第128話 それも恥ずかしい勘違いですわ

 予想していなかったレオの言葉に頭の回転が追い付かず、固まってしまいます。

 私、想定外の行動を取られると対処法を考えるのに精一杯で……

 案の定、また捕まってしまいました。


「さて、行こうか」

「どちらへ?」

「秘密の方が楽しいんじゃないかな」


 私をお姫様抱っこして、歩かないといけない呪いって、何かしら?

 それとも知らないうちに私が!?

 しかもレオが秘密なんて、言葉を口にするなんて。

 そうですわ。

 きっとそうなのです。

 デートなら、エスコートする先を敢えて、知らせないのが紳士の嗜みですわ。

 本にも書いてありましたもの。

 ……などと考えているうちにレオはどんどん駆けている訳で。


「それでどうしようっか?」

「ん?」


 我に返って、辺りを見回すと緑の葉が生い茂った木々に囲まれています。

 いつの間に荒れ野を抜けていたのでしょう。


「何をですの?」


 レオったら、私を下ろすと上から下までじっくりと舐め回すような視線を……。

 外であれやこれをするのはあまり、よろしくないと思いますのよ?

 見られるのも嫌ですし。

 ほら、何よりも衛生的ではありませんし。


「その恰好のままで……」


 外で着たまましたいなんて、恥ずかしいですけど、そこまで求められるのは嬉しいですわ。


「私、平気ですわ」

「いやいや、ダメだよ。その服じゃ、目立ちすぎだって」


 ん?

 えっと、あの……勘違いでしたのね。

 それも恥ずかしい勘違いですわ。


 今、私が着ている真っ黒なゴシックのバトルドレスと羽織っているワインレッドのケープが目立つので着替えた方がいい、という提案だったのです。

 それに私の容姿も目立つみたい。

 髪と瞳の色が少々、珍しい程度でそれほど、人目を惹くとは思えないのですけど。

 レオが独占欲でそう言ってくれていると思えば、嬉しいですわね。


「これなら、どうかしら?」


 収納ストレージから取り出した膝下まで裾のあるブラウンのロングスカートにレースのフリルがあしらわれているものの全体的におとなしいデザインの白いブラウスを着ました。

 仕上げにかぶるのはつばの広い麦わら帽子ですわ。

 レオの前で一回転してから、カーテシーを決めます。

 髪はツインテールにしていたせいでほぼ、隠れていませんけど!


「いいんじゃないかな。でも、髪はあまり隠れてないね」


 そう言いながら、私の髪を手に取って、梳くように撫でてから、キスを落とすレオの姿が何だか、大人びて見えます。

 彼にまた恋をしている。

 そんな自分に気が付いてしまうのです。

 毎日のようにレオに恋をして、愛を伝えあって。

 こんなにも幸せでいいのかしら?


「それじゃ、行こうか」

「はい」


 レオが伸ばしてくれた手に自分の手を重ね、互いの体温を感じてから、指を絡め合う。

 ただ、手を繋いでいる以上に繋がっている気がするのはなぜでしょう。

 歩みも私のペースに合わせて、ゆっくりと進めてくれるので……。

 その優しさにもっと触れたい。

 ふと見つめるとレオも気遣うように見つめてくれているのです。

 見つめ合っているうちに互いの顔が近付いてきて……


「「あ!?」」


 麦わら帽子に邪魔されましたわ。

 バツが悪くて、二人して軽く笑い合ってから、再び歩みを進めました。


「こういう町、好きだったよね?」

「ええ、とても」


 石畳の通りには野菜や果物だけではなく、服飾や装飾品を扱う屋台が軒を連ね、行き交う人々の表情は明るく、希望と笑顔に満ちていました。

 石造りの家々は洗練されてはいないものの素朴で温かみがあるところが私好みなのです。

 人はノスタルジーを感じさせる街並みにどこか、惹かれるものではなくって?


「それじゃ、デートだね」


 レオは少しだけ力を強くして、私を引っ張ってくれます。

 本当にデートをしているみたい。


「デートみたいじゃなくて、デートだって」

「だ、だから、レオ! どうして、分かりますの!?」


 心を読むのは駄目ですからね?

 次のあなたの台詞は……


「リーナのことなら、何でも分かるんだって」


 そう言うのは分かってましたのよ?

 あなたが向けてくれる笑顔はどこまでも真っ直ぐで私だけのもの。

 分かってますわ。


「ではエスコートをお願い致しますわ、私の王子さま」

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