第116話 『二度あることは三度ある』というのは事実でしたのね
ヴェステンエッケの王城、玉座の間に人影が二つ。
一つは闇夜を思わせる黒いマントを羽織った大柄な男。
やや浅黒い肌をしており、無造作に長く伸ばされた濡れ羽色の髪はまるで黒い蛇がうねっているようだった。
その容貌にふさわしく、蛇を思わせる縦に長い瞳は金色の輝きを放っていた。
一つは腰に流麗な細身の剣を佩いた線の細い小柄な少年。
まるで髪そのものが光を放っているかのように淡く、黄金色に輝いており、整った容貌は少女と見間違えるほどに可憐に感じられる。
もし、この少年に見つめられれば、勘違いする男性がいてもおかしくないと思わせるほどの美貌。
だがその瞳は驚くほどに感情を感じさせず、氷のように冷たいものだ。
「ねえ、ザッハーク。君も趣味が悪いね。こんなお人形さんで遊ぶとかさ」
少年はそう言うと黒マントの男に女性の首を放り投げる。
生気がなく、瞳を閉じた首は良く出来てはいるが作り物に相違なかった。
『よきにはからえ』と壊れたようにただ、それだけを繰り返している。
「スレイマン、お前に趣味が悪いと言われるとは思わんかったぞ。胎児を喰らったお前がな、くっくっくっ」
黒マントの男、ザッハークは口角を僅かに上げ、邪な笑みを浮かべると『よきにはからえ』と狂ったように呟き続ける首を片手でグシャと握り潰した。
「そのお陰で僕はこの身体を得たんだ。僕はこの世でもっとも尊く、もっとも高きに至る者だ。むしろ、褒めてくれてもいいんじゃないか? ザッハーク、いや、アジ・ダハーカ」
「豪華なパーティーだ。その身体の両親も来るな。どうする?」
ザッハークは意地の悪そうな笑みを浮かべ、スレイマンと呼んだ少年を目を細めて、睨みつける。
「まだ、その時ではないね。ここは君に任せるよ」
スレイマンは睨みつけられたことを全く、意に介していないのか、涼やかな笑みを浮かべていた。
🦊 🦊 🦊
「パーティーの招待状送ったんだね」
「ええ。あちらの皆さんが出席するかは分かりませんわ。そうなるとターニャの負担が大きくなるかもしれないわね」
アンディをメッセンジャーとして送り込みましたから、あの三人にこちらの同行は伝えてあるのです。
王都であるヴェステンエッケに人の気配はなく、あるのはただ、混沌の気だけのようですから、本当は遠慮なく、破壊しつくしてもいいのですけれど、長い歴史を持つ街並みのとてもきれいなあの町を壊すのは忍びないものがありますしね。
「そろそろ、高度を下ろした方がよろしくって?」
「もういる感じかな?」
「数え切れないくらいたくさんいらっしゃると思いますわ」
「思い切り、撃つのかな? 思い切りは駄目だっけ?」
「駄目ですわ。ヴェステンエッケまで間違いなく、吹き飛びますもの」
「そっか」
レオは残念そうな顔をしながらもフリアエを雲海へと飛び込ませます。
やがて、眼下に見えてきたのは平原を黒い絨毯でも敷き詰めたように真っ黒に覆い尽くした大量の
「うわ、えらく数を揃えてきたね」
「まるで蟻の群れのようですわね。レオ、撃ってきましたわ」
「当たらないけどね」
高速で空を行くフリアエを捉えきれないのか、火砲が飛び交いますが全く、掠りもしませんわ。
レオの回避技術が優れているのもありますしね。
もし、当たったとしても展開しているシールドで無効化すれば、いいんですもの。
「私も学びましたわ。前回は氷を使ったから、環境を変化させてしまったのです。それを踏まえて、四属性は使えませんわ」
「じゃあ、どれを使う? まさか、闇とか?」
「光も闇も下手しますとこの辺りの生物が死滅するかもしれませんのよ? ここはレオのを使いましょう」
「雷!? 大丈夫かな」
「大丈夫ですわ。
「リーナ……
「き、気のせいですわ。レオ、準備は万全ですわ」
レオはフリアエを平原の上空に停滞させるとケラウノスランサーを両手で構え、その銃口を眼下の
「チャージ完了まで3……2……1……どうぞ」
「いっけえ!」
ケラウノスランサーの先端から、青白い雷光が膨大な奔流となって、突き進んでいきます。
ここからなのよね、あの魔法。
突き進む雷光は着弾まであと数秒というところで轟音を立て、弾けるのです。
その光景はとても神々しく、美しいものです。
ただ、この光は地表で見る者にとって、死を呼ぶ光かもしれないわ。
無数の稲妻の雨と化した
「ん……えっと、これは……」
「リーナ、またやっちゃってない、これ?」
風にそよぐきれいな緑色の海が広がる平原はどこに行ってしまったのでしょう?
そこにはブスブスと黒煙を上げている
目的は確かに達成したのですけども、またやってしまった気がしますわ。
『二度あることは三度ある』というのは事実でしたのね。
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