第101話 わたしがどうにかするんだ Side ターニャ
底の見えない深い闇に消えていった皆のことは気になるけど、まずはあの赤いのをどうにかしなきゃ!
それに微かにリリーさんの声が聞こえた。
(心配しないで。ちょっとだけ、待っていてくださいな)って、確かに聞こえたんだ。
だから、わたしは皆が戻るまでにアレをどうにかするんだ。
「行くよ、ヤマト」
ヤマトは『おう』とか、『ガオン』みたいに分かりやすい意思表示はしてくれない。
でも、わたしがやろうとすることをさも当然のように受け止めてくれている。
そう感じるのは自分の体を動かすみたいに自然に動いてくれるからだと思う。
まるで舞うように軽やかなのだ。
大穴の外周を駆け抜けるヤマトはなるべく、木々を避ける動きを見せてくれる。
そうだよね。
自然は大切にしないといけないって、わたしが思っているから、避けてくれてるんだ。
だけど、あの赤いのはそういうのを無視してるみたい。
木々を薙ぎ倒しながら、こっちに向かって、突っ込んでくる姿は本当に悪鬼そのものにしか、見えないよ。
その時、不意に感じた恐怖に反射的に身体が動いた。
ヤマトが大地を蹴って、思い切り跳んだ。
このまま、空を飛べるんじゃないかっていうくらいの勢いだったのにドゴーンという木々が薙ぎ倒される音がして、衝撃波が襲ってきた。
体勢を崩しながらもどうにか着地して、ムラクモを構え直しながら、さっきまでいた場所を見て、恐怖に震えた。
血の気が引いたって、本当になるんだね……。
どうやら、赤いやつはあんなに距離が離れているのに右腕の槍を思い切り、振り抜いてきたみたい。
『そうらしい』としか、表現しようがないのは距離があったのにわたしがいた場所の木々が悉く吹き飛ばされて、紅蓮の炎を上げていたからだ。
「あの槍、どうなってるの」
『ゲイボルグ』という単語がヤマトから、伝えられてたきたけど何のことか、分からない。
あの槍の名前なのかな?
駄目だわ。
余計なことを考えていたら、やられちゃう。
考える前に動こう!
わたしはムラクモを両手に構えて、一気に距離を詰めようと再び、走る姿勢に入ろうとした。
「くっ」
体の前面を守るように咄嗟にムラクモを構えていたのがラッキーだったみたい。
もし、そうしていなかったら、やられてたかも。
ムラクモの刀身に赤いやつが握った槍から伸びる三つ又に分かれた穂先が絡みついていたのだ。
あの槍って、そういう射撃武器だったの!?
でも、これであっちの武器も使えないはず。
わたしもムラクモを使えないけど、状況としては五分五分ってやつだよね。
そう思ってたわたしが甘かったのかな。
赤いやつは左手をわたしの方に向けてきたかと思ったら……
「きゃああああ」
次の瞬間、わたしは見えない力で思い切り、吹き飛ばされていた。
それも全身に熱で焼けるような痛みと骨が軋むような辛さを感じる。
爆発したの?
それとも燃えた?
何が起きたのか、分からないけど危ないってことだけは分かる。
ムラクモを使って、どうにか立ち上がるけど全身が痛い。
ヤマトも多分、酷いダメージを受けてるんだろう。
ところどころから、ミシミシと耳障りな音が聞こえるし、何だか白い煙が上がっているようだし。
「あっ。アレはもしかして、危ないんじゃ!?」
赤いやつの大きな目にギロリと睨まれた。
アレの額がピカッと光を放ち始めて、このままだと絶対に危ないってことは分かるのに体は言うことを聞いてくれない。
「もう駄目かな……」
わたしが思わず、目を瞑った瞬間、空気が震えるほどの震動が地下から、迫ってくるのを感じた。
ドンという何かが壊れるような衝撃音がして、恐る恐る目を開ける。
わたしはどうにか無事なようだ。
生きてる。
ヤマトも平気だ。
でも、赤いやつはそうじゃなかったみたい。
胸から頭にかけて、何かが通り抜けたみたいに大穴が開いていた。
「お待たせして、ごめんなさい」
良く知ってる涼やかな声が聞こえてきて、見上げると……
そこには空に輝く、真っ赤な星をバックに六枚の翼を大きく広げた天の御使い様の姿があった。
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