第123話 エピローグ②戦士の休息と旅立ち
ゆっくりと瞼を開けると知らない天井が見えた。
知っている天井じゃないのは不安だけど……天井が見えるってことはわたし、生きてるんだ。
「目が覚めた?」
やや無機質で感情のこもってない声なのにわたしを心配してることが分かる。
まだ、短い付き合いなのに分かるって、不思議。
「ディアナ、ありがとね」
「……仲間だから」
小声で呟き、視線を逸らすディアナの頬がちょっとだけ、赤かったのは照れてるのかなぁ。
彼女は普段、あまり表情を崩さないし、感情を露わにするのが珍しい。
唯一、素の彼女が見られるのはテオドリックを前にした時だけかもしれない。
「ゆっくり、休みなさい」
「うん、ありがと」
安心したせいもあって、わたしの意識は深い闇の底に沈んでいった。
意識を取り戻したわたしが動けるようになったのはそれから、一週間後だ。
目立つ外傷はなくて、魔力の過剰消費とヤマトが受けたダメージがフィードバックされたことによるショックで意識を失っていたらしい。
だけど、ヤマトは結構、酷い状態だったみたい。
あのドラゴンの返り血をもろに浴びたせいか、外装はほぼ爛れたところがないくらい酷くて、人間だったら死んでいたと言われた。
両腕と右足も吹き飛んでいたんだから、わたしが気を失った程度で済んだのが不思議なレベルみたい。
そのヤマトもわたしの回復と同調するように再生・修復が進んでるようでもう動けるそうだ。
さすが、
吹き飛んだ手足は元に戻ってるし、気のせい?
少し大きくなってる気がする……。
「気のせい……よね?」
わたしの囁くような問いにヤマトが『気のせいじゃない』って、答えてくれたような気がする。
これは気のせいじゃないよね。
「旅に出ようかな」
🏙 🏙 🏙
王都ヴェステンエッケは徐々にではあるものの活気が戻りつつある。
混沌の化け物から逃げていた人々が戻ってきた周辺諸都市も次第に元の姿を取り戻していくだろう。
時間はかかるかもしれないが希望という名の力を取り戻した人々の生き生きとした目から、それは遠くない未来のことに違いない。
「本当に行くのか?」
「ああ。それが俺のすべきことだからな。テオ、お前も迷うなよ?」
「ふっ、分かってるさ。さらばだ、友よ」
「ああ、またな」
去っていく戦友の背を名残惜しく、見つめていたテオドリックの手に柔らかな感触が触れる。
その言い知れぬ温かさを与えてくれたのは隣に寄り添うように立つディアナだった。
「行ってしまったの?」
「ああ。お前も……」
テオドリックは『行くのか?』という喉まで出かかった言葉を無理に押し止める
彼女を行かせたくない、失いたくないという自分の気持ちに戸惑いを隠せないのだ。
「私は行かないわ」
「そうか」
混沌に支配され、闇に沈んでいたオルレーヌ王国。
光溢れるかつての姿を取り戻そうと命を懸けて戦った勇敢な少年と少女の姿があったことを人々は忘れないだろう。
その中の一人、ディアナ・フォン・グナイゼナウは亡き女王ライラック・ティボーの跡を継ぎ、女王として国を繁栄に導くのだがそれはまた、別の話である。
🏙 🏙 🏙
タチアナ・オレル、本名はタチアナ・ティボー。
女王ライラックの忘れ形見であったと知ることなく、流浪の旅に出た。
その後、白き巨神と美しき少女の伝説が大陸各地で語られることになる。
テオドリック・フォン・シャルンホルストはオルレーヌ王国の復興に尽力した。
ジークフリートとともに数多の戦場を駆け、弱き人々を助ける彼の姿は騎士の鑑と称された。
ディアナの王配として、生涯添い遂げることになるテオドリックだがかつて、
カーミルは生まれ故郷である西方の砂漠に戻り、独立運動を続ける砂漠の民とともに戦いを続けたという。
砂漠の民を守る孤高の巨神サオシュヤントの名は後の世まで語り継がれることになるが、彼の本当の名もその後の行方も杳として知れない。
ただ、名も無き凄腕の傭兵の伝説のみが砂漠の民の間で語られるのみである。
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