閑話5 語尾に『にゃ』を付けてくださいません?

 猫の日ですし、前回、レオが変身しているので丁度いい機会なので特別編です。

 とても短いです。


 ◇ ◆ ◇


 次の日、目を覚ましたら、レオは元に戻って……


「いないですって!?」


 出なくなるまで出しました。

 顔が白濁パックされるくらいにもう大量にかけてもらいましたとも。

 レオも顔がびしょ濡れになってますけど、私が悪いのではないと思いますの。

 駄目って言っているのにおいたが過ぎるからですわ。

 でも、濡れた口元を舌で舐め取るレオの姿が獅子なのに艶かしくて、胸がキュンとするのです。


 それにしても寝たのに戻っていないなんて、おかしいですわね。

 目の前でスヤスヤと安らかな寝息を立てながら、気持ち良さそうに寝ているレオの顔を見るとこちらまで眠くなってくるのですけど。

 宵闇の空をビロードにしたような毛並みがとても気持ちのいい猫……にしては大きすぎな若獅子のままなのよね。

 前はあの方法で上手くいったから、試してみたのですけど違ったのかしら?

 何か、他に手順が必要だったという可能性もありますわね。


「はぁ。でも、この手触りの良さ。気持ちいいですわ」


 黒い毛並みに顔を埋め、擦り付けてから、その匂いを吸っているだけで秒で寝れますわ。

 最高ですわ!


「リーナってさ。僕がこういう姿の時の方が積極的だよね!?」

「え? そ、そんなことはないですわ」


 少々、言い淀んでしまいました。

 強ち否定できない事実ですわ。

 ですが令嬢として淑女教育で鍛え抜かれた必殺の表情隠しにより、隠し通します。

 完璧でしょう?


「レオですから、安心してこうしているだけですのよ?」

「本当?」

「はい。ですから! もっと感じさせてくださいな」

「え? あっ、ちょっ……目が据わってない? い、いや、激しい!?」


 何も着ていない肌にこの毛の感触が堪りませんわ。

 背筋がゾクゾクするような何とも言えないこの感じ。

 大きさも大きくなったのが丁度良くて、全身で感じられて、本当に最高なのです。

 レオがあわよくば逃げようとするので足を絡めて、絶対に逃がしません。


「どうして逃げようとしますの?」

「そんな恰好のリーナに抱き付かれたら、反応しちゃうよ」


 確かに足先がちょっとグニャとした物体に触れましたけど、レオのが元気になってましたのね?


「あっ……では、こうしましょう。語尾に『にゃ』を付けてくださいません?」

「はい? 意味が分からないよ、リーナ」

「その方がかわいいのでモフり甲斐があるのですわ」

「僕にメリットがないよ! 恥ずかしいだけじゃないか。そうだなぁ……リーナも『にゃ』を付けるのなら、するよ」

「えっ? 私がにゃ……うーん、それをすれば、レオもしてくれますのね?」


 ウンウンと頷くレオですが悪戯っ子ぽい目をして、見つめてくるのが気になります。

 何か、意味があるのかしら?

 ただ、そこに私を貶めよう、いじめようなんて、意図がないのは分かっています。

 ここは敢えてレオの策に乗ってあげるのも悪くないかもしれません。


「分かりましたにゃ?」

「ぐはっ、かわいい」


 自分で言って、恥ずかしくて死ねそうなのはなぜでしょう。

 顔から火が出るなんて言いますけど、嘘ではなかったのですね。

 あぁ、もう!

 レオはベッドから転がり落ちて、床の上でもゴロゴロと転がっています。

 何ですの?


「レオ、大丈夫ですの……にゃ?」」


 だから、これ、言っている本人が傷つきません?

 心にダイレクトなダメージが入ってくるのですけど。

 レオは転がり続けているので身体にダメージが入ってないか、心配ですわ。


「『にゃ』はもう、やめよっか」

「え? 本当にやめてもいいにゃ?」


 さすがに床で転がりつかれたのか、レオは荒い息遣いでへたり込んでしまいました。

 心配になって、馬乗りになって、小首を傾げながら、そう言うとレオの鼻から、赤いものがツゥーと二筋も垂れたのです。

 珍しいですわね、両方から出るなんて。


「リーナ、もうやめて、僕のHPなくなるから! せめて、何か着てよ!」

「ん? ええ!?」


 すっかり忘れていました、服を着てないままだってこと。

 それなのに馬乗りになって、しかも『肌の感触が気持ちいい』と感じていたのです。

 はしたないにも程がありますわ。

 あぁ、もう!


「大丈夫にゃ。レ・オ・に・ゃ・ん」


 はい。

 もう恥ずかしさで自爆して、意識を失うことにしました。

 これは負けではありません。

 戦術的な撤退なのですわ。

 人間はあまりに恥ずかしいと気を失えるものですから。

 失ってもいいのです!


 はぁ。

 もう記憶の底に封印しておきましょう。

 忘れましょう、私!

 この時、焦るあまり、大事なことを忘れていたのです。

 いくら私が忘れようともレオが覚えているということを……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る