第58話 艶かしい光景を固唾を飲んで見守ることになろうとは思ってもいませんでした
ニールとオーカスの世話をアンに任せ、レオと直接、現場を押さえるべく、動くことにしました。
そして、今。
気配を消して、『
大陸西部は温暖な気候に属しており、日本の季節に例えれば、夏に似た気温の高く、やや蒸し暑さを感じる日が続いています。
ただ、さすがに日が落ちると少し、肌寒いですわ。
リジュボーが寒冷な海流が流れる西の大海に面しているせいなのかしら?
「寒くはない?」
「大丈夫ですわ」
『あなたがいるから』と口にしなくてもレオには分かっているみたい。
ただ、そっと肩を抱き寄せてくれます。
互いの熱を感じられるように寄り添っていると夜の闇と静けさに包まれたこの寂しい場でも寂しさを感じません。
えっと……でも、おかしいのですわ。
年上なのに。
これではまるで私が甘えているみたいだわ。
「レオはどう思います?」
「幸せにさせてから、イタダキマスってことだよね。変なやつだとしか、思えないよ。リーナは心当たりあるのかな?」
「いいえ。残念ながら、ありませんの。混沌に属する魔物は不安や恐怖という負の感情を煽り、それを捕食するタイプが存在しますでしょう? 幸福にさせてから、捕食するのは全く、逆のタイプですわ」
混沌の尖兵である
人の心を蝕み、それを糧とする厄介な存在。
その手段は巧妙で土壌を腐らせ、河川を汚し、疑心を生じさせることで徐々に弱らせてから、贄とする。
つまり、確実に負の感情を育てようとするのが混沌のやり方なのです。
それなのに今回の事件、それとは真逆の行動を取っているようにしか、思えませんわ。
「僕たちの知らない新種とか? レアなやつかもしれないね」
「どちらにしても野放しにしてはいけないモノですわ」
年下の彼に甘えるよりも甘えさせたいって、思ってましたのに!
気付いたら、レオに体を預けるように自分から、抱き付いていました。
おかしいですわね。
こんなはずではなかったのに……。
でも、こうしていると彼の心音が感じられて、落ち着きますの。
私の鼓動もレオに伝わっているのかしら?
あら?この感じは……
「レオ。来たようですわ」
「そうみたいだね」
ソレは害意や殺意、邪な気配というものを感じさせることなく、佇んでいました。
オーナーであるイシドロさまの部屋の扉を前にただ、静かに。
魔物ではないのかしら?
ううん。
まだ、これだけではっきりとは分からないですわ。
人間と変わらない姿に擬態している可能性がありますもの。
ぱっと見ではそれと分からないほどに人間に似ているけれど、人ではないモノが人間社会に溶け込んでいるのかもしれないわ。
👩 👩 👩
ニールとオーカスをアンに任せておいて、正解でしたわ。
子供に見せてはいけない艶めかしい光景が私たちの前で繰り広げられているのですから。
イシドロさまは訪ねてきた女性を部屋に招き入れました。
途端に想いが堰を切ったように溢れ出したのか、お互いの唇を貪り合うような激しい口付けを交わし始めたのです。
(これ、本当にバレない?)
(ええ。私の魔法に抜かりがあるとお思いですの?)
レオとしっかりと指を絡め合い手を握り合っています。
目前で繰り広げられる色事を……艶かしい光景を固唾を飲んで見守ることになろうとは思ってもいませんでした。
正当な捜査であって、疚しい気持ちで行為を見ているのではないのに妙に心がザワザワしてきますのね。
イシドロさまは女性が着ている純白のワンピースを脱がそうと肩紐を解こうとするのですが慣れていないのかしら?
手つきが非常にたどたどしいのです。
レオだったら、口づけを交わして、気を逸らされて、気付いたら全て脱がされてますわ。
気持ちばかりが逸っているのね。
一向に進まない様子に女性はやんわりとイシドロさまの手を握りました。
優しさが溢れるような表情は慈愛に満ちた女神のようとでも例えれば、いいのかしら?
彼女はフルフルと首を横に振ると自らワンピースを脱ぎ始めたのです。
(レーオー! 見てはダメですわ。私以外を見てはダメ!)
(え? それは無理じゃない? それじゃ、犯行現場を押さえられないよ)
(うぐぅ。じ、じゃあ、薄目にするのなら、許して差し上げますわ)
(はい。僕のお姫さま)
レオが十七歳で私が十二歳ですの?
いいえ。
私が十七歳でレオは十二歳ですわ。
おかしいわ。
こんなに余裕の無いところを露呈したら、私の方が年下のように見えますわ。
もっと年上のお姉さんらしいところを見せて……でも、かわいいって言われると嬉しいですわね。
あぁ。
もうっ! まどろこしいのですわ。
(リーナ、そろそろ帰ってきて?)
(え? あっ……ごめんなさい)
少々、自分の世界に浸っている間に盛り上がっている恋人達(?)は服を脱がせ終わって、次の段階に入ったようです。
また、激しい口付けを交わすと互いを愛おしむように見つめあっています。
私もレオとしたいですわ!
うらやまし……もとい、けしからないですわ!
レオの横顔を見ると彼もこちらをじっと見つめてるではありませんか。
まずいと思いつつも見つめ合ったまま、動けなくなってしまいました。
ただ、こうしているだけでお互いの想いが通じ合っているような。
見つめ合っているだけなのに時が止まったような錯覚に陥ったのです。
そんな私達を現実へと戻したのは女性の甘い嬌声でした。
『あんっ』という甘ったるい声が部屋に響き渡ります。
少々、演技が入っているのではなくって?
怪しいですわ。
わざと声を上げているだけで本当に気持ち良くて、快感で上がった声ではないように感じられます。
さらに目を皿のようにして凝視しているとレオがギョッとした顔で見つめてくるのですけど。
私、何か、変なことをしているのかしら?
(リーナ。あまり集中すると室温下がるから。ね?)
(分かっていますわ)
おかしいですわね。
不思議なこともあるものですわ。
では観察を続けましょう。
イシドロさまは本当にこういうことが不慣れなのでしょう。
その手つきは恐る恐るといった感じで女性の豊かな双丘を撫でているだけ。
レオのようにもっとしつこいくらいに揉みしだいたり、色々とおいたをしていません。
あれくらいでしたら、感じていないでしょうにわざと啼いてみせているように思えますわ。
レオなら、もっとこう口でもしてくれて……
(し、集中しようか、リーナ)
(え、ええ。そうですわね、レオ)
そう言いながらも無意識に握り合う手に力が入ってました。
彼も強く握り返してくれたということは同じ気持ちでいてくれるということかしら?
(うーん、複雑な気分だよ)
(……)
レオが複雑というのは今のイシドロさまの気持ちが良く分かるからなのでしょう。
女性の胸を一通り、撫でた後、彼自身はもう今にも爆発しそうなくらい反り返っていますがかわいいものですわね。
レオのを見慣れたせいかしら?
まるで子供みたいでちんまりしているんですもの。
(リーナ……可哀想な子を見るような目で見るのはやめようか)
(ふぇ? な、なんのことですの?)
分かってますわ。
知らず知らずのうちにレオのと比べてましたのね。
いけません、目の前の事象に集中しましょう。
イシドロさまは女性の大事な部分へと彼女の手に導かれるまま、たどたどしい手つきで刺激しています。
甘い声が室内に響き渡るのも慣れてきましたわ。
最初は指で準備をして、それから、レオだったら、口でもしてくれるんですもの。
恥ずかしいのですけど、気持ち良くって、フワフワするのよね。
(リーナ、リーナ! 集中ね)
(ふぁっ?! は、はい)
どうも調子が狂いますわ。
今度こそ、集中しないといけないですわね。
あら? 準備が終わったのかしら?
仰向けになった女性に覆いかぶさったイシドロさまがその怒張を秘所に突き立てようとしたその時、事件が起きました。
期せずしてイシドロさまのアレから白濁が放たれてしまったのです。
ビクビクと脈動するイシドロさま自身からは止まることなく、白濁が流れ続けています。
『ごめん』『大丈夫よ。わたしに任せて』という会話が聞こえてきて。
ちゃんと出来るようになるまで私達も苦労したのを思い出しました。
今では愛されすぎて、大変なのだけど。
(だから、上に
(んんん? あっ、なるほど。そういうことですのね。ああなった男性は自信を無くしますもの。レオもお分かりでしょう?)
(う、うん。ま、まあね)
(では、そんな男性が導かれた場所で快感を得て、精を放てば、どうなるかしら?)
(その瞬間、とてつもない幸福を感じるってことか)
私が今、レオとしているのと同じく、恋人繋ぎでしっかりと手を握り合いながら、女性がイシドロさまの腰に跨りました。
屹立したイシドロさまのモノを自らの秘所へと導いていきます。
レオのより、かわいいからなのかしら?
イシドロさまの怒張は女性の肉の扉を分け入りながらもすんなりと収めらました。
レオのが完全に挿入るまで結構、大変ですし、体位によっては奥まで届くのですけど、アレでは無理そうですわね。
それでも行為自体には問題ないようですわ。
部屋に響き渡る卑猥な水音とともに二人の愛の行為は続いています。
イシドロさまが下から腰を打ち付けようとする度に彼女の豊かな胸が一定のリズムを刻みながら、揺れていて。
私もあれくらい育てば、レオは嬉しいかしら?
もしかして、その為に毎日、胸のマッサージをしてくれるのではないでしょうね。
(レーオー、薄目にしてます?)
(し、してるよ?)
『うっ、気持ち良すぎてもう駄目だっ。で、出る』というちょっと情けないイシドロさまの声とともに彼女の中に精が解き放たれたようです。
『すごいよかったわ、あなた』と女性が甘ったるい声で囁いています。
あら?イシドロさまは意識を失ってませんか!?
(レオ、まずいわ)
(そうみたいだね。おぉ!?)
(くぁwせdrftgyふじこlp!?)
私はそれを目にした瞬間、気を失うのこそ免れましたけど、胃液が逆流してきそうな激しい吐き気を催しました。
イシドロさまの上に跨り、快楽を貪るように栗色の長い髪を靡かせ、その腰を振っていた美しい女性。
その姿はどこにもありません。
代わりにそこにいたのは見るも悍ましい奇怪なモノだったのです。
彼女の口から、胃や腸などの臓物が吐き出されます。
その様子は過酷な拷問を目にした方が生易しいのではないかと思えるほどに醜悪なものでした。
やがて、それが終わったかと思うと体全体の皮膚が裏返しになり、頭から爪先まで体の内を露出させた世にも怖ろしい姿の生き物がそこにいました。
美しい女性だったモノはその長い舌をジュルリと舌なめずりでもするように動かすのでした。
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