第73話 誕生日に欲しいプレゼントはそれなんだよね

 つい頭に血が上って、やってしまいましたわ。

 でも、気が付いたら、体が勝手に動いていたんですもの。

 不可抗力ですわね。

 失敗だったのはその拍子にフードが外れてしまい、まとめていた髪が解けて、プラチナブロンドが広がってしまったことかしら?

 この髪色、無駄に目立ってしまいますのよ。


「レーオー! その本のお金を払って、ゆっくりお話しを致しましょう? オーカス、あなたは外にいるアンとニールと一緒に先に帰りなさい。いいですね?」

「ハ、ハイぃぃぃ」


 脱兎の如くという表現はあるけども脱豚の如くですわね。

 オーカスは疾風を巻き起こしながら、店を出ていきました。

 あんなに機敏に動けましたのね?

 ちょっとだけ、驚きを隠せません。

 能ある豚は爪を隠すなんて、格言ありましたかしら?


「は、話せば分かるから」


 まだ、少し私の方が背が高いですわね。

 この状況を他人に見られると非常に思わしくないかしら?

 傍目には無害そうな少年の襟首をギリギリと締め上げて、宙に持ち上げている凶暴な女と映りかねませんもの。


「リーナ、まずは下ろして。ね? お金、払ってくるから」


 仕方なく手を放すとレオは『ちょっと待ってて』と手にある『いかがわしい表紙の本』の代金をカウンターで仏頂面を下げている店員さんに払いに行きました。

 疚しく感じることがないから、素直に応じてくれるのでしょう。

 私が腹を立てているのはレオが何か、変なことを企んでいることに関してではありません。

 見えないところでこそこそと隠れてしていることに腹を立てているのですわ。

 まるで浮気でもしているようではありませんの?


「じっくり聞かせていただきましょうか?」


 レオの手を取って、転移の魔法を発動させます。


 🦁 🦁 🦁


 目の前に広がるのは真っ白な花が一面に咲き乱れた景色。

 心地良い風が吹き抜けていき、眼下に見えているのは白亜の城と街並みです。

 その傍らには陽光に照らされ、煌めく湖面が美しいアルフィン湖がその存在感を示していました。

 私とレオにとって、思い出深い花園。

 まだ、幼い頃にここで出会い、将来の約束を交わしたのです。

 それから、色々あって、再会して。

 宿命と戦ったのもここでした。


「ここなら、誰にも邪魔されずにお話出来ますわ」


 もう変装する必要もないのでローブを脱ぎ捨てます。

 今思えば、これは正直、悪手でしたわね。

 ローブの下には夜着よりも少々ましといった程度の薄着しか着ていないことを忘れてたのです。

 裾は膝よりも上で太股が半分以上、露わになっていました。

 袖はしっかりと手首まで覆っていますが、生地が薄手なので非常に心許ないものです。

 当然、生地が薄手なのは身体を覆っている部分も同様な訳ですから、ラインがはっきりと見えてますわね。

 レオみたいな捕食者の前に現れる恰好でないのは確かですわ。


「分かったよ。それじゃ、座ろっか」

「ええ」


 レオはなぜか、私を先に座らせようとするのですけど。

 レディファーストなだけかしら?

 用意のいい彼は収納ストレージから、外套を取り出して、地面に引いてくれました。

 『さあ、どうぞ、お姫さま』とエスコートされたら、先に座らないといけませんもの。

 ぺったりと外套の上に女の子座りします。

 骨盤が歪むのは分かっているのですけど、楽ですのよね。


「ん? んん?」


 あの……これはどういう状況ですの?

 レオが太股の上に頭を預けて、横になっているのですけども。

 これは『膝枕をしている』という状態ではありませんか。

 何をどうしたら、こうなるのでしょう。

 あまりにもレオの態度が平然かつ大胆でしたから、つい、受け入れてしまいましたわ。


「えっと……レオ?」

「リーナの膝枕いいね!」

「そ、それはありがとうございますわ? そうではなくって! これはどういうことですの?」


 膝枕を堪能されているような気がしてなりません。

 彼の熱を帯びた視線が見つめているのは私の胸ですわね。

 あまりにじっと見つめられると気になって仕方がありませんわ。


「はい、これ。リーナが気になった本ね」


 レオから怪しい本屋さんで手に取っていた本を受け取りました。

 随分とあっさりと証拠品を渡すなんて、素直過ぎて逆に怖いのですけど。

 それでも確認をしない訳にはいきません。

 表紙は本屋さんでチラッと見えた金色の髪に胸が大きく、美しい女性が艶めかしいポーズを取っているものでした。

 レオもやはりこういうスタイルの方が好きなのかしら?


「リーナの目が怖い……。怒ってる?」

「怒ってませんわ。ただ、レオはこういう胸がお好きなのかと思いまして」


 怒っているのではありません。

 本のモデルという嫉妬しようがない物に対して、嫉妬しているだけなのです。


「本の中身を見てよ」

「中を見ても何も……って、ええ?」


 ページをめくっていくとそこに描かれていた衝撃的な光景に顔が茹でられたように熱くなっていきます。

 それだけではありません。

 頭が沸騰しそうなくらい恥ずかしいですわ。

 そんな私の反応を見て、レオは何が楽しいのか、くつくつ笑っているのですけど。


「レ、レ、レオ。こ、これは何ですの?」

「だから、誕生日に欲しいプレゼントはそれなんだよね」

「ええ? プレゼント? ん?」

「それをリーナにしてもらいたいってこと」


 これをしないといけませんの?

 理解するのに時間がかかりますわ。

 描かれている衝撃的な場面は横たわった女性の豊かな胸の谷間が男性自身を挟んでいる姿でした。

 場面が進んでいくと女性が自分の手を使って、胸で男性自身をさらに刺激していき、達した男性が女性の顔と胸に白濁をかけているのです。

 それはもう衝撃的過ぎて、あまりに刺激的で。

 意識していないのに心臓がうるさくて、レオに服の上から胸をずっと揉まれていても気になりませんわ。

 あっ、ちょっとは気になりますのよ?

 でも、それどころではないのです。


「わ、わ、わたくしに出来ますの?」


 えっと、そういうことではなくって。

 無意識にあらぬことを口走った気がします。

 出来る、出来ないとかの問題だったかしら?

 でも、レオは望んでいるのよね……。


「大丈夫だよ、その為に育ててるんだし。もうちょっとページめくってみて。それなら、いけると思うんだ」


 あっ、そうでしたのね?

 胸ばかりに執着して、夜通しマッサージしているから、おかしいとは思ってましたの。

 さらにページをめくると膝を付いた女性が腰掛けている男性の股間で自己主張する男性自身を胸の谷間で挟んでいる姿が描かれていました。

 なるほど、そういうことですのね。

 横たわると余程、胸に自信がないと無理なのですわ。

 でも、この体勢なら私の胸でも……って、ん?

 私の胸が単に足りてないと言うことではなくって?


「そう。つまり、レオは私の胸に不満がありますのね?」

「そ、そういう訳じゃないよ。僕はリーナの胸が好きだから」


 それは分かりますのよ。

 こうして、喋っている間もずっと揉み続けているんですもの。

 ずっと揉み揉みされてますと変な気分になりますわ。

 左だけではなく、右もして欲し……ち、違いますわ。

 こんなことを考えるなんて、おかしいですもの。

 レオのせいで私まで変態さんになってしまいそう……。


「それでさ、リーナ。それが本題じゃなくて、その次のページのをまず、して欲しいんだ」

「次のページですのね」


 もう何が描かれていても驚いたりしませんわ。

 んん? ええ? あぁん?

 驚かないと言いましたけど、撤回致しますわ。

 胸でしているのなんて、全て吹き飛んでしまうくらいの衝撃波に襲われたのです。


 彼の望みは私の喜び。

 レオが望むのなら、レオが喜ぶのなら、何でもするって、誓いましたもの。

 多少、恥ずかしいくらい我慢出来ますわ。

 そう、多少の恥ずかしさくらい、レオが喜んでくれるのなら、耐えられますもの。

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