第53話 それとも何か、期待してるのかな?

 六日ぶりに吸えた外の空気は心地良い海の風も相まって、とても気持ち良く感じます。

 空も海も澄んだ青色の絵の具一色で塗りこめたようにきれいですわ。


「こういう船旅は初めてですから、嬉しいわ」


 そうは言ったものの油断していると海に落ちそうな恐怖を感じています。

 正直なところ、本当はまだ、ちょっと怖いのです。

 隣にレオがいるから。

 腰に手を回して、しっかりと支えてくれているので海風を楽しむ余裕が出来ているのですわ。


「この旅ってさ。本当にただ、色々な場所に行ってみたいだけ?」


 本当、妙なところで鋭いですよね。

 それだけではないと気付いているから、聞いてきたのでしょう?


「レオとこの世界を見て回りたいと思っているのは本当ですわ」

「それは僕もそうしたいから、分かるよ。でも、それだけじゃないよね?」


 逸らさず見つめてくる紅の瞳はどこまでも真っ直ぐで私の心を射抜いてきます。

 だから、嘘は申し上げません。

 レオに嘘を言ってもすぐに見破られそうですし……。


「オルレーヌ王国の件は想定してませんでしたの。あの国で何かが起こっているなんて、考えてもいませんでした」

「そっか。でもさ、リーナの中でリジュボーに行くのは想定していたよね?」

「ええ、そうですわ。アルフィンから、北へ向かうより、その方が楽しいでしょう? 街道を整備しましたけど、馬車の旅は退屈ですのよ?」


 アルフィンへの下向の際、一ヶ月近くも不自由な馬車での旅を強いられました。

 街道の整備が放置されていたせいか、荒れ方が酷く、乗り心地が悪いのに加え、同じような風景が延々と続くだけでした。

 集落もまばらですし、本当に何もない退屈な旅なのです。

 この船旅での退屈なんて、かわいいものでしょう。

 嘘ですわ。

 この六日、ずっとレオに愛されていたから、退屈どころではありませんでしたもの。


 では馬車を選ばない場合はどうなるか。

 港町であるバノジェから、東か、西の港に船で移動し、ゆっくりと帝都を目指すしか、ないでしょう。

 そして、この場合、東ルートは絶対にありえません。

 まず、エルフの王国を抜ける必要があります。

 エルの実家である王国は私の実家の領地と隣り合わせなのです。

 すんなりと通してはくれないでしょう。

 さらに怖いのは東の広大な地域を領するロマールは私の実家が治める地。

 そこにはお祖母さまとお母さまがいらっしゃいます。

 どうなるか、考えただけでも恐ろしいですわ。


 つまり、最西端の港町リジュボーしか、選択肢がなかったのです。

 もう一つ、大事な用件もありますし……。


「何か、他にもあるんじゃない?」


 海風で靡く私の髪を自由に動く手で梳くように優しく、撫でてくれるレオですけれど、その目が笑ってはいません。

 これはバレてますの?


「気づいてらしたの? それなら、そうと仰ってくれたら、よろしいのでは?」

「ん?」

「え?」

「何の話かな?」


 あら? おかしいですわ。

 これはもしかして、藪をつついて蛇を出したのかしら?


「え、えっと……アレが見つかったとの報せがありましたから、レオは感じたのでしょう? 違いましたの?」

「アレって? え? 何?」


 これは本当に言わなくてもいいのに盛大に自爆したようですわ。

 本当は直前まで秘密にしておき、喜んでもらおうと思っていたのですけど仕方ありません。


「あなたの鎧が見つかりましたの。西部のダンジョンに眠ってますわ」




 レオが考えるより、早く動く性格なのを忘れてました。

 鎧の話を出してから、瞬きする間も与えられず、お姫さま抱っこです。

 『きゃっ』と悲鳴を上げる暇すらないんですもの。

 もはや、その動きは芸術的と言わざるを得ませんわ。


 そこから、部屋に戻るまでの速さも神速ですわね。

 大事な話なので部屋でするべきと判断した。

 それは分かりますわ。

 分かりますけれど、ベッドの上に寝かせる必要はないと思いますの。

 お姫さま抱っこをしていたから、ベッドの方が下ろしやすかった。

 違う気がしてなりません。


「何で黙ってたのかな?」

「え、ええ? あの……その方がレオが喜ぶかなって……駄目でし……んっ」


 言葉を全て、発する前に彼の口で塞がれました。

 強制的に物を言えなくするのはいけないと思いますわ。


「これは事情聴取が必要だね」

「ち、ちょっとレオ!? まだ、お昼ですのよ」


 『どこでそのテクニックを磨きましたの?』って突っ込みたくなるほど、手慣れた手つきで身ぐるみが剥がされていきます。

 私は彼の服を脱がせるのに未だに苦労していますのに。

 おかしいですわ。

 不公平ですわ。


「事情聴取だからね? それとも何か、期待してるのかな?」

「そ、そのようなことは……ありませんわ」


 言ってる間にワンピースのリボンはどんどんほどかれていって、私の身を守る布地はほぼなくなっています。

 でも、本当はそこまで抵抗しようと思ってません。

 抵抗しても無駄になりますから、諦めたのです。

 べ、べつに期待している訳ではありませんのよ?


「あの鎧があれば、レオが力をコントロールしやすいでしょ。だから、私が探し出しておけば、喜んでいただけると思ったのです」

「本当にそれだけかな?」


 レオはそう言いながら、既に露わにされている胸をゆっくりと味わうように揉みしだき、先端を口に含むと歯で軽く、かじってきたのです。


「あんっ……本当なのぉ……いやぁ、それダメぇ」


 さらに舌先で弄ぶように嬲られていると頭の中が真っ白になります。

 えっと、何でこんな目にあっているのかしら?

 そういう趣向ですの?

 まだ、日も沈んでませんし、明日は目的地に着くのですから、おとなしくしていた方がよろしいのでは!?


「じゃあ、やめる?」


 薄っすらと笑みを浮かべたレオの顔は意地悪をする時の悪戯っ子の顔です。

 この顔に弱いのですわ。

 でも、私にだって、プライドがあります。


「レ、レオがしたいのなら……いいですけど?」

「僕は別に平気だよ?」


 薄っすらと笑みを浮かべているようで背筋がゾクッとします。

 今、ものすごく悪い顔をしてませんでした?

 ちょっぴり恐怖を感じているとまた、胸の蕾を口に含まれ、舌で嬲られて、『お願いします』って、降参したくなりますけど……我慢ですわ。

 ええ。

 こうなったら、意地でも我慢するわ。

 我慢してみせますとも!


 🦁 🦁 🦁


 はい。

 我慢という単語は私の辞書に掲載されてませんでしたの。

 五分も持ちませんでしたわ。


「や、やぁ。そこがいいのぉ。やめないでぇ……もう無理だからぁ……レオの………ください」

「はい。良く出来ました」


 プライドはきっと砂で出来たお城レベルでしたのよ。

 だから、あっさりと崩れましたのね?

 でも、胸ばかりしてくるかと思ったら、指であんなに激しくするなんて、ずるいですわ!

 反則だと思いますの。


 でも、本当にずるいですわ。

 レオったら、いつの間に獣への変身をほぼコントロール出来るようになったのかしら?

 指で馴らすように散々、弄ばれるだけでも手一杯でしたのに。

 まさか、舌で舐められたり、吸われるなんて思ってませんでした。

 それもあんな音を立てて……恥ずかしいですわ。

 その時点で何度も軽く達してましたから、息も絶え絶えになっていたのです。

 それなのに獣になって……獅子の姿で……あの気持ちがいい舌で舐めてくるんですもの。

 アレを我慢するなんて、無理ですわ。

 さらに何度もレオの舌でイかされて。

 夕食までの間、彼の手で美味しくいただかれました。

 でも、後悔はしておりませんのよ?

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