第44話 いつ、するの?今でしょ

「姉さま、見て。壱号機が歩けるようになったんだよ」


 ライラが嬉しそうに見せてくれたのは三十センチくらいの大きさのお人形さんだった。

 見た目は作り物の騎士といったところ。

 頭から爪先まで銀で彩られた鎧一式に身を包み、右腕の上腕から先は五本指の掌の代わりに剣のように先端が尖っていた。

 左腕には円状の盾ラウンド・シールドが装備されていて、頭には一本の角が頭頂部から伸びている。

 騎士の姿をしたお人形さんは歩くというには少々、たどたどしい足取りで本当にゆったりと一歩ずつ、歩みを進める。

 見ているとつい手を出して、助けたくなるくらい危うい様子なのだが、これでも大分、ましになった方なのだ。

 正直、対応に困っているとはライラには言えない。


「大分、前よりも歩けるようになったわね。でも、これではあなたの考えているものに程遠いのでしょ?」

「うん。これは単なる試作だからね。僕はもっと人に近くて、人を守れるモノを作りたいんだ」

「あなたなら、きっと出来るわ」


 ライラは幼い頃から、ちょっと変わった子でした。

 女性しか継承権を持たないオルレーヌに王子として、生まれてしまったが為に王女として生きなければいけなかった。

 だからって、その影響で変わったという訳でもないようでどうやら元々そういう星を生まれ持った子なのだ。

 剣術や淑女教育には興味を示さないで部屋に籠って、何をしているのかと思ったら、ひたすら魔道具を分解したり、製作したりしている。

 この国は魔力を重んじない。

 むしろ、魔法を軽んじている風潮すらある。


 今世のユーリアという王女の身体には欠片ほどの魔力も無い。

 魔法で全て、解決する生き方をしてきた私にとって、新しい生き方に慣れるのは非常に困難だった。

 魔道具と呼ばれる魔法や魔力が前提とされる道具が軽視されるのも当然の風潮。

 王族の一員であるライラがそれに興味を示すこと自体、異端と見られても仕方のないことだったのだ。

 だが、女王である母もそれを咎めることなく、ライラの思うがままに振舞っていい環境を整えてくれた。

 それが男として生まれたライラへの贖罪であるかのように。


 🦁 🦁 🦁


「また、変な夢見た?」


 恐る恐る瞼を開くと心配そうに私を見つめるルビー色の瞳と視線が交差しました。


「ええ。妹……いえ、弟の夢でしたの」

「その割に難しい顔になってるけど?」

「それはえっと。レオはこう、大きいのが『えいや!』と動いたり、『やー!』と戦い合うのが好きかしら?」

「はい? 大きいのがえい? やー? いまいち、話が良く分からないよ」


 頬杖をついて、考えこむレオがかわいいのですわ。

 あの頭をワシャワシャしたいですけど我慢です。

 ここは落ち着いて、男の子は大きいのが戦ったりするの好きなのかどうかということを聞かなくてはいけません。


「ロボット……そう、あれはロボットでいいのよね。レオもロボットが戦ったりするのお好きでしょう?」

「物語にもよるけど好きか、嫌いかって言ったら、好きかな。それと何の関係があるのかな?」


 あれは間違いなく、とても好きな物を語るときの彼の表情ですわ。

 ライラはともかくとして、レオがロボットを好きなようね。


「弟はそういう物を作りたかったのではないかしら? あの子、人を傷つけることを極端に恐れていたのですけど、誰かが傷つけられることをそれ以上に嫌ってましたの。ですから、趣味の魔道具作りを生かして、皆を守りたいと思ったのではないかしら?」

「まさか。この世界でロボット作ろうとした?」

「いえ、そこまでは。最後に目にしたモノでもまだ、人間くらいのサイズで限界でしたもの」


 ユーリアだった頃の記憶に残っているのは成年男性と同じくらいの大きさがあり、滑らかに歩けるようになったそのモノの姿です。

 ライラは確か、魔動騎士アルケインナイトと名付けていました。

 いずれは国を守れるような大きな物を作りたいとも言っていたわね。


「ひょっとしたら、魔動騎士アルケインナイトを動かす……もしくは何か、細工を施す為に転生者の知識を必要としていたという可能性はないかしら?」

魔動騎士アルケインナイトって?」

「弟がロボットのようなモノにそう名付けていたのですわ」

「そうなんだ。魔力で動く、自立型のゴーレムってところなのかな」

「近いですわね。彼はゴーレムよりも賢く、守ることに特化したものを目指していたわ。あの子は優しい子でしたから。レオみたいにね」


 自分が褒められると恥ずかしがって、頬を赤らめるレオもかわいいですわ。

 押し倒して、頭をワシャワシャしてもいいかしら?

 いいえ、駄目ですわ!

 この話の流れでそんな行動をとったら、変な女と思われてしまいますもの。


「そんな人が今回みたいな事件の黒幕って、変だよね」

「ええ、おかしいとは思いますの。ですが人は時間の流れで変わる生き物でもありますから……って、レオ?」


 あら?

 おかしいですわね。

 真面目な話をしていましたのに押し倒されたのはなぜかしら?

 私は押し倒すのを我慢したのにおかしいですわ。


「どんなに時が流れても僕達は変わらないよ?」


 そう言われて、少し乱暴に唇を奪われたら、抵抗なんて出来るはずもなくって。

 彼の舌が私を求めるように歯列を割って入ってくるから、応えるように舌を絡めて、何度も口付けを交わします。

 互いの唾液が混ざり合って、頭が熱にうなされたような変な感覚を覚え、全身から力が抜ける錯覚に陥ったのです。

 レオはそれに気付いたのか、耳元で囁くように……


「まだ、朝早いし、少しくらい平気だよね?」


 そんな風に言われたら、断れませんわ。

 だって、さっきのキスでもう腰が砕けて、起き上がれないんですもの。


「ら、ら、らいじょうぶれしゅわ」


 どうして、そんなに慌ててしまったのかは自分でも分かりません。

 多分、彼のモノが自己主張するように当たっていたせいですわ。

 きっと、そのせい!


『大丈夫じゃないでしょう? 今、慌ててすることじゃないのよ、リリアーナ』

『何、馬鹿なことを言ってるの? いつ、するの? 今でしょ』

『馬鹿はあなたでしょ。焦って繋がりを持たなくても関係は永遠のものなの。自信を持ちましょう』

『そういう夢と現実を一緒にしては駄目だって、気付かないと。だいたい、妻たる者、夫に求められたら、応じるべきではないの?』

『それはそうですけども。時と場合というものがございますでしょう?』


 などと私の頭の中で黒い欲望と白い理性が葛藤していて、答えが出ないのです。

 でも、レオはそんな猶予を与えてくれないみたいで。

 彼の欲望にたぎった熱いモノが閉じられた秘裂の入口をこじ開けようと熱杭を当ててから、ゆっくりとなぞると……


「い、痛いっ、痛いってばぁ!」


 思わず、反射的にレオの背に爪を立ててしまいました。

 あまりに痛かったから、つい我慢が出来なかったのです。

 お風呂での苦い思い出を蘇らせるのに十分過ぎる痛みだったんですもの。


 それでもレオはやめてくれなくて。

 堅くて熱いモノをぐっと押し入れてくるのです。

 まるで体の中から、裂かれるような痛みは我慢しているのに辛くて、終わりが見えません。


「やぁ。痛いって、言ってるのにぃ」

「ごめん、リーナ……でも、もうちょっとなんだ。あとちょっとだけ」


 もうちょっとって、何ですの?

 痛みで滲む視界に繋がっている部分が目に入りました。

 レオの凶悪なほどに屹立したモノの先端はきのこのように太くなっています。

 肉を裂くようにジリジリと侵入を試みるレオですけど彼も息遣いが苦しそうなのです。

 私は激しい痛みで息遣いが荒くなっていますけど、彼も痛いのかしら?


「ご、ごめん……リーナ。無理。出そう。うっ」

「え? ち、ちょっとレオ!?」


 先が太くなったきのこみたいな部分はまだ、半分も挿入はいっていません。

 私の秘所が狭いのか、彼のが大きいのか。

 レオの呻くような声とともに怒張の先端から、熱い精が迸りました。

 中に激しく、放たれる彼の愛を感じて、そっと意識を手放すことにしました。


 ちゃんと最後まで出来なかったから、レオは悔しいのでしょうね。

 それとも少しくらいは気持ちいいって感じてくれました?

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