第136話 うさちゃんの魔法はいつ解けますの?
『水圧に耐えられる強靭なフレームと装甲がまず、必要だしね。でも、それだけだとさ。汎用性が低いんだよね』
「え? ええ?」
『陸上でもある程度、戦闘出来る機動性が欲しいよね』
「は、はい?」
『重装甲と機動性を両立させるのが課題なんだ』
「そ、そうですのね?」
えっと、問題はそこなのかしら?
水中型自体の必要がないと思いますの。
アルフィンは確かに大きな湖に隣接してますけど、閉じた湖なのです。
水の中を通って、何かを仕掛けてくることはまず、不可能と言えるでしょう。
邪神ハイドラのように最初から、湖中に潜んでいたのなら、別ですけども。
「ねぇ、レオ。水中型の機体を計画するのはいいのですけど……どこで使いますの?」
『え、えっと。そこまで、考えてなかったー』
「レーオー」
『ぐるじいっで』
さらにギュウギュウとレオうさを締め付けたから、苦しいようで……そもそも、ぬいぐるみだから、本当は苦しくないのでしょ?
『あ、バレた?』
「私の心臓に悪いので変な声は出さないでくださいな。それよりも……」
『も?』
「そろそろ、お昼が近いのですけど、レオはどうやって食べますの?」
『あ』
「特に考えないでうさちゃんになったのね?」
『……はい』
性欲は三大欲求に勝るものですの?
違いますわね。
レオのは性欲ではなく、単に抱っこされたかっただけなのでしょう。
素直にそう思っただけなのですから、かわいいですわ。
でも、ぬいぐるみにまで嫉妬するのはさすがにどうかと思いますのよ?
「ねぇ、レオ。うさちゃんの魔法はいつ解けますの?」
『日が落ちたら、大丈夫』
「それまでご飯が食べられませんわ。大丈夫ですの?」
『ぬいぐるみだし、動いてないから、意外とお腹減らないんだよね』
「意外と減らないということは減ってはいるのでしょう? 本当は食べたいのでしょう?」
『そ、そんなことないし』
「本当に? 本当はお腹が減っているのではありませんか? 肉汁の滴る焼き目の付いた厚い牛フィレのステーキを私が焼いて差し上げようかと思っていましたのに」
『さ、さかなが食べたい気分なんだ。残念だなぁ』
「あら。では私が一人でそれを食べていいの? レオの目の前で食べてもいいの? 本当にいいの?」
勿論、本気で言ってはいません。
レオはというともぞもぞと動かず、固まっているようね。
熟考しているのでしょう。
もぞっと動き始めましたから、決まったようですわ。
『食べたい。リーナと一緒に』
「はい。夜、二人きりで食べましょうね」
『うん』
「では、それまで二人でゆっくりしましょうか」
レオうさを抱っこしたまま、転移の魔法を発動したのですが、作業を行っていた方が何か、仰っていたような……。
鬼気迫る雰囲気のように見えたような……。
多分、気のせいですわね。
眼下にお城と湖を見下ろせる丘は色とりどりの花々に彩られた天然の花園です。
私とレオにとって、思い出深く、お気に入りの場所でもあります。
レオうさを抱っこしたまま、仰向けになりました。
一度、やってみたかったのですわ。
服が汚れますから、アンの仕事が増えるのは申し訳ないのですけど……これをやってみたかったのです!
レオうさを高い高いするとちょっと手足をばたつかせるのがかわいいですわ。
あまりのかわいさが心臓に悪いですわね。
『ねえ、リーナ。さっきの人さ。何か、叫んでなかった?』
「私、よく聞こえませんでしたの。何か、あったのかしら」
『さあ? 僕もよく聞こえなかったんだ』
「こんな立派な耳がございますのに?」
レオうさの長くて、良く聞こえそうなお耳をちょっと、引っ張ってみます。
手触りがよくて、ちょうどいいサイズなのでなでなでしていると心が落ち着いてきます。
「何だか、眠くなってきましたわ」
『そうだね』
レオうさはレオが入っているだけで普通のぬいぐるみです。
それなのに妙に温かみを感じるのはなぜかしら?
心が自然と落ち着いてくる人肌くらいの温かさにも感じますわね。
抱っこしているだけでポカポカしてきて、落ち着けますもの。
そのせいで眠くなってきて、もう……ちょっとくらい、寝ても平気かしら?
そっと意識を手放しました。
研究施設で何やら、ひと騒動あったようなのですけど、それはまた別のお話ですわ。
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