第52話 なんと退屈で平和な船の旅なのでしょう

 顔から火が出るくらいに恥ずかしい夢を見ていましたわ。

 ええ、夢です。

 夢でなかったら、どうすればいいのでしょう。

 恥ずかしさに加えて、鳥肌が立つような感覚を覚えます


「んっ……え?」


 手触りが……あの心地良い感触が!

 ありません、ないのですわ。

 何ということでしょう。

 レオが元に戻ってしまったのですわ。


「戻ってしまいましたの?」

「リーナ。それだと僕が元に戻らない方がいいように聞こえるけど?」


 いつものように私を優しく、見つめてくれるルビーの色をしたきれいな瞳。

 曇り一つ無く、真っ直ぐなものです。

 しかし、迂闊でしたわ。

 モフモフでないことを残念に思っているのではありません。

 ただ、あの心地良い感触を味わいながら、気持ち良く眠りたかっただけ。

 それだけなのです。 


「僕はこうやって、リーナを抱き締められる方がいいな」


 そう言いながら、レオに抱き締められました。

 その腕に力が込められて、骨の軋む音がしますけど、そうやって私を感じようとしてくれるのかしら?

 でも、もう少し緩めてくれると嬉しいですわ。

 息が苦しいんですもの。


「んっ……ちゅ」


 息苦しいところをやや乱暴に唇を奪われました。

 苦しいのに激しく、求められると応じてしまうのです。


「ちょっと意地悪してません?」


 彼の顔が離れていくと私との間に銀色の橋が出来ていました。

 光が反射してキラキラと輝く、不安定な橋は幻想的に映り、目を楽しませてくれます。

 ただ、熱に浮かされたようにレオを見つめることしか出来ません。

 筋肉質のたくましい腕で固くロックされたままなのもありますけど、動きたくないのです。

 彼に抱きしめられたまま、ずっとこうしていたいくらい。


「してないよ? でも、こうしてないと不安だから。駄目かな?」

「ダメって、言うと思いますの?」

「思わないよ」


 レオの身体に腕を絡めて、私からも抱き着きました。

 互いに抱き締め合って、体温を感じているだけ。

 見つめ合っているだけで互いの鼓動を感じて、さらに愛しくなってきます。

 ただ、それだけで時が過ぎていきますけど、私達には十分なのです。

 今は抱きしめあっているだけで満足ですわ。

 なんて、嘘ですわね。

 二人とも昨夜の一糸纏わぬ姿のままだったので敏感な部分が擦れて、刺激的なのに我慢していたのですから。

 鼓動が聞こえてしまうかもって、心配になるくらい早くて、大きな音を立てていて。

 抱きしめあっているだけですから、レオのモノは違う場所-太腿に挟まれて、我慢出来なかったのか、ビクビクと軽く脈動してますの。

 ドロッとした物が太腿にまで垂れてくるのを感じます。

 お互いに気まずいですわね……。


 あぁ、なんと退な船の旅なのでしょう。


 🚢 🚢 🚢


 三日目の日中はニールに絵本の読み聞かせをしたり、皆で読書会をしたりと平穏そのものでした。

 旅に出ていない時と何ら変わりがない日常に船で旅していることを忘れてしまいそうです。

 でも、夜は明らかに違いました。

 互いの想いを確認するようにレオと身体を重ねるなんて、なかったことですもの。

 これも船旅のお陰なのかしら?

 『こういうのをきっと爛れた日々って言いますのよ?』と言うと『また、本かな?』と図星を指されてしまいました。

 当たってます……。

 ちょっと悔しいですわ。

 あまりに悔しかったので上に騎乗って、『もう無理だから。出ないから』とレオが言うまで暴れてやったのです。

 これくらいの意趣返しをしても悪くないでしょう?


 その翌日の夜に仕返しされたのですけど。

 『ダメぇ、もう壊れちゃうからぁ』って言っても許してもらえなくて。

 どこで知識を得たのやら、『この方がいいらしいよ?』と獣の作法で愛されたのです。

 激しくて、抗えないほどの快感とともに『これで孕んで、リーナ』と耳元で囁かれて。

 その単語、どこで覚えましたの?


 本当なのかしら?

 この体勢の方が……本当?

 確かに気持ちは良かったですわ。

 力強く、打ち付けられるレオのモノに奥深くまで貫かれて、何も考えられなくなるほどに。

 でも、顔が見えないから、『レオの顔が見える方がいいわ』って言ってしまったのです。

 失敗でしたわ。

 そうしたら、『リーナが悪いんだよ』と仰向けにひっくり返されて、さらに延長戦になったのです……。

 結局、星がまたたいていた空が明るくなってくるまで延々と愛されました。

 体の隅々に彼の証を付けられて、意識がなくなるまで。

 これが抱き潰されたという状態ですのね?

 早急にレオの辞書に『手加減』という単語を書き加えないと身が持ちませんわ。


 五日目のことです。

 船体を激しく揺さぶられる衝撃が襲い、何かに巻き込まれたのは分かりました。

 途端に慌ただしく、動き始めた船員さん達の鬼気迫る顔から察したのは海中で遭遇したくない何らかの巨大生物に襲われたようです。

 その後、軽い揺れが何度かあり、何かの爆発するような音が響きましたから、戦闘が行われたのでしょう。

 食事の際、食堂にてジーグリットさまと顔を合わせる機会があったので何があったのかを伺いました。

 どうやら、水棲のドラゴンシーサーペントらしき生物に絡まれたので追い払おうと威嚇射撃を行ったとのこと。

 しかし、それが叶わず、戦わざるを得なくなり、排除したそうです。

 そのドラゴン、手足が身体の割に小さく、ほぼ退化しているようでまるで蛇のように長い胴体をしていたのだとか。

 何よりも体が巨大で船体に巻き付かれたのがあの激しい衝撃だったようですわ。

 『一撃必殺の螺旋衝角スパイラルラムって、とっておきがあってね』とジーグリットさまが熱く語り出してしまい、解放されるまで大変でした。


 そして、六日目になり、寄港地であるリジュボーまでかなり、近付きました。

 ようやく水の中から出られますわ。

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