第30話 仕返しされました

 お風呂できれいに洗いすぎたせいですの?

 にゃんこちゃんはすっかり、何かが抜け落ちた……魂が抜けたみたいって、こういう状態なのかしら?

 呆けていて、気合が入ってませんの。

 折角、アンが美味しそうな夕食を差し入れてくれましたのに残念ですわね。

 でも、このまま食べないと育ち盛りによくないですわ。


「にゃんこちゃん、ちゃんとご飯食べましょうね」


 本当は股関節に良くないのですけど、ベッドの上にぺったりと座り込み、にゃんこちゃんを抱っこして、夕食のステーキを口に運んであげます。

 ボケッとしている割にお肉がくるとちゃんと『あ~ん』をして待っているのです。

 その仕草がかわいいくて、癒されます。

 たっぷり食べさせて、ぽっこりしたお腹をもふもふしたら、最高ですわ!


 私は三、四切れくらいを食べただけで充分でしたから、残りを全部にゃんこちゃんに食べさせてあげました。

 お口をナプキンで拭いてあげて、ぎゅっと抱き締めると温もりを感じられて、幸せです。

 ただ、お風呂でちょっと頑張り過ぎたせいなのでしょう。

 私もにゃんこちゃんもお腹が満足して、眠気に負けてしまったのです。


「ふぁ、にゃんこちゃんも眠いのでしょう? 寝ましょ」

「うにゃにゃあ」


 否定的な鳴き声が聞こえた気がしますけど、問答無用で抱き締め横になりました。

 だって、眠いんですもの。

 にゃんこちゃんを抱っこしていると温かくて、余計に眠くなってくるのが悪いのですわ。

 それにとてもポカポカして、安心出来るんですもの。

 二人でこうして寝ていたら、嫌な夢を見てうなされることもないわ。


「おやすみなさい、レオ」


 🦁 🦁 🦁


 差し込む日の光に照らされて、ゆっくりと意識を取り戻して、瞼を開きます。

 胸に抱きしめて、一緒に寝た濡れ羽色のにゃんこちゃんの姿はそこにありませんでした。

 慎ましやかな胸の谷間に顔を埋めているのは愛するあの人の顔。


「そうよね。そうだとは思ってましたのよ?」


 もう少し、にゃんこちゃんでいてくれても良かったと思うのは我が儘かしら?

 外に出れなかったり、不自由なことはあったものの結構、楽しめたのですけど、レオはどう思ったのでしょう。

 気になりますわ。


 それにしても何が起きたのかしらね。

 不思議なことが起きるのはいつものことですから、気にしないとしてもレオがにゃんこちゃんに変身する能力なんて、あったかしら?

 元々、黒獅子に獣化して戦場を支配する戦神でしたけれど、にゃんこではないわね。

 あっ……もしかして?

 一つの可能性に行き当り、気付いた時には目を覚ましたレオに組み伏せられていたのです。


「おはよう、リーナ。昨日はお愉しみだったようで何よりですよ、お姫さま」

「え、ええ。おはようございます、レオ。とても楽しかったですわ。あの……その手に持っているのは?」


 ニヤッと薄っすらと微笑んでいるのが怖いですわ。

 身体を動かそうにもしっかりと上に乗かられているので身動みじろぎ一つ出来ません。

 彼の左手によって、両手首が頭の上で抑えつけられているので辛うじて動かせるのは足だけです。

 足癖が悪いのを自覚してはいますけれど、彼を蹴飛ばそうとは思いませんし、右手に握られているリボンが気になって仕方がありません。


「これ? 勿論、じゃじゃ馬のお姫さまをこうするものだよ」

「ふぇ!?」


 両手首をリボンで縛り上げられてしまって、彼の目前に無防備な胸を晒すことになってしまいました。

 いくら私の胸が慎ましやかと言っても両手が上になっていると少しくらいは喜んでもらえると思うほどに強調して見えると思うのです。

 って、そんなことを考えている余裕はないのでした。


「レ、レオ? こういうのはいけないと思うの。いくら、あなたがと言っても私たちにはまだ、早く……んっ」


 言葉を全て口にする前に彼の唇に遮られました。

 あんなことを言っておきながら、私からも求めるように互いに舌を絡め合って、唾液を交換するものだから、離れていく彼との間に銀色の橋が出来てしまって。


「ひゃっ」


 何か、とても熱いモノが当たってますけどまずくありません?

 今までは大丈夫。

 そう例え、結ばれたとしても私が乙女でなくなるだけでしたから。

 問題はありますのよ?

 お祖母さまとお母さまにどうやって、言い訳するかと考えないといけませんわ。

 でも、そうではなくなるのです。

 もっと大きな問題が起きるかもしれません。

 できちゃった婚というのが日本にはありましたけど、ここはアースガルドですわ。

 祝福されるとは言い難いですわね。

 それとも許してもらえるのかしら?


 そうですわ。

 にゃんこちゃんになったのは恐らく、彼の身体が大人へと成長したという証。

 だから、にゃんこちゃんの時に通じていたのよ!

 面白がって、調子に乗って、いっぱい出させたけど大丈夫かしら?

 指でちょっと刺激するとドロドロのが出てくるんですもの。

 何だか、癖になりそうですわ。

 だって、レオの顔が切なくて、蕩けているみたいでかわいかったんですもの。


「でも、リーナも望んでいたよね」

「それは……その……そうですけど。今は朝ですのよ? もう少し、ロマンチックな方がいいですわ」


 プイと顔を背けて、ちょっと拒絶する姿勢を見せる私なのです。

 本当は抑えられて、縛られて、無理矢理されそうになっていることに興奮して、感じちゃっているのは秘密ですわ……。

 バレたら、絶対このまま、流されてしまうもの。

 初夜はもうちょっとロマンチックな方がいいと夢を見てもいいでしょう?


「ちょっと昨日の仕返しをしただけだよ」


 ニコッといつもの優しい微笑みを向けてくれ、リボンをほどいてくれました。

 『え? 本当にやめるんですの?』って、ちょっと残念に思ってしまった私ははしたないのかしら?

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