第100話 目標を補足しましたわ

「来いってことかな」

「はい。レオもそうしたいのでしょう?」

「まあね。面白そうだし」


 膝を折り、手を差し出している女王クィーンに向かって、レオは躊躇なく、歩みを進めます。

 私は相変わらず、彼の胸に抱かれたままですから、自由に動けません。

 それは別に構わないのです。

 ただ、あまりにも過保護過ぎませんかしら?

 レオをもっともっと構って、甘えさせたいのにこれでは逆ですもの。

 などと考えている間にもう女王クィーンの掌に乗ってますし。


「ねえ、リーナ」

「大丈夫ですわ。むしろ、二人揃わなければ、女王クィーンは動きませんのよ?ね?」

「あ、うん」


 女王クィーンが手を上げ、胸部近くに近付いた途端、二人とも無数に伸びてくる蔓に手足を捕られました。

 恐らく、これが人の神経に相当する器官なのでしょう。

 ターニャから、手足・頭・胸に蔓が巻き付くとヤマトと意識が一体化するという話を聞いてはいたのです。

 ですから、伝達器官に近い物で繋がっているのは予想していたのですけど、思っていたよりも気持ち悪い感触ですわね。

 慣れていないせいかしら?


「あー、ふーん、そうだよね」


 レオはすぐ隣で同じように蔓に巻き付かれているのですけど、それが彼の考えていたものと違うようでしきりに唸っています。

 男の子ですし、あちらの世界の記憶が色濃く影響しているようでどこか、思い描いていたものと違うのかしら?

 そっとしておきましょう。


「ライラ、あなたが望むことは何ですの?」


 『守る』『平和』『倒す』

 ええ?

 あの子が望んでいたのは平和です。

 平和を守るのに元姉である私の力を借りたい。

 それは別に構いません。

 一体、何を倒すのかしら?

 不自然なことはたくさん、ありましたけれど。

 その元凶は……王都に?

 『竜』『終末』

 頭にイメージが送られてきます。

 紅蓮の炎が燃え盛る中、立ち上がる闇の色を纏った巨大なドラゴンの姿。

 その翼が広がると世界は闇に包まれ、嘲笑うようにもたげられた三つ首から、耳障りな咆哮が放たれました。


「なるほど……レオも見たのかしら?」

「うん、実に面白いね。ワクワクしてきた!」


 そう言いながら、レオったら、蔓に巻き付かれた手を気にせず、私の手をしっかりと握ってきます。

 指を絡めあっているので一体感の高さは……危険ですわね。

 胸がポカポカするどころではすまないのです。

 レオは本当がそれ以上のことを望んでいるのは分かりますが、無理ですわ。

 筒抜けになるのですから、露出狂の気があるのなら、喜んでするのかもしれませんけど、私には無理です。

 彼にもそれくらいは自重してもらわないといけませんわね。

 いつでもレオに愛されたいとは思いますのよ?

 思いますけど、実際にそれを行えるのかと言えば、出来ませんわ。


女王クィーンフリアエ」

「よし、行こう!」


 そう。

 この子の名は復讐を行使する者フリアエ。

 復讐を望まないのに復讐者の名を冠するなんて、いささか悪趣味ですわね。

 あの子、頭はいいし、手先は器用なのに名付けに関してはセンスの欠片も感じさせないのよね。


 ふと眼下を見るとこちらに向かって、手を振ってくれるアンとニールの姿が目に入りました。

 即座に手を差し伸べ、掌に乗るように促します。

 あら?

 そう言うと私が操っているように聞こえますわね。

 違いますのよ?

 私がフリアエの運動面を担当していません。

 つまり、私には指一本すら、動かせないのです。

 運動面の操作はレオが一切を受け持っていて、武装や魔法、索敵と管制は私が受け持つ。

 女王クィーンに二人の受容者レシピエントが必要なのは人間という生き物にとって、互いに補い合う関係が重要だから。

 そんな風につい考えてしまうのは考えすぎかしら?


「リーナ、こっからはどうすれば、いいかな?」


 アンとニールを振り落とさないよう、大事に両手で守りながら、神殿の外に出られたところでレオが眉を下げ、困った顔をして、言うのです。

 ふふっ、その顔がかわいいのです。

 ちょっと見惚れてしまいましたわ。

 誤魔化すように『コホン』と咳払いするのはお約束ですわね。


「そうですわね。では右手を二時の方に上げてくださいな」

「うん? 右手ね。分かった。こうかな?」


 魔法の威力を増大させる効果があるということは計画書を見て、頭に入っています。

 つまり、上級魔法を使えば、地形を一変しかねないということですわ。

 それなら、この場合は雷火槍ライトニングジャベリンの威力で十分でしょう。


「目標を補足しましたわ。撃ちます」


 掲げたフリアエの掌を起点として、紫色に輝く光の収束体である魔法の槍が出現し、天に向けて放たれました。

 バリバリというやや耳障りな音とともに天翔ける雷撃が側壁を大きく削りながら、あっという間に私達の視界から、外れました。


「中々の威力ですわね」

「今の手加減したんだよね?」

「ええ。かなり、抑えて撃ったのですけど、あの威力でしたわ。では参りましょうか?」

「よしっ、戻ろう」


 六枚の翼に魔力を充填させるとフリアエの身体がゆっくりと浮上を始めます。

 どうやら、この翼は羽ばたかせる必要がないみたい。

 どういう原理か、分からないですけど、考えられるのは風の魔法の応用かしら?

 これを実用化出来たら、色々と便利ですわね。


 さて、アンとニールもいますし、急いで浮上したら、危ないですわ。

 急ぐ必要はありませんもの。

 先程の雷火槍ライトニングジャベリンは目標に完璧に当たったのですから。

 急がなくても獲物は逃げたりしませんわ。

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