第135話 ぬいぐるみ抱っこしてるのかわいすぎだよ?

 レオもといレオうさを抱っこして、歩いています。

 私はどう見られているのかしら?

 貴族の令息・令嬢は貴族学院を卒業する十六歳を過ぎると成人と見做されます。

 デビュタントも済ませていますし、言い訳が出来ないのです。

 私は十八歳までカウントダウンに入った十七歳。

 年齢的には大人ですわね。

 見た目はちょっと、そう見えないところがありますけど。


 ですから、黒いうさちゃんの大きなぬいぐるみを抱っこした姿はよろしくない気がしますの。

 少々……いえ、かなり恥ずかしいのです。

 だって、この黒いうさちゃん。

 幼児向けの絵本のキャラクターですのよ?

 私の見た目でこういうキャラが好きと知られると……いけませんでしょう?

 築き上げたイメージが崩れますわ!

 (注:本人がそう思っているだけです。実際にはぽわんとした雰囲気のお姫様と思われているだけです)


 デートの時はレオにプレゼントされたこともあって、気持ちが舞い上がってしまったのです。

 あまりの嬉しさに気にならなかったのですけど、冷静に考えたら、おかしいんですもの。


『認識阻害の魔法なんて、使う必要ある?』

「ありますわ! 見られたら、変に思われますもの」

『変? 何で? ぬいぐるみ抱っこしてるのかわいすぎだよ? 誰にも見せたくないくらいだ』

「か、かわいい!?」


 今はかわいらしいうさちゃんの姿でもレオに直接、言われると破壊力がありますわ。

 頭がボワッとしてきました。

 熱いですわ。

 熱が出たのかしら?

 これはますます、いけませんわね。

 顔は熟れたトマトのように真っ赤。

 大事そうに大きな黒いうさぎのぬいぐるみを抱え、何やら一人でブツブツと呟いている。

 どうしましょう……不審者ですわ。

 (注:あくまで個人的な感想であり、周囲からは可愛らしい女の子がぬいぐるみを抱っこして、悶えていると生温かい目で見られているだけです)


『でもさ、ほら、お仕事しないと駄目だよ? 僕はほら、うさぎだから、無理だし』

「そうですわね」


 事故でも呪いでもなく、自分でうさちゃんになったのでは? なんて、言えませんわね。

 なるべく、見つからないようにやらないといけません。


『転移すれば、いいんじゃない?』

「そう言うことは部屋を出る前に行ってくださいませ」

『微妙にキレてない?』

「キレてませんわ!」


 早く教えてくれなかったレオに怒っているのではありません。

 その程度のことにすら、気付かなかった自分に対してなのです。

 レオが絡むと思考回路が鈍るのはなぜかしら?


 🐍 🐍 🐍


 地下の研究施設に転移すると作業を行っていた研究員の皆さんが一瞬ギョッとした顔をしております。

 急に現れたから、驚かせてしまったかしら?

 お仕事をしているのに迷惑でしたわね。


『違うと思うけどね』

「そうですの? まぁ、いいですわ」


 レオが発案した駆逐戦車と自走砲は既に仮組が完了したとの報告を受け取っています。

 現在、性能テストも兼ねた試運転を行うべく、搬出されたようです。

 想定通りの性能であるなら、ゆくゆくは量産化を進める予定ですが、実のところ、私はあまり興味を抱いていません。

 でも、レオは興味津々みたい。

 レオ肝煎りの魔動兵計画ですものね。

 だからって、もぞもぞと動くのはやめて欲しいですわ。

 私の抱き方が悪いのかしら?


 私が推進している計画は騎士ナイトシリーズです。

 私(と抱っこしているレオうさ)で見上げる鋼鉄の巨体は箱型の戦車ルークではなく、人型の魔動騎士アルケインナイト五機ですわ。

 中破していた損傷部分の修復だけではなく、より格闘戦攻撃に特化した改修を行ったロムルスは全身のフォルムが人狼を模した姿に改修されました。

 名もロムルス・ルプスに改めたのです。


『これは銀牙族シルバーファングにあげるんだっけ?』

「はい。西の要として十分でしょう?」

『じゃあ、こっちのは白の大盾ルフトアイギスかな?』

「そうなりますわね」


 ヘクトルはさすがに損傷具合が尋常ではありませんでした。

 潰れている部分が多かったですから、フレーム部分からのほぼ新造となったのです。

 これはもう全く、別の機体と言ってもいいものになりそうですわ。

 比較的、原型を留めていた下半身のフレームから、組み上げている状態なのでもう少し、時間が必要かもしれません。

 ヘクトルを受け渡すのはフュルフールさまなのであの方が得意とする戦い方に合った兵装の開発も進められているはずです。


『あれがその新兵装? 盾なのかな』

「大盾ですわね。フュルフールさまは盾の扱いに慣れておりますから」


 レオだけでなく、お二方もあちらの世界に馴染みが深いせいかしら?

 刀を主兵装にした方が良さそうなのよね。


 残りの三機はほぼ剥き出しのフレーム状態なので外装も内部の機関もまだ、組みあがっていません。

 一つはレオの専用機。

 もう一つは私の専用機。

 両機ともに軽装甲で機動性を重視した設計です。

 当たらなければ、どうということありませんし、当たっても七つの門セブンス・ゲートで防いでしまいますし……。

 兵装や性能の仕様はそれぞれに合わせたものに変更する予定になっています。

 とはいえ、あくまで象徴的な存在としてであって、実際に運用することはないと思うのですけど。


「レオは近接型でいいのかしら?」

『まあね。その方が向いてるしさ。あっ、あのさ。駆逐戦車の魔導砲アルケインカノンを手持ちには出来ない?』

「また、新しい何かを考えましたの?」

『うん』


 また、もぞもぞとレオうさが動きました。

 レオの希望で胸に挟むように――挟むほど、ないのですけど――鎮座してますから、変な動きをされると危ないのです。

 少なくとも人前ではやめて欲しいですわ。

 動き方が絶対、わざとなんですもの。


「それでレオ。これはあなたの発注ですの?」

『あ……何か、問題が?』


 最後の一機はかなり、趣の違うものです。

 人型ではあるのですけど、異形といってもいいような特殊な形状をしています。

 騎士ナイトシリーズは人型で両手も人のそれと同じように指を備えており、武器を持ったり、作業を行えるようになっているのです。

 ところがこの機体にはその手と指がありません。

 まだ、フレーム部だけですけれど、腕から伸びる手の部分に指の代わりに長い爪が四本生えているのです。

 下半身も変わっていて、ややがに股気味ですわね……。

 それに首と頭がありませんのよ?

 おかしいですわ、色々と。


「これは何の目的で設計しましたの?」

『知りたい?』

「え? ええ」


 また、もぞもぞと動かれる前にしっかりと抱き締めて、肯定しておきます。

 これで大丈夫……でも、ないですわ。

 力に関してはレオの方が上ですから、無理矢理に動かれるともぞもぞより、危険ですわ。

 もう、諦めましょう。

 この攻防は下手に抵抗すればするほど、私の方が不利ですもの。


『これはね。水中型魔動騎士アルケインナイトなんだ』

「は、はい?」


 うさちゃんぬいぐるみなのでそんな表情が出ないはずなのにどう見てもドヤ顔というのをしてますわね。

 水中型……レオったら、また、変なこと考えてますわ。

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