第94話 任務了解。破壊する……
アンの淹れてくれた紅茶を一通り、香りを楽しんでから、静かに喉を潜らせます。
「アンの淹れてくれるお茶は美味しいわ」
アンは何も答えません。
ただ、顔がほんのりと桜色に染まっていて、少々、締まりのない顔をしているだけですもの。
喜んでいる……のかしら?
「まだ、終わりそうにないかしら?」
かなり、遠目に見ないと何が行われているかも分からない戦闘行為は未だに継続しております。
巨大な兵器同士による激突は今までに経験したことのない戦い。
出来るだけ、この目に留めておき、今後の参考にしておきたいところなのですけど……。
ここからではもうもうと立つ土煙が辛うじて、確認出来る程度ですわ。
ええ、私、あまり目が良くありませんのよ?
「間もなく、終わりそうですよぉ、お嬢さま」
「そう。終わりますのね」
恐らく、レオがこっそりと手伝ったのでしょう。
青い絵の具を撒き散らしたように青く澄んだ空はどこまでも続く、清々しいほどの青天。
それがにわかに黒雲に覆われ、雷鳴が轟く。
誰かが何かをしないとこのような現象、そうそう起きるものではありませんもの。
ターニャの
図面も意図的に欠損していました。
恐らく、あの力の根源が得体の知れない物――人が手を出してはいけない領域――だったからではないかしら?
空を走る稲妻が大地を捉えたみたい。
アレを呼んだのはレオですわね。
そろそろかしら?
「では参りましょうか」
🤖 🤖 🤖
手を伸ばしたら、いけないと身体が全力で拒否していたのに!
本能的に感じる恐怖が身体を押し留めようとしていたのだ。
それなのに……わたしは手を止めることが出来なかった。
白き魔神ヤマトタケルの手が剣の柄を力強く握り締める。
その瞬間、タチアナの頭に流れ込む膨大なイメージが彼女を激しく混乱させた。
全身の血が煮えたぎる異常な興奮と目の前に存在する不快な黒いモノどもへの抑えきれぬ破壊衝動は十四歳の少女が味わうにはあまりに辛いものだ。
ヤマトタケルは大地に突き刺さった剣を引き抜くとゆったりとした動作で天に向けて、掲げるかのように右腕を突き上げた。
おりから轟いてた雷光が一筋、刀身へと舞い降りる。
その刹那、ヤマトタケルの全身が朧げな燐光を放ち始め、その身を守っていた岩のような外殻がボロボロと剥がれ落ちていく。
どことなく、くすんだ灰色がかった外殻の下から、現れたのは鋭さを感じさせるほどに白く澄んだ、美しい曲面で織りなされた外装である。
空を覆う黒雲の切れ目から、差し込む眩き天の光に照らされ、煌めく純白の巨人の姿はどこまでも神々しく、近寄りがたいものだった。
「任務了解。破壊する……」
一切の感情が消えた無機質な声で呟くタチアナの鳶色の瞳には光が宿っておらず、まるで何者かに操られているかのようだ。
ヤマトタケルはそれまでの緩慢な動作からは信じられない機敏な動きを見せる。
刀身に雷の魔力を纏った両刃の大剣ムラクモを上段に構えると目前にいた運の悪い
重さを乗せた一撃を避けることも守ることも叶わず、哀れな
その剣圧のあまりの凄まじさに振り抜かれた大地には地割れが生じていた。
ヤマトタケルの攻撃を合図にしたのだろうか。
取り囲んでいた
時に大地を蹴り、時に宙を舞うヤマトタケルの動きはまるで人間のように滑らかなものだ。
軽々と砲弾を避け切るとムラクモを横薙ぎに払い、一両また一両と
そして、白の魔神が動きを止めた時、周囲を動くモノは何一つ、いない。
先程までの暴れ振りが嘘のように静かに佇むヤマトタケル。
夕焼けに照らされた純白の鎧はまるで血に染められたようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます