第144話 ここはお城ではありませんのよ?
お城では人目があって、恥ずかしいといっても皆、身内のようなものです。
我慢も出来たのですけど、ここはお城ではありませんのよ?
城下町にあるお食事処ですもの。
そこのところ、分かってますの?
「うん? だから、食べて。無理なら、口移しでもいいんだよ?」
そう言いながら、レオがスプーンによそったライスと牛バラを餌付けするように出してくるのです。
ライスが琥珀色に見えるのは上に乗っている牛バラと同じタレがたっぷりとかけられているからなのかしら?
確か、『牛丼』と呼ばれていた気がしますわ。
「口移しがいいのかな?」
「た、食べますわ」
本当に口移しでやりかねませんもの。
いくらレオのことが好きで好きで我慢が出来ないくらいに愛していてもそれとこれとは話が違いますわ。
まだ、『あ~ん』で食べさせてもらう方がダメージが少ないですわね。
あら?
このタレには砂糖が入っているのかしら?
ちょっと甘みを感じさせながらも全体を引き締める塩味。
美味しいですわ。
「美味しいでしょ?」
口の中にまだ、食べ物が残っているので言葉を発する訳にはいかず、無言でコクコクと頷きます。
周囲から、とても生温かい視線を向けられていると感じますのでグサグサと地味にダメージを受けているのです。
ええ、心にナイフが刺さりますの!
普通に席に座っていて、真向いでされていても相当に恥ずかしいことですのよ?
それなのにレオの膝の上に乗せられて、これなんですもの。
死ねますわね。
「僕にも食べさせてくれないかな?」
「は?」
「ん?」
レオは小首を傾げて、きょとんとした顔でか……かわいいのですけど。
結局、牛丼を食べ終わるまでこの『あ~ん』をしたり、されたりという恥ずかしくて死ねる時間を過ごしたのです。
でも、牛丼自体は美味しかったですわ。
周囲の目さえなければ、『あ~ん』でも口移しでもレオとの時間は幸せそのものでした。
そう、周囲の目さえ、なければ……。
全部、凍らせるのはどうかしら?
「リーナ、それ駄目だからね」
「わ、わたくし、凍らせようとか、考えてませんわ」
な、なんですの?
その可哀想な者を見るような……残念な者を見るような目は!?
「そんなこと思ってないよ。ただ、僕の大事な人がかわいいって思っただけ」
「はぅ」
お姫様抱っこされている状況で爽やかな笑顔とともにそんなことを言われると心臓が持たないですわ。
🦊 🦊 🦊
午後は仮組が終わった水陸両用
場所はアルフィン湖ですから、ほぼ目の前ですし、レオにお姫様抱っこされてますから、余裕ですわ!
トリトンは湖畔で最後の調整作業を行っているようです。
右往左往する多くの技術者の姿が見受けられます。
それにしても奇妙なフォルムの機体ですわね。
まず、頭と首がありませんもの。
人でいうところの胸部にあたる場所に透かし窓のような構造があって、そこに真っ赤な単眼が輝いています。
頭と上半身が一体化しているのかしら?
ヘッドレスという頭部・頸部のない奇妙な姿の魔物がいるのですが、利点があるのかと不思議に思ってますの。
水中での流体力学がという難しいお話になるのかしら?
フレームの時点で気付いてましたけ、腕も他の
物を掴む指が無く、前腕と手甲が融合したようなデザインなのです。
先端部から、直で爪が伸びているので第一印象としては甲殻類の鋏に見えますわ。
これには多分、理由があるのでしょう。
指で細かい作業を行う汎用性を捨て、固定武装として爪の有用性を試す目的ですのね?
「思ったよりもがに股ではありませんのね? でも、頭がないのはなぜかしら?」
「水中を航行する時に水流の抵抗が少ないんじゃないかな。知らんけど」
「そうですのね。って、知らないんですの!?」
「うん」
レオったら、良く分からないのにこの水陸両用モデルを推進しましたの?
理由を聞いても『ロマン!』と自信満々に答える姿が目に浮かびますわ。
「今日は試験運用ですし、正式な
「その予定だね。そろそろ、動くみたいだよ」
トリトンの近くで作業を行っていた技術者の皆さんが離れていき、赤い単眼が一際、輝きを増していきます。
そして、記念すべき第一歩を……
「転びましたわ」
「うん……転んだね」
トリトンはぎこちない動きで踏み出した第一歩でバランスを崩しました。
轟音とともに派手な地響きと水柱を上げ、湖に半身を突っ込んだ形で止まりましたが……。
これは大失敗ですわね。
疑似
それともトリトンの構造上の問題なのかしら?
「回収するのも大変そうですわ」
「そうだね」
いつしか、日は傾き、夕焼けの色に染められた空がとてもきれいですわ。
レオの心音がとても心地良くて、何だか眠くなって……
ええ。
ちょっと現実逃避しただけですわ!
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