第115話 だが終わらせるんだろ?
アルフィンには国家認定レベルの聖女が少なくても三人いることになります。
エル――エレオノーラは間違いなく、大陸トップレベルの回復魔法のエキスパートですわ。
人格的な問題がありますから、まず道徳や倫理の教育が必要になるでしょうけど。
アイリスもまだ粗削りなところは否めませんが、今後の鍛え方で聖女になれるでしょう。
お祖母さま、お母さまと聖女だった私達姉妹には血筋として、十分な素質を有している訳ですもの。
器として、ホムンクルスがどこまで耐えられるのか、分からないので無理をして欲しくない気持ちの方が強いですし、あの子もエルと違う意味で自由なのよね……。
聖女として、最適なのはやはりレライエかしら?
肉体こそ、仮初のホムンクルスだけど間違いなく、七十二柱の一柱ですもの。
癒しの権能を持つ彼女にしか使えない固有の回復魔法もありますし。
問題は器の方がその力に耐えきれないことでしょう。
それに私も得意ではないとはいえ、上位の
意外と知られていないのと光の魔法での癒しが正しいという刷り込みにも似た思い込みがあるせいなのでしょう。
これだけ、回復のプロフェッショナルな人材が揃っているから、重症のターニャの治療も万全だったのです。
地面にあれだけの大穴が開くほどですから、ヤマトが相当の高度から、落下したのは間違いありません。
収容したターニャに目立った外傷はなかったのですが、魔力切れと全身の筋肉が悲鳴を上げている状態。
そうですわね……百キロメートルを二十四時間走り続けた人と同じような状態かしら?
とにかく酷かったですわ。
エルとレライエの治療のお陰で安静にして、あとはゆっくり寝ていれば、元に戻るでしょう。
「痒いところはもうない?」
「うん」
ないのに動く気はないみたい。
ええ。
レオに膝枕して、耳掻きをしながら、色々と考え事をしていたのです。
これは信頼関係を築いていないと出来ないことですわ。
相手を信じて、身体を預けているのですから。
レオに信じてもらえて、私もレオを信じているから、想いは通じている訳で…・…
「リーナ、手! 手!」
「え? あっ、はい」
無意識のうちにレオの髪をつい、わしゃわしゃしながら、頭を撫でていました。
何となく、触り心地が良くて、撫でまわしていると最高なのですけど。
あまり同じところばかり、撫でているとレ禿げやすいのかしら?
レオの顔が熟したトマトみたいな色になったのでやめておきましょう。
「ク・ホリンはどうする?」
先程までは耳掻きという大義名分があったので膝の上を完全に占拠していたレオですけど、もはや開き直ったのかしら?
仰向けになっておりますの。
視線が絡み合うとそれだけでポカポカとしてくるのでいつまででも……もう永遠にこうしていても構わないですわ。
「どうしましょう。フリアエである程度、コントロールは可能ですけど、限度がありますわ。難しい動作は困難ですから、ある程度の防衛なら、こなせそうですけど」
「
「難しいと思いますわ。条件が中々に厳しいでしょう? 条件を無視出来る力があればとエルに試してもらいましたけど、結果はあの通りですもの。一筋縄ではいかないようですわ」
「そっかぁ。何か、いい手はないかな」
真面目そうに考えている顔をしながら、手をそっと胸に伸ばしてこようとするのでとりあえず、
違う方の手も伸ばしてくるのでにっこりと笑みを浮かべながら、
「ねぇ、レオ。フリアエにあなた好みの兵装があるのですけど」
「何かな?」
お互いにっこりと微笑みを浮かべ、真面目な話をしながら、相手の出方を窺っています。
レオは隙を見つけては手を伸ばし、胸を愛でようとするので私は無言でそれを
案外、楽しいのですけどちょっと疲れますわ。
レオは疲れないのかしら?
疲れてもいいから、『それでも僕は胸を愛でたいんだ!』なんて、言わないでしょうね?
その後、この不毛な攻防戦は十分以上続けられたのですけど、最終的にレオに押し倒されましたわ。
彼が満足するまで手で胸を揉まれ続け、最後は顔を埋もれさせて『やっぱ、リーナは軟らかくて、気持ちいいから最高だよね』と……褒められているのかしら?
レオはそのまま、心地良かったのか、寝息を立てて寝てしまったので私も諦めましたわ。
だから、せめて彼がどこにも行かないようにって、そっと背に腕を回して、一緒に寝ますわ。
🤖 🤖 🤖
オルレーヌの王都ヴェステンエッケから、北に百キロメートルほど行くとかつて宿場町として栄えた都市のなれの果ての姿があった。
通りには人影一つなく、何かしらの生命あるものの姿さえ、見受けられない。
壁も屋根も失い、瓦礫同然となった家屋を隠すように風が吹きすさび、砂煙が巻き起こされる。
「酷い有様だ」
夕焼けの色に彩れた髪は短く、切り揃えられ、その切れ長の目から受ける印象と同様にその少年、テオドリック・シャルンホルストの決意の強さを表しているかのようだ。
テオドリックは十年前、全てを失った。
まだ幼子であった彼を救い出した男――隻眼の紅虎と呼ばれたオルレーヌの猛将ヒンツェ――は自らの持てるもの全てをテオドリックに与え、そして、死んだ。
テオドリックは自らの名に誓い、全てを取り戻すべく戻ってきた。
「だが終わらせるんだろ?」
テオドリックの傍らに立つ少年、カーミルが抑揚のない声色で感情の色を出さず、自らに問いかけるように呟いた。
浅黒い肌をしており、腰まで届く程に長い濡れ羽色の髪は無造作に編み込まれていた。
カーミルの名は西部に広がる砂漠の民の言葉で完全を意味している。
本当の名ではない。
名すら与えられず、孤独に生きてきたのだ。
そんな彼が砂漠で出会った奇妙な老人は彼に名カーミルと物言わぬ大きな友を与え、そして、死んだ。
カーミルは老人の遺志を継ぎ、東を目指した。
「あの話を信じるの?」
そして、もう一人、テオドリックに寄り添うように立つ少女がいた。
ディアナ・グナイゼナウは夕焼けではなく、朝焼けを思わせるやや色素が薄いオレンジの髪を三つ編みに編み込み、おさげにしている。
彼女はオルレーヌの双璧であるグナイゼナウの令嬢として生まれながら、その血ゆえに母の実家に追いやられ、冷涼にして過酷な北の地で育った。
そこで彼と出会った。
彼に教えられるがまま、学び取り、そして、悟った。
ディアナは教えに従い、救うべく南へと旅立った。
「俺達に残された時間は少ない」
「信じるんじゃなくて、信じないと後がないんだよな」
「全くもう、これだから、男って馬鹿よね……」
ややぶっきらぼうな物言いしかしない男二人にやや呆れた顔をしながらもディアナは諦めたように頭を横に振る。
運命という名の死神に憑りつかれた彼らの前には三体の
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