第109話 恋人繋ぎをするのが癖になりそうですわ

 ノヴァ・グランツトロン。

 愛惜帝ゲッツ・フォン・レムリアの御代に帝都と定められた神聖レムリア帝国最大の都市である。

 暴虐の限りを尽くしたダニエリック・ド・プロットにより、帝都グランツトロンは焼かれ、ヴェステンエッケへと遷った。

 しかし、騒乱の時はそれを許さない。

 専横の末にド・プロットが斃れると混乱を収めた皇叔ゾフィーアの本拠地であるオステン・ヘルツシュテレが仮の都となったのである。

 愛惜帝ゲッツはオステン・ヘルツシュテレの地を愛したが、苦渋の決断を下す。

 そうして、新たに置かれた都こそ、ノヴァ・グランツトロンなのだ。


 その帝都が騒然としている。

 歓声に沸く、大いなる熱とでも言うべきものだった。

 圧倒的な熱量が帝都を包み、いずれ大陸全土へと広がっていく宣言が成されたのである。

 ミクトラント大陸の覇者・神聖レムリア帝国の絶対権力者たる皇帝アルベリヒは居並ぶ群衆を前に高らかに宣誓を行った。

 この日、尊厳帝の時代から続く神聖レムリア帝国が世界から消えた。

 以降、レムリア帝国と国名を改めた大陸屈指の大国はそれまでの政策から、百八十度転換した融和政策を次々と発表することになる。

 アルベリヒは語る。

 『我らは今こそ、共存すべきである』と。

 その傍らには燃え上がる炎のように紅い髪の少女が静かに控えていた。


 🦁 🦁 🦁


 一路、北へ。

 針路を王都ヴェステンエッケに向け、歩み始めてから、既に一週間ですわ。

 空を自由に飛べるのはフリアエだけですから、足で稼ぐとなりますとどうしても一日に進める距離は制限されます。

 何しろ、十メートルを超える巨大な物体が三体も行動を同じくしているのですから、とても目立って仕方がありません。

 ただ、何かが起きるのかといったら、そういうこともなく……


「レーオー、何もなくて、暇ですわ」

「じゃあ、何かに襲われたいってこと?」


 ”襲われたい”では私が何か、特殊な性癖を持っているみたいですわね。

 そういうことではないのですがレオにならいつ襲われてもかまいませんのよ?

 今ここですぐには無理ですけど。


「今、襲ってもいいかな?」


 フリアエの中でもデートをしている時と同じように手を繋いでいるのですが、心が安らいでポカポカとした温かさを感じるのです。

 指を絡め合って、しっかりと握り合っているからだと思うのですけど、レオの指にちょっと力が籠ったように感じました。

 『はい』と答えたら、本当に襲われますわね。

 それでもかまわないのですけど……


「あの……レオ。それは家族の前でもやれる自信ありますの? 不機嫌になる子がいるのですけど」


 ライラ……いえ、フリアエから感じられる心の動きは拒否、拒絶ですわね。

 私もアイリスが目の前で殿方とキスをしている姿を見せられたら、さすがにもやっとすると思いますのよ?

 人という生き物は家族のそういう姿をあまり、見たくないものですもの。


「そ、そっか」

「レオには兄弟がおられませんけれど、私の妹はレオの妹ですのよ?その妹に目の前で……嫌でしょう?」

「そ、そうだね」


 そう言いながらも手はしっかりと握り合ったままで瞳には互いを映し込んでいるのです。

 これだけでも十分ですわ。

 手から、レオの想いが伝わってくるんですもの。

 私の想いも伝わっているのでしょう?

 ただ見つめ合っているだけで心に感じるポカポカとした温かさがもっと増したように感じました。


「「愛している(わ)」」


 言葉で交わさなくても伝わっているけど、こうすれば、もっともっと伝わりますもの。


 🦁 🦁 🦁


「ちゃんと着いてきているようですわ」

「乗ってなくてもク・ホリンは大丈夫なんだね」


 歩み続けること既に数時間。

 休憩を挟みながらの行軍ですがそこそこは進めたと思いますのよ?

 ターニャもヤマトとの同調に大分、慣れてきたようで休憩時間に色々と試していました。

 ク・ホリンを追従させるのもフリアエの指揮管制能力を使うことで成功しましたし、今のところ順調ですわね。


 私はレオとずっと手を繋いだままです。

 二人して何だか、恥ずかしがっている良く分からない状況ですわね。

 もうお互いの知らないところなんてない関係なのに不思議ですわ。


「あの子には受容者レシピエントがいませんもの。エルではやはり、無理でしたから」

「起動に条件か。それって何か、こう必要なものがあるのかな?」

「んっ……それは竜の血が……そこはダメですわ。痕が見えちゃうわ」


 今は休憩時間で降りていますから、多少の自由が利きます。

 だから、手だけでは満足出来ないみたいでレオは他のところに印がつけたいみたい。

 油断すると首筋やうなじにキスの雨を降らそうとするのです。

 結構、目立つ場所ですから、一応は釘を刺すのですけど、あまり意味がないのですわ。


「竜の血ね。だから、僕達は平気なんだね……ちゅっ」

「んっ……レオ、これ以上は夜ですわ」

「うん……分かった」


 ついには唇まで食まれると私もつい応じてしまうのでこれ以上、レオにされるがまま、されているとまずいですわ。

 外ではさすがに……と思ったのですがいくら人目がないとはいえ、外でもそこそこ、人に言えない行為をしていた記憶がありますわね。 

 でも、さすがにレオも分かってくれたのかしら?

 それとも人目があると恥ずかしいのかしら?


 最後に軽く、唇を触れ合うだけの軽い口付けを交わして、またギュッと手を繋ぎ合うのでした。

 恋人繋ぎをするのが癖になりそうですわ。

 寝る時もずっとして欲しい、なんてわがまますぎるかしら?

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