第127話 折角だから、デートの続きをしようよ

 太陽が黄色く見えるって、本当でしたのね。


 昨日はきれいな景色で感動をともにした興奮の醒めないうちにって、夕食まで放してもらえませんでした。

 夕食後、夜通しなのはいつも通りでしたけど。

 それでも手加減はしてくれたみたいで、腰が痛くはありません。

 疲れが取れないのもいつも通りですし、その程度で済んでますのよね。

 むしろ、レオの方が心配かしら?

 あんなに頑張って、大丈夫なのかしら?


「リーナ、大丈夫?」

「大丈夫ですわ。レオの方が心配だわ」

「僕は平気だよ」


 ふと昨夜の睦言を思い浮かべてしまい、意識が飛びかけましたわ。

 危ないですわね……。


 今、レオに横抱きに抱えられて、荒野を疾走中なのです。

 風景の流れるスピードが速く、風も心地良いのですけど、走っているのに私を抱えているレオの負担を思うと申し訳なさの方が上回ります。

 ですから、私は空を行けばいいと申し上げたのですけど、却下されました。


「それだとデートじゃないよね?」

「え? あ……はい?」

「僕がリーナを抱っこして、走ればすぐだよ」


 あら?

 『デートではなく、お仕事ですけど』と思ったのですが、とても嬉しそうな顔をしているレオを見るとそういうことにしておいた方がいいですわね。


「もう少しで目的地ですわ」


 草木も生えない荒涼とした大地を駆け抜けると景色が一変しました。

 ブクブクと規則的な音を奏でているのはややどす黒くなった緑の色をした沼。

 見るからに身体に害を及ぼしそうな猛毒の沼ですわね。

 そのような沼がそこかしこに顔を覗かせ、もやがかかったように空気も淀んでいます。

 でも、問題はありません。

 七つの門セブンスゲートの型を切り替え、防御フィールドを体の周りに展開させているので毒の影響無く、行動が可能なのです。


「猛毒の沼か。これって、元からだっけ?」

「いいえ。有名な景勝地でしたもの」


 胸のドキドキが激しくなるお姫様抱っこから、ようやく解放され……ええ、別に嫌な訳ではありませんのよ?

 ただ、心臓が苦しいんですもの。

 夜とはまた、違う感覚がするのです。

 不思議ですわね。


「あれじゃない?」


 レオと手を繋いで指を絡め合って、見つめ合いながら、散策するだけ。

 そのくらいの心持ちで毒の沼を見て回っていると他を圧する巨大なものが眠っているのを見つけました。


 大地に倒れ伏し、既に動かぬむくろ

 かつて強壮なる生物として、地上に君臨したモノのなれの果ての姿。

 全長はゆうに十メートルを超えていたのでしょう。

 翼の痕跡はありますが空を飛べるほど発達していないようですから、地竜アースドラゴンより、やや上位といったところかしら?

 途中通った荒地もこのドラゴンの仕業ですわね。

 辺り一帯を毒の沼に変えてしまうほどの猛毒を持っていたのでしょう。

 間抜けなことにその猛毒により、自らの首を絞めてしまったようですけど。


「あれですわね。思ったよりも大きいですわね」

「これを回収するのかな?」

「ええ」


 回収が今日のデートの本来の目的なのです。

 ほぼ屑鉄と化した魔動騎士アルケインナイトは修復というより、ほとんどのパーツを新造しなくてはいけません。


 そうなると必要になってくるのは魔獣や獣などの生物の生体部分になります。

 それも出来るだけ、強力な生命力を持つ生物であればあるほど、性能の向上も見込めるのです。

 つまり、竜種という食物連鎖の頂点に立つ生物こそ、最適なのですわ。


 ですが、すぐに素材を集められるかといえば、そうではありません。

 竜種の個体数が極めて、少ないのです。

 ただ素材にしたいからという理由だけで命を奪うのはことわりに反しますわ。

 生態系にも狂いが生じるでしょうし……。

 そこで周囲の環境に悪影響を及ぼしている者だけを対象とすることにしたのです。


収納ストレージに入れますけど、あとで浄化ピュリフィーケーションをしないと危ないかしら?」

「自分の毒で死んだドラゴンか。確かに危ないかな。これで終わり?」

「はい、終わりですわ」


 この毒々しい場所でレオは何をしたいの?

 目に妙な熱が籠っているようでゾクッと寒気がしました。

 少々、身の危険を感じるのですけども。

 とりあえず、目的は達しておかないといけませんから、竜のむくろ収納ストレージへと移しておきます。


「リーナ。折角だから、デートの続きをしようよ」

「ふぇ?」


 (このような危険な場所でするなんて無理ですわ!)

 (帰ってから、部屋でしましょ!)

 心の中でそう叫んでいたのにレオが発した言葉は予想していたのと正反対のものでした。

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