第130話 ちょっと子供っぽく、思われないかしら?

 デートは終わりません。

 お洒落なカフェに入って、二人で一緒にストローを使って、アイスティーを飲むのに憧れがあったのですけど、出来ませんでした。

 麦わら帽子を脱がないといけませんから、諦めるしかなかったのです。

 相思相愛の恋人がデートするのですから、『そういうものでしょ』と力説するとレオはあまり、乗り気ではなかったみたい。

 でも、嫌なのではないようです。

 『それなら飲んでから、口移しで飲む方がよくない?』と真顔で言われました。 

 私もその方が……って、駄目ですわ!

 そんな大胆なことを街中でしたら、それこそ注目を浴びますもの。

 『リーナはしたくないの?』って、またうなだれた仔犬みたいに元気がなくなって。

 幻覚なのか、力無く下がっている尻尾が見えるのよね。

 したくないのではなくて、私もしたいんですのよ?


「じゃあ、しようよ?」


 あなた、また私の心を読んでません?


「読んでないって。リーナが意外と顔に出やすいだけだよ」


 えっ!?

 そ、そんなことないでしょ。

 そう思って、顔を触るとほんのりと熱い気がします。

 おかしいですわ。

 淑女教育でどんなに感情が荒ぶっても鉄仮面のように無表情でが鉄則ですのよ?

 その私がレオの前では……。


「リーナはかわいいなぁ」


 そう言いながら、レオに抱き締められました。

 ここは街中で思い切り人目があるのですけど!


「そんなリーナの顔を見せたくないんだ」


 私にだけ、聞こえるような小声でそう言われると体温がさらに上昇した気がします。

 レオは独占欲を隠そうともしないで素直に言葉と態度で示してくれるから。

 ただ、私は四歳年上……これでは本当に年下みたいなのですけど。


 周囲から、はやし立てるような声が聞こえてきて、気にならないと言ったら、嘘でしょう。

 でも、好きな人……いえ、愛している人に抱き締められていたら、多少状況がおかしくてもいいのです。

 ただ、あまり恥ずかしい行為は心臓に悪いのでやめて欲しいですけど。


 🦊 🦊 🦊


 さすがにレオも人前ではなくても紅茶の口移しが現実問題として、危険な行為と分かってくれました。


 (そんなことをしたら、止まらなくなる可能性がありますでしょう?だって、レオですもの)


 もっと無難なデートを続けることで合意しました。

 デート中、しかも街中での大人のキスはあまりにも高難易度が過ぎますもの。

 そこで普通にまた、屋台を見て回ることにしたのですが、手はいつものように繋いで指を絡めてます。

 こうしていないと逆に落ち着かなくなってくるなんて。

 慣れとは恐ろしい物ですわ。


「リーナ、あれをやろうか」


 レオが指し示したのはお祭りなどの催しで良く見られる屋台でした。

 玩具の弓矢で景品を狙って、倒れるともれなく景品を貰えるという簡単なルールのゲームですわね。

 彼は知っているのか、もう店主さまにお金を渡し、弓を一張り受け取っています。

 手慣れてますわね。

 まさか、他の女と!? なんて、疑ったりはしませんのよ?

 レオがそんなことをしない人なのは誰よりも分かってますもの。


「欲しいのはどれかな? 任せて」

「弓なら、私も……いえ、何でもございませんわ」


 私、遠くの物を狙い撃つのは得意なのですけど、近くの物はなぜか、外れますの。

 どうしてかしら?


「あのうさぎさんのぬいぐるみが……でも、えっと」

「あれでいいの? まあ、見ててよ。一撃で獲ってくるね」


 途中まで言いかけて、止めたのは一目見て欲しくなったうさぎさんのぬいぐるみがかわいいのにそれを欲しがる私って、もしかして、駄目な令嬢ではないかとつい考えたからです。

 レオは私を甘やかせてくれるので何も言わずに獲ってくれようとしていますけど。

 でも、あのうさぎさん。

 真っ黒な毛並みにくりくりとした目も真っ赤。

 まるでレオみたいですわ。

 欲しいですわ!

 でも、十八歳間近の令嬢がぬいぐるみを欲しがっていいのかしら?

 ちょっと子供っぽく、思われないかしら?


「はい、リーナ」

「ふぁっ!?」


 考え込んでいた私の手に欲しかったうさぎさんが!?

 かわいいわ。

 本当、レオみたいでかわいいの。

 それにレオがプレゼントしてくれたんですもの。


「リーナがそんな顔してるの珍しいなぁ……かわいい」


 そんな顔って? どういう顔ですの?

 不思議に思っていたら、うさぎさんをギュッと抱き締めて、モフモフ具合を堪能していた私がぬいぐるみごと、抱き締められてました。

 顔が熱いので暫く、このままレオに抱き締められたままになっておきましょう。

 多分、顔が熟れたトマトのようになっているのでしょうから。


 🦊 🦊 🦊


 それから、結構長い時間、レオに抱き締められていると彼から漂ってくる仄かな男の匂いに頭がほわほわしてくるのです。

 これはちょっと危ないと自分でも感じていました。

 レオもそれに気付いてくれたのでしょう。


 また、横抱きに抱えてくれたのはいいのですけど、うさぎさんのぬいぐるみを持ったままなのです。

 うさぎさんのぬいぐるみを持って、お姫様抱っこをされている。

 恥ずかしいですわ……。

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