第111話 頭がなくてもそれなりに賢いか

 フリアエが高速で飛行すると擦れ違うだけで戦車ルークが鉄屑に変わっていくわ。

 あまりに手応えがなさ過ぎるから、これでは遊び足りないかしら?

 レオはより強い者と戦いたくて仕方がない性分ですもの。

 獅子の姿が影響を与えていて、獣の本性に依るものと言えなくもないのですが私や妹達にそういう性向はありません。

 では性差に依るものかと考えてみたのですけど、レオのように闘争本能が高い者はそうそういませんのよね。


 別にそれが悪いという訳ではありません。

 ただ、そのとばっちりが私にくるのが問題なのですわ。

 夜の睦み合いは戦いではないのですけど、レオにとっては戦いなのかしら?

 このままだといくら、出来にくい体質であっても式を上げる前に新たな命を宿しかねませんもの。

 だからといって、求められているのに拒絶することは出来ません。

 何より、私は彼を拒絶したくないんですもの。

 どうすれば、いいのかしら?

 あちらの世界のように避妊する手立てがあれば、いいのですけど……ありませんもの。

 レオのを外に出すなんて勿体ないですし、一体どうすれば……


「リーナ。ねえ、リーナ」

「……え? あっ、はい。どうしましたの?」

「何か、こっちに来てない?」


 また、変に考え事をしていたせいで見落としましたわ。

 確かに大きな魔力の反応がこちらに向かって、一直線に進んでくるようです。

 この速度、ひょっとしたら、飛行しているのかしら?


「十時の方向から、急速接近してきますわ。かなり高いエネルギー反応ですわね」

「面白くなってきた!」


 レオが楽しいのなら、それでいいわ。

 さぁ、ライラ。

 見せてあげましょう、私達の力を。


「出力を上げますわ」


 金色の粒子を放ちながら、大きく広げられたフリアエの翼の色が徐々に変化していきます。

 光線の加減で紫にも真紅にも見える色合いに変化した翼はまるで燃え上がる炎のように広がっています。

 レオが望むんですもの。

 お人形さんにはせいぜい、頑張っていただきたいですわね、ふふっ。


 🤖 🤖 🤖


 レオンハルトとリリアーナが正体不明の魔力源との戦闘に突入するのと時を同じくして、オルレーヌの北でも激しい戦いが繰り広げられていた。

 漆黒の装甲を身に纏った魔動騎士アルケインナイトハールバルズが正体不明の魔動兵と相対している。

 ずんぐりむっくりという表現がそのまま、あてはまりそうな奇妙な体型をした魔動兵だ。

 全高はハールバルズをゆうに超えるほどあり、軽く十五メートルはありそうだが足は極端に短く、歩行に適しているとは言い難い形状をしていた。

 それもそのはず。

 腰を覆うスカート状の装甲板や足底から、熱風のようなものが放出されていることでホバリングを行い、移動しているのだった。


「ハールバルズ! 君の力はこんなものか」


 ハールバルズが右腕を上げるとヒーターシールドの形状をした特殊兵装グングニルから、魔力で構成された魔槍が三本射出され、一直線に謎の魔動兵へと飛んでいく。

 しかし、魔動兵は巨体に似合わぬ軽快な動きで難なく、それを避け切ると高速でホバリング移動しながら、両手の先から光条のようなものを放ってきた。

 一瞬の煌めきにも似たその攻撃を避ける術はないように見えた。


「くっ」


 回避しきれず、ハールバルズはその光条に左肩を刺し貫かれてしまう。

 上腕部からごっそりと切断された左腕は大地に轟音を響かせ、転がった。

 その切断部はまるで鋭い刃物でさっくりと切り落とされたかのようにきれいなものだ。

 左腕が保持していた巨大なハンマー・ミョルニルもなすすべもなく、大地に放り出された。


「どうする? この状況……考えるんだ」


 襲い掛かる光条を左右にステップを踏むことで回避しているがそれも時間の問題だろう。

 ハールバルズの稼働時間は無限ではない。

 一瞬の油断が命取りとなる。

 そう分かっていたのに足の止まった瞬間を狙われ、幾筋もの光条が胴を寸断しようと襲い掛かって来た。

 咄嗟に回避をしようにも既に遅いと判断したハールバルズー―ディアナ・グナイゼナウはマントのように広がる翼を装甲に見立て、光条とぶつからせた。

 激しい衝撃音とともにハールバルズの巨体が吹き飛ばされ、砂煙を巻き起こしながら、黒い巨人は大地に倒れ伏した。


 止めを刺そうと迫りくる魔動兵だったが何かを察知すると身を捩らせるように回避運動を行う。

 魔動兵のいた場所が無数の魔弾により穿たれていた。


「なるほど。頭がなくてもそれなりに賢いか」


 濃灰色の装甲を纏った魔導騎士アルケインナイトサオシュヤントが両腕のフェイルノートを水平に構え、宙へと避けた魔動兵にそのまま、射撃を続けていく。

 そして、もう一体の魔動騎士アルケインナイトジークフリートが現れた。

 倒れているハールバルズをかばい、大剣バルムンクを構えると宙を浮遊しながら様子を窺う魔動兵を威嚇するかのように立ちはだかる。


「あれが例の大司教ビショップか。カーミル、牽制とこいつを頼めるか?」

「任せておきたまえ」


 サオシュヤントがホバリングで移動しながら、フェイルノートの魔弾をばらまくと大司教ビショップと呼ばれた大型魔動兵は自由に動くのを諦めたのか、地表に降り立った。


「どうやら、やる気になったらしい」


 ジークフリートがバルムンクを両手で持ち直し、切っ先を地面に向けた変則的な構えのまま、大司教ビショップに向けて、全速力で駆け出す。

 その刹那、大司教ビショップの閉じられていた大きな両目がカッと見開き、口吻から巨大な火球がジークフリート目掛けて、放たれた。


「無駄だっ!」


 ジークフリートは下段に構えていたバルムンクを切り上げ、火球を真っ二つに切り裂くとそのまま、駆け抜ける。

 大司教ビショップはいつの間にか、背後に回っているジークフリートを攻撃しようと体を回転させようとするがそれが叶うことはなかった。

 胴を薙がれ、上半身と下半身にきれいに分断された大司教ビショップは自らが機能停止したことにすら、気付かないままその活動を終わらせた。

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