第93話 あの光の正体って、これかな?

「さて、僕もどれくらい、やれるのか試していい?」


 どうして、そう楽しそうなのかしら?

 レオは昔から、そういうところがあったのを忘れてましたわ。

 自分の力を試したい、強い者と戦ってみたいという抗いがたい欲求。

 『男はそういうロマンを追い求めるもの』と本にもありましたもの。

 その悪い癖が出たのが今ということかしら?


「じゃあ、ちょっと待ってて」


 レオは名残惜しそうに私を下ろしてから、そのまま行こうとします。

 え?

 さすがにそれは無謀ではありませんの?


「あのレオ。さすがに魔装を纏った方が……」

「そ、そう? 分かったよ。魔装鎧化ソルセルリー・アルミュール! 猛き獅子の如く。強き牙の如く。黒獅子ここに降臨」


 やはり、微妙に頭が痛くなりますわ。

 魔装を使うたびにレオはこれを言うつもりかしら?

 言わないと纏えない制約が掛かって……ませんわね。


「その口上は必要ですの?」

「ええ!? 変身したら、かっこいいこと言うのはお約束だよ? 言わないといけないもあるんだよ?」


 初耳ですのよ?

 男の子はそういうのをしないと死んでしまう生き物なのかしら?

 それなら、仕方ありませんわね。

 そのたびに頭が痛くなりそうですけど。


「いってらっしゃいませ、レオ」


 頭から爪先まで魔装に覆われているから、分からないはずなのにとても嬉々とした表情のレオが見ますわ。

 そう言っているうちにもう一両の戦車ルークがガラクタに変えられたみたい。

 レオの辞書に手加減という単語を書き入れるべきかしら?


 🤖 🤖 🤖


 不思議な感覚。

 頭の中が得体の知れない誰かに覗かれているような……。

 ぼんやりとしているのに妙にはっきりしてる。


 『なぜ、戦うの?』

 みんな殺された。

 お父さんも殺された。

 『復讐したいの?』

 違う。

 『力が欲しいの?』

 違う。

 守りたいの。


 汝は選ばれた……使うがいい!

 誇るがいい!

 大いなる力を!


 途端に頭がクリアになっていく。

 どう動けばいいのか、何をすればいいのかとはっきり分かる。

 のだ。


「ヤマト、行くよ」


 それまで一歩一歩を歩くだけでもやっとだったのが嘘みたい。

 翼が生えたみたいに軽やかな足取りって、本当だったんだ。


「あぶなっ」


 『右に避けるのだ』と誰かが呟いたのに従って、全速力で走るヤマトにサイドステップを踏ませて、呟きの通り、右方向に身体を反らせる。

 するとさっきまでいた場所に鉄の箱みたいなのから、飛んできた物が当たって、大穴が開いた。

 あんなのに当たったら、痛そう……。

 ううん、痛いで済むのかな?

 あぁ、もう!

 これ、逃げてるだけじゃ、駄目かもしれない。

 逃げちゃ駄目。

 逃げちゃ駄目。

 逃げちゃ駄目。

 呪文のように心の中で唱えているうちにまとわりつこうとしていたえっと……そう、歩兵ポーンが何体か、吹き飛ばされたみたい。

 何かした記憶ないんだけど。


 そして、気付いた時には箱みたいなのに取り囲まれていた。

 あっ、これ……終わったかも。


「いたっ……くっ」


 背中に強い衝撃が走って、爆発音で耳がおかしくなりそう。

 痛みのあまり、そのまま、つんのめりそうになったところに今度は右から、何度も強い衝撃を受ける。


「ぐぅ」


 油断したら、すぐに意識を持っていかれそう。

 強い痛みで意識を刈り取られてないのが不思議なくらい。

 ガクンという軽い衝撃でヤマトが膝を付いたことに気付いた。


「うわあああ」


 顔目掛けて、固い物で思い切り殴られたような痛さに我慢出来なくて、呻き声を上げてしまう。

 痛い、痛い、痛い、痛い。

 誰か、助けて。

 その時、また頭の中に不思議な声が聞こえてきた。


 『力が欲しいの?』

 また、それを聞いてくるんだ。

 痛い、頭が痛い。


「む……ら……く…………も?」


 頭の中で誰かが囁いた『ムラクモ』という単語を呟くとイメージされるのは暗闇で眩い白い光を放つモノだった。

 ゴロゴロとどこか遠くで雷鳴が鳴り響く音が聞こえてくる。

 ふと見上げるといつの間にか、雲に覆われた灰色の天空から一筋の光が目前の地面に突き刺さった。

 あまりにも眩しすぎる光に思わず、目を瞑ってしまった。


「これは……」


 光で視界をやられていたのはわたしだけじゃ、なかったらしい。

 まるで時が止まったみたいに周囲を取り囲んでいた箱も動かない。

 しぱしぱする目をようやく開くと大きな剣が大地に突き刺さってた。

 あの光の正体って、これかな?

 わたしが知ってる両刃の剣に似てはいるけど何か、違う。

 刀身がもう少し、広い感じでふんわりした曲線を描いていて、切れ味の良さそうなイメージが湧いてこない。

 先端もそんなに尖ってないし。

 一言で言うと要はイケてないのだ。


「え? 分かった、取ればいいのね」


 背中はヒリヒリ痛いし、顔も腕も痛いけど我慢して、立ち上がる。

 ヤマトの全身から、何か、耳障りなガキガキというひび割れるような音がしているようだ。

 痛む右腕を伸ばし、奇妙な剣の柄に手を掛けた途端、わたしの身体をまるで雷の魔法にでも貫かれたような奇妙で得難い感覚が走るのだった。

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