第82話 若獅子は森を駆け抜ける
僕の大事な人リリアーナ。
いや、魂を共有する掛け替えのない存在だから、運命共同体とでも言うのかな。
リーナは僕にとことん甘い。
あまりに甘すぎて、逆に心配になってくる。
彼女は僕が何をしても怒らないんじゃないかって、思うくらいにね。
それは半分正解で半分間違いだ。
夜以外はいつもお嬢さま言葉で冷静なリーナが珍しく、取り乱したんだ。
というか、殺されるってほどじゃないけど、あれは怖かったね。
僕の襟首を掴んでる力はどっから来てるんだろうってくらい強かった。
だって、リーナの腕は細いんだよ?
それが僕の襟首締めあげてきて、骨が軋む音するんだ。
信じられないよね?
僕のデュランダルやレーヴァティンもかなりの重量武器で見た目で判断出来ない異常な重さがあるんだけど、彼女のオートクレールもあの細くてきれいな見た目からは想像出来ないくらいに重いんだ。
それを自由に振り回しているんだから、あの華奢な容姿に騙されちゃいけないってこと。
リーナは身体強化の魔法を使っているから、出来るだけって言うんだけどさ。
鋼鉄製の扇を『私は力がございませんもの』と笑顔で簡単に曲げてたからね。
なんて、急にリーナのことを語り出したのはなぜかっていうと今、僕は一人でいるから。
正確にはオーカスと一緒に行動してたんだけど、『暴食』が暴れ出すと危ないから、彼には別のことをしてもらってるんだ。
凍り付いた村の話を聞いたリーナには何かしらの考えがあるらしくて、村へは女性陣だけで行くって言いだした。
彼女にしては珍しく、強く主張するんで僕も折れるしかなかった。
当然、前日の夜は凄かった。
一緒にいられないのは長くても三日くらい。
それなのに彼女と一時でもいられなくなるのが耐えられない気がして、彼女の身体中に痕を付けて、彼女の中に注げるだけ注いだ。
これで死んでもいいやってくらいにね。
彼女もいつもと違うからか、求めてくれて。
僕の上で乱れまくって、感じて求めてくれることが嬉しかった。
そんなリーナがかわいくて、愛おしくて、いつまでも愛し合えるって、本気で思った。
リーナだって、身体が辛いはずなのに満たされたような顔をしてるんだよね。
その顔があまりにかわいくて、もう出なくて元気がなくなっていた僕のあそこはまた、元気になってしまった。
二人とももう体の方が限界なのは分かってるから、激しく動いたりしない。
いや、出来なかったが正しいかな?
だから、リーナは僕の腰の上に跨ったまま。
僕が身体を起こして、互いにぴったりとくっついた体勢で繋がった部分の熱を感じながら、終わらないキスを交わして。
気付いた時には彼女の
もう出ないと思ってたのにまだ、出るんだってくらい出たけどあまりにやりすぎたせいか、そのまま、二人して気絶しちゃったんだよね。
翌朝はもう身体だけじゃなくて、もげたのかな?ってくらい痛かったんだけど、腕の中ですやすやと静かな寝息を立てるリーナの顔を見てたら、そんなのは吹っ飛んだ。
目覚めた彼女の表情も辛そうだから、あちこち痛んでしょうがないんだろう。
『痛いけど……幸せなの』って微笑むリーナを見てるとまた、押し倒したくなったのは内緒だ。
どうにか我慢出来たけど、三日も離れたら、どうなってしまうんだろうか。
自分で想像出来ないだけに怖い。
🦁 🦁 🦁
そんな訳でリーナにどういう考えがあるのか、分からないまま、僕とオーカスだけが深い森へと向かうことになった。
生態系を脅かす魔物が多く生息していることで知られてて、『黒渦の森』と呼ばれている森だ。
黒渦っていうだけあって、黒っぽい葉が生える二十メートル級の大木が光を拒否するように乱立してる。
魔の森なんて呼ばれる訳は森に入ってすぐに分かった。
多すぎて面倒だが僕とオーカスにとってはボーナスバルーンのようなもんだ。
倒せば倒すほど、リーナが言ってたギルドのポイント稼ぎになるんだから、どんとこいってところか。
僕は一人なのを利用して、試してみようと思う。
この際、自分の力を良く知っておくべきだ。
魔装を纏ってから、獣化することで本来の獣状態での力を存分に発揮出来るはずなんだが……。
黄金の鬣を持つ黒獅子の姿で森の中を駆けまわり、出会う魔物を片っ端から、牙と爪で切り裂く。
これが意外と効率が悪い。
身体の大きさがネックになって、高速で移動しながら戦い続ける訳にいかないのだ。
そこで考え付いたのが咆哮に魔力を乗せた攻撃方法だった。
「ガオオオオ」
名付けて、
咆哮に雷属性の魔力を混ぜ、一気に殲滅しちゃえって、吼えてみたんだが。
予想したよりも威力があったようで僕の目の前に広がる森だった場所は荒地に変わっていた。
さすがにこれはまずい。
リーナにバレたら、氷のような視線をあてられそうだ。
それはそれでゾクッと違う世界が開けそうだが僕にそういう趣味はない。
次の手を試すとしよう。
🐆 🐆 🐆
次の手の為に身体を変化させる。
鬣が無くなり、全体がスマートな感じになった気がする。
それもそうか。
黒獅子から、黒豹に
森の中で隠密に移動しながら、狩りをするなら、こっちの方が向いてるかもしれない。
読みは当たっていたようで体つきが細身になったせいか、木々の間を駆け抜けやすくなって、狩りがしやすくなった。
その分、攻撃力としては落ちているんだが、スピードを生かした高速戦闘で走り抜けながら、ゴブリンやオーク程度なら、簡単に首を飛ばせる。
あとでギルドに提出する証を回収するのが大変だなと思いつつ、駆けていると大木の陰から、奇襲のつもりなんだろう。
大きな棍棒を振りかぶって、襲い掛かってくるのをサイドステップで躱し、大地を蹴って跳び、丈夫そうな針葉樹の幹を足掛かりにして、さらに跳ぶ。
そのまま、
ゴトンという音ともに
どうやら、思ったよりも深く入っていたらしい。
やっぱり、森の中だと黒豹だね。
🦁 🦁 🦁
その時だった。
凄まじい咆哮で大地がビリビリと震撼する。
この咆哮はドラゴン?
木々に留まっていた鳥が怯えて逃げ去っていき、ズシンズシンという騒々しい音ともに大地を揺さぶりながら、その巨体が現れた。
この森に似たやや黒みを帯びた緑色の鱗で全身を覆うドラゴンだった。
翼がなく、四足型のオーソドックスなタイプだ。
二本の曲線を描く角に爛々と輝く黄金の瞳とどこから、どう見てもドラゴン。
ただ、奇妙なのはその尾だ。
長い尾の先が二股に分かれていて、先端はやや膨れて吸盤状のようになっている。
そこに目玉のような器官が備えられてるのは珍しいな。
何かを探るように尾を常に動かしているのはあの尾に特殊な力があるのかもしれない。
「ぐるるるるる」
僕のことを睨みつけながら、唸り声を上げているようだ。
「いいだろう。僕も虫の居所が悪いんだ。手加減出来なくても恨まないでね」
リーナが側にいないってだけでこんなにもイライラとしてくるとはね。
手に当たるものを全て、壊したくなってくるような抑えがたい破壊衝動。
ああ、いけない。
こんなことで我を失ってたら、彼女に怒られちゃうな。
「折角だから、試してみるか」
僕は再び、
細身だった体つきは黒獅子のように強靭で太い腕と足を持ちながらもまた、違う何かへと変貌していく。
上顎の犬歯が長く鋭いこの形態は
バランスの取れた黒獅子、スピードと隠密性に優れた黒豹。
そして、パワーと戦闘力に秀でた
ドラゴンを相手に試してみるならってことで
「僕は早く彼女に会いたいんだ」
大地を強く蹴りながら、駆けだした僕は振りかざされた鋭い鉤爪を掻い潜り、その胸元に渾身の凶爪を叩き込むのだった。
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