第108話 きれいにお掃除すれば、きれいさっぱりですのよ?
ヴェステンエッケは千年の都と詩文で謳われる大陸でその名を知らぬ者がいない城塞都市である。
重厚な石造りの建築物はどれも歴史を感じさせる物ばかりであり、街そのものが歴史の証人と言っても過言ではないだろう。
だが、この街の魅力はそれだけに留まらない。
古王国時代の古い街並みを残す旧市街と現代の整然とした街並みが続く、新市街の絶妙な調和が取れた景観は絶景と言われている。
地理的にも非常に重要な場所にあることでも有名だ。
西部地域に睨みを利かせる要衝の地にあり、かつてダニエリック・ド・プロットという暴君により、一時的にレムリアの帝都になるという数奇な運命を辿ったことでも知られている。
現在は西方諸王国の中でも有力なオルレーヌ王国の王都として、その堅牢な城壁に守られた美しい街並みを保っていた。
しかし、かつて永遠の都と称された麗しき古都も今は見る影もないほどに荒れ果てている。
空は色褪せたような灰色のどんよりとした雲に覆われ、それがまるで現在のヴェステンエッケの様相を暗示しているかのようだった。
王都の中心部には王城がその威容を誇っているが、意外なことに街の規模の割に簡素なものと言えよう。
おとぎ話に出てくるお姫様が住むお城。
美しき白亜の城。
そう見えなくもないが全体的にこじんまりとした印象が否めないのだ。
これには理由があった。
『王とは民とともにあり、ともに生きるものである』
それが初代女王アデライドの願いに沿うものだったからである。
「よきにはからえ」
「御意。全ては陛下のお考えのままに」
玉座に腰掛ける豪奢なドレスを着た美しい女性が一切の抑揚も感情も感じさせることの無く発した一言に男が恭しく、礼をした。
男は闇夜を思わせる黒いマントを靡かせ、玉座の間を退出していく。
まるで生者が誰もいないと錯覚を覚えるほどに静かすぎる城内に男の靴音のみが響き渡る。
「くっくっくっ。例のモノは完成したか?」
「はっ。既に実戦に投入可能でございます、閣下。しかし、閣下もお人が悪い。もはや繕う必要など……おっと口が滑りましたな」
「気にするでない。あれはただのルーティンに過ぎんからな」
ニタァと口角を僅かに上げ、薄っすらと笑みを浮かべる男の瞳は蛇のように縦に細長く、歪な輝きを放っていた。
🦊 🦊 🦊
「大丈夫、リーナ?」
「え、えぇ……」
今、ベッドの上で少々、呆けてますの。
これ以上、落ち込まないようにとレオが後ろから、手を回して、優しく抱き締めてくれているのですけど。
取り返しのつかないことをしでかした精神的なダメージは深いですわ。
まさか、あの程度の魔力量で大惨事が起こるとは思っていなかったのです。
状況を詳細に報告してくれたのはアンドラスことアンディ。
いわゆる影であって、レオに言わせると『忍者だけど忍者じゃないやつ』ですわ。
彼に出来ないことがあるのか、疑問に思えるような優秀な人材ですわね。
今は主にアイリスの護衛をしてもらっているのだけど、今回は緊急の案件で調査を頼んだのです。
そのアンディからの報告によれば、ケラウノスランサーの魔弾が着弾した半径十キロメートル四方の気候が急激に変化してますの……。
これはまずいですわね。
生態系が狂ったら、どうしましょう。
「リーナ、何とかなったからさ。ね?」
レオの腕が私を励まそうとするかのように力が込められたのが分かります。
本当はそのまま、色々と触りたいのでしょうが我慢しているのでしょう。
そこまでレオに気遣ってもらえて、嬉しい反面、心配をかけているのが心苦しくもあるのです。
そうですわ!
凍ったのですから、溶かせばいいのかしら?
炎の魔法でドッカーンとすれば、問題ありませんわね?
「まずい……リーナの瞳に光が無い。これはまずい」
「燃やしましょう。そうですわ。全部、燃やせば、解決ですのよ?」
「それは一番、やっちゃ駄目なやつだからね。あー、もう! しょうがないな」
あらあら?
手が動きませんわ。
どうしたのでしょう。
気のせいか、身体が宙に浮いているような気がするのですけど。
「もう大丈夫だから、心配しないで」
「でも……私のせいですから、燃やし尽くしましょう? それとも……闇の魔法で消し去った方がいいかしら?
「あー、うん。リーナ、ごめん」
あの……レオ、ごめんって?
どうして、腰に手を副えてますの?
それにまた、触手使ってません?
あれはいけませんわ。
身体が浮いてますもの。
「ひゃぅ」
その時、頭を思い切り叩かれたような強い衝撃が全身を貫きました。
腰を掴んでいきなり、
でも、乱暴にされるのもちょっといいかも……
「ひゃん、あんっ」
手足や体に絡みつく触手としっかり腰を掴んでいる彼の手で半ば無理矢理、身体を上下に動かされて、力づくに犯されているみたい。
レオは下から、腰を使って思い切り突き上げてくるので深いところまで一気に貫かれては抜かれるの繰り返しがまずいですわ。
何も考えられなくなりそうくらい、気持ちいいんですもの。
「あんっ、ダメだってぇ……これ、ダメぇ」
「くっ。駄目って言う割にリーナのすごい締まってきて、やばい」
もう正気に戻ったから、普通にしてもいいんですのよ?
なんていう心の叫びは彼には聞こえてないみたいで。
私はもうただ、甘い声を上げるだけになっていて。
互いに快楽を貪るだけの獣みたいですけど、これ……癖になりそうですわ。
「やぁん、あんっ。これ、いいのぉ。レオ、もう……」
「リーナ、腰の動きやばいって。僕もう……無理だって、出るっ」
えー?
おかしいですわ。
いつの間にか、触手も腰を掴んでいた手もなかったのです。
拘束がなくなっているから、自由なはずなのにレオの上で自分の気持ちいい場所を探るように腰を動かしていたのは私自身なのです。
はしたない自分に気付いて、恥ずかしいですわ。
でも、もう止められません。
無意識に身体が動いているようで……レオも同じ?
ただ、互いを求めあうように激しく、もっと激しく。
もっと気持ち良くなりたい。
それが彼にも快感を与えているらしく、二人仲良く同時に果てました。
打ち込まれた熱杭から、激しく放たれたレオの精を
その優しい感触に安心した私は静かに意識を手放すのでした。
ええ、はい。
この後、どうなったのか、気になりますかしら?
レオが騎乗位で一回、白濁を迸らせたくらいで満足すると思いますの?
心地良く、夢の世界へ旅立てたと思ったら、すぐに呼び起されたんですもの。
繋がったまま、抱き抱えられて、あとはもう……思い出すと顔がまた、火照ってきて、いけませんわ。
腰も痛いですし、身体中あちこちにレオに付けられた愛の証が残っています。
私もレオの背中に爪痕を残して、たくさん証を残しておいたのでおあいこかしら?
🦊 🦊 🦊
なお、森林の気候変化はレライエのお陰で事無きを得たようです。
彼女の癒しの魔法でその地域の動植物を助けることが出来たと聞き、一安心するのは後日のことでした。
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