第120話 これはチャンスかもしれない
アジ・ダハーカは狙いを定め、吹き付けた黒い
その体を流れる体液一滴一滴までもが物を腐食させる猛毒を含んでいる。
猛毒を拡散放出させる
そこに死角は無い。
一体、何が起きたのか、分からないという戸惑いは彼が長く時を生きてきた中で初めて、抱く感情だった。
もっとも表情に変化があったようには見受けられないので動揺が悟られることはないのだが……。
『グオオオオオオオオ』
再び、アジ・ダハーカの大きな顎が開き、その口から赤黒く仄かな燐光が立ち昇り始める。
「来るぞ!」
「分かってる……ハヤト、もう少しだけ力を!」
ハールバルズが地面に突き立てられたハヤトの持ち手を掴み、接触部から自らの魔力を注入し出すとその外周を覆っていた銀色のオーラが徐々に金色へと変化していき、大地に立つ三体の
「皆は大丈夫……だよね。わたしは避けるしかないか。ヤマト!」
巨大な竜のうねる長い首の先に待ち受ける凶悪な面構えの頭に向け、空を翔けるヤマトだったが三本の首のうち一本が自分を狙い、残りの二本は地表で戦っている三人を狙っている、と気付いた時には時既に遅く、もうブレスを吐きかける体勢に入っていた。
このままでは避けようがなく、ヤマトは黒い炎に包まれると誰もが思ったその時だった。
空を切り裂き、激しい風切り音を立てながら、二本の光の槍が飛来するとアジ・ダハーカの両翼に深々と突き刺さった。
左の翼に突き刺さった雷光の如く、青白く輝く槍は一際、眩い光を放ち始めると弾き飛んだ。
まるで無数の稲妻が暴れまわるかのようにその翼をズタズタに切り裂いていく。
右の翼に深く刺さる真紅の輝きを放つ槍は徐々にその色合いを変化させていき、やがて闇を思わせる漆黒に染まっていった。
闇色と化した槍は仄かに陽炎のように揺らめく赤い炎の燐光を発し始め、それが翼全体を侵蝕していく。
『ギャオオオン』
不滅の竜と呼ばれたアジ・ダハーカが身を捩り、苦しんでいた。
二本の槍によって、大きく広げられていた翼は見るも無残な状態になっており、放射寸前だったブレスもタイミングを逸し、三つ首は所在なさげにうねりながら、様子を窺うだけになっている。
「これはチャンスかもしれない。行こう、ヤマト」
純白の翼を羽ばたかせ、さらに高度を上げていくヤマトを追おうと中央の首が動きを見せたその時だった。
天空から爆炎を纏いながら、飛来した火球が真ん中の首を完全に呑み込みながら、アジ・ダハーカの胴体に直撃する。
激しく噴き上がる炎の渦は邪竜を燃やし尽くさんとその勢いが衰えるどころか、増すばかりだ。
「ターニャを援護する。行くぞ!」
左半身の焼け爛れた損傷部をものともせず、ジークフリートがバルムンクを大きく振り上げると巨大なドラゴンの足の鉤爪に向けて、思い切り振り下ろした。
「サオシュヤント。今日は無礼講だ。遠慮はするな」
微かな燐光を上げ始める両腕のフェイルノートから、金色の魔弾を撃ち込んでいく。
魔弾は堅い鱗に着弾するとそれに反応するように輝きを放ち始め、弾け飛ぶ。
その爆散による衝撃が鱗を砕き、着実に内部へとダメージを与えていった。
「ハールバルズ。このままで終わるなんて、許されないよね?」
ハールバルズは踊るように華麗な動きで跳躍してはグングニルを傷口へと撃ち込んでいった。
「
アジ・ダハーカの巨体がグラっと揺らぐ。
ジークフリートとサオシュヤントにより、着実に付けられた表層の傷に撃ち込まれたハールバルズのグングニルが止めとなり、巨体を支える右足首を破壊したのだ。
「皆、頑張ってるんだ……わたしだって!」
上昇するのを止めたヤマトはムラクモを逆手に持ち替え、ミョルニルを上段に構えた直す。
「いっけええええ!」
急降下していくヤマトが狙うのは火球によって、頭部が失われ、骨と肉が露わとなった中央部だ。
ムラクモをまるで杭のように突き刺すとその柄に向けて思い切り、ミョルニルを振り下ろすのだった。
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