発生すれば、まだまだ、改良出来るということですわ。もっと良く出来ますのよ?」
「そうだよね。うん、分かった」
🦊 🦊 🦊
トリトンの回収作業を一通り、見守り終わって、執務室に戻りました。
昼食をとりながら、レオのお仕事を手伝います。
今日の昼食はじっくりことこと煮込んだミートソースのパスタですわ。
ええ?
煮込んだのは料理長ですけども問題はなくってよ?
「はい、レオ……もっと開けて。あ~ん」
「もっちゃもっちゃ」
レオの膝に乗って、餌付けするのがお仕事の手伝いに入るのかと問われると困りますわね。
私の中ではこれくらいではお手伝いではありませんの。
もっとちゃんとしたお仕事を任されても問題ないのですが、食事の世話だけでいいと言われるのです。
でも、これが意外と辛いのですわ。
レオの食べ方がとてもかわいらしくて、身悶えしそうになる自分を抑えるのが辛いんですもの。
どうして、こんなにかわいいのかしら?
あの触り心地が最高な髪をもしゃもしゃと出来るともっと最高なのですけど!
さらに問題がありまして……。
レオに食べさせると私にも食べさせようとしてくるんですもの。
そちらの方が恥ずかしいですわ。
彼に『あ~ん』させるのは脳が麻痺してきたのか、慣れてきましたのよ?
逆はすごく恥ずかしいのだわ。
「ねえ、リーナ。これさ、どう思う?」
「どうしましたの?」
レオが指し示した一枚の書類に『緊急の報せ有り』と題されています。
一体、どうしたのでしょう?
少なくても彼が辺境伯に任じられるより前に当地から、混沌の勢力はほぼ駆逐されたはずです。
おかしいですわね。
「ドラゴンが出ましたの?」
「そうなんだ。操業中の漁船が目撃したみたいなんだけどさ」
「その方々、無事ではありませんのね?」
「うん。どうやら、そのドラゴンに襲われたみたいでね。生存者はたったの一人」
「まぁ……」
これはまた、厄介なことに巻き込まれる予感がして、なりませんわ。
レオが僅かに口角を上げ、不敵な笑みを浮かべているんですもの。
『ドラゴンが相手なら、愉しめそう』なんて、考えている顔ですわ!
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